惨殺の地 
畑は見るも無残な様相を呈していた。
…まぁ8割方わたしがやったんだけど、護衛はしっかりと果たしたんだし文句を言われる筋合いも無いと思う。

「わはは!どうだ、見たか俺の剣捌き!」
勝って高揚したのか弟の方がさっきから大騒ぎしている。
ちなみにこの弟、あまり何もしていない…んだけどそれは言わないでおいてあげよう。
かわって兄の方は努めて冷静。見た感じ感情の揺らぎはなさそう。
随分兄弟でも性格が違うわね。
あとはこの兄弟を連れてあの酔いどれ老人に二人の無事と怪物退治が終わったことを伝えれば終わりだ。

「おぉ!おぉぉ!二人とも無事だったか!」
感極まった酔いどれ老人はお礼とばかりに氷の魔剣を一振り譲ってくれた。
こんなモノ持ってるなら兄弟のどっちかに渡しときなさいよね…。
正直わたしはそんなに剣は得意じゃないけど、まがりなりにも魔剣。護身には役に立つんじゃないかしら?
役に立たなくても売ればそこそこの値が付くでしょうし、有難く貰っときましょ。

そしてわたしは修道院で貰った馬に跨り街道を進む。
スキングラードが見えてきた辺りで日も暮れてきた。
今日のところはこの辺で一泊、かな。
そう思ってスキングラードの門を潜ったところで声を掛けられた。

「…こっちだ。君に頼みがある」
声の主はわたしと同族、ボズマーの男。
「どうしたの?」
「ここじゃ誰かに聞かれてしまう。深夜、聖堂の裏に来てくれ」
この男…嫌な雰囲気がする。
どうする?
のこのこ顔を出せばまず間違いなく面倒な話になるだろうし、断ったら断ったで絶対揉め事になる…そんなタイプだ。
つまりどっちに転んでもロクなことは無い、ってことか。
一体何なのかしら、最近こんなのばっかりじゃない?
取り敢えずわたしは話だけ聞くことにした。

宿を取り深夜になってからステンダールの聖堂裏へ。
「来てくれたか。やはり俺の見立ては間違ってなかったな」

グラアシア 


男はわたしの姿を見るや表情を引き締め話し始めた。
結構長い話なので要約すると、どうもこのグラアシアを名乗る男、とある機関に狙われているらしい。
その機関と言うのが何なのかはさっぱり分からなかったけど、一つだけ確定したことがある。
この人、中二病だ。

中二病。聞いた事のある人もいるのではなかろうか?
わたし達ボズマーの間で問題になっている深刻な社会問題で、思春期になると身体に異常は無いんだけど変な妄想に憑りつかれる恐ろしい病なのだ。
男性で約4割、女性でも2割の人が罹ってしまう。
ちなみにわたしも昔これに罹っていた経験があるんだけど、何とか回復に至った。
しかしどう言うわけか男性がこれに罹ると一生治らない。女性は治るんだけどね。不思議。

でもこの中二病、正直言うと治らない方が幸せなんじゃないかと、ふと思うこともある。
たまにわたしも昔の自分を思い出して悶絶する程恥ずかしい思いをすることがあるし。
多分治らなければそんな思いをすることも無く、未だに魔法を使うときにノリノリで「ムーンプリズムパワー!」とか叫んでいたんだろうと…思うとやっぱり治って良かったような気がする。
あぁ!もう!ヘンな事思い出しちゃったじゃない!

とにかくこの人は何かの組織に監視されてるんじゃないかと疑念を感じていると言い張って、わたしにその「機関の関係者と思われる人」を逆に監視して欲しいと言うのだ。
どうしようかなぁ…わたしはちょっと断った時のことを想像してみる。
……多分わたしもその「機関の関係者」扱いされてねちねち付き纏われるんだろうなぁ…。
わたしは諦めて一応引き受けることにした。
はぁ、何でこうなっちゃうかな。