わたしは見慣れない薄暗い部屋の中で目を覚ました。
え、っと…
寝ぼけた頭で記憶を辿ろうとする。
が向かいの部屋のダンマーがわたしに気付いて
口やかましく下卑た言葉を投げかける。
うるさいなぁ。

部屋のドアは鉄格子、そして向かいのダンマーの部屋も
鉄格子。つまりは牢屋。

そうだ、あれは昨夜街道を歩いてた時だった。
本当はもっと早く宿場に着くつもりだったんだけど、
珍しい薬草が生えているのを見かけて、釣られて林に入ったのが
まずかった。

山の中で盗賊団と出くわしてあちこち逃げ回りながら応戦してた。
それで何時の間にか街道に出てきたのは良かったんだけど、
そこを通りかかった巡回の衛兵がいたのが不幸の始まりだった。
普通なら盗賊団を追い払ってくれる有難い存在なんだけど、
わたしは丁度矢を射たところだった。
「あっ…」と思っても撃った矢は止まるはずも無く…。
本来は盗賊に向けて撃ったはずの矢は射線上に飛び込んだ
衛兵の背中に…。
盗賊は衛兵の加勢もあって追い払えたんだけど…

「スタァァァップ!」
…怒られた上に逮捕されて、ここに至ることになったんだっけ。
あれは理不尽だと思う。
絶対不可抗力なんだけど、この国の衛兵は融通が利かない。
まぁちょっとした傷害罪扱いらしいから、明日には出所できると思うけど。

そう思っていたところに物々しい一団がやってきた。
そしてわたしの牢を開けて入ってくる。
一体何?
「邪魔だ。壁際に下がれ」
居丈高な衛兵に内心悪態を吐きながら従う。
ふと見ると衛兵に守られるように貴族っぽい老人が一人。
その老人はわたしを見るや、話しかけてきた。
「そなたは…ふむ、そう言う事か。ならば終焉も近いのだな」
勝手に訳知り顔な老人の話を聞くと、どうもこの人が
皇帝ユリエル・セプティムで、今は暗殺者の襲撃から逃げている
最中だと言う。

皇帝 


そしてこの牢でわたしと出会うことも予知夢で知っていたと。
しかもあろうことか、わたしには世界を左右する運命が待っている
なんてことまで言いだした。

そこまで話を聞いたところで護衛の衛兵が牢の壁にある仕掛けを
動かして隠し通路を開いた。
「急ぎましょう、陛下」
そして通路の先の暗闇に消えていく皇帝一行。
わたしはその一行に着いていくことにした。
ここで待ってたらその暗殺者と出くわすかもしれない。
そうなった時にわたしを見逃してくれる保証は無い。
「おかしな真似はするなよ?」
護衛の一人に釘を刺されるけど、それ以上は何も言われなかった。
脱獄扱いされるかもしれないと内心思っていたけど、杞憂だったようね。