糖尿病患者は無知だから、もっと患者教育が必要なんだって。

 

2型糖尿病患者は疾患知識が不十分(要登録)

 

 

ポルトガルからの報告。

解析対象は1,200人で、平均年齢65.6歳、女性50.1%、BMI29.5、罹病期間10.7年、HbA1c7.2、インスリン療法患者39.9%、合併症有病率39.4%だった。

 

調査には、米ミシガン大学で開発された糖尿病知識テスト(Diabetes Knowledge Test;DKT)を用いた。前半は全ての糖尿病患者に対する14項目の質問、後半はインスリン療法を行っている患者に対する9項目の質問という構成らしい。

 

どんな質問なのか興味があったので、論文を見てみた。

質問の後の数字は、左側が非インスリン療法の患者、右側がインスリン療法の患者の回答数(カッコ内は%)を示している。

全体的な正答率は、非インスリンの患者は51.8%、インスリン療法の患者は58.7%で、後者が有意に高かった(P<0.05)。

 

さあ、あなたもやってみよう!

(それぞれの群で一番多かった回答を赤で、それ以外で高かったものをオレンジで示した。正解は†がついている選択肢)(茶色はわたしの感想)


DKT-01: 糖尿病食は           
− ほとんどの人が摂っている食事        66 (9.2)    49 (10.2)
− ほとんどの人にとって健康的な食事†      503 (69.8)    353 (73.7)
− ほとんどの人にとって炭水化物が多すぎる食事         28 (3.9)    22 (4.6)
− ほとんどの人にとってたんぱく質が多すぎる食事         83 (11.5)    47 (9.8)
− 無回答        41 (5.7)    8 (1.7)

「糖尿病食は誰にとっても健康食!」というのは、万国共通のようだ。


DKT-02: 次のどれが一番多く炭水化物を含んでいるか?           
− ベイクドチキン         105 (14.6)    81 (16.9)
− スイスチーズ         73 (10.1)    72 (15.0)
− ベイクドポテト†         412 (57.1)    266 (55.5)
− ピーナッツバター         75 (10.4)    47 (9.8)
− 無回答         56 (7.8)    13 (2.7)

「ポテト」の回答が一番多かったものの、正解者が6割に満たなかったとは…

しかも、インスリン療法の患者は、ベイクドチキンやスイスチーズを選んだ人が比較的多かった。

なぜだろう?


DKT-03: 次のどれが一番多く脂肪を含んでいるか?            
− 低脂肪牛乳†         285 (39.5)    185 (38.6)
− オレンジジュース         32 (4.4)    23 (4.8)
− トウモロコシ         129 (17.9)    108 (22.5)
− はちみつ         215 (29.8)    145 (30.3)
− 無回答         60 (8.3)    18 (3.8)

「低脂肪」の言葉に惑わされてしまったのだろうか?

ドロッとしたはちみつは、脂肪分が多そうな感じがしたのかな?


DKT-04: 次のどれが"free-food"(摂取量を気にしなくていい食品)か?           
− 甘味料を含まない食品         311(43.1)    207 (43.2)
−糖尿病患者用の食品         207 (28.7)    120 (25.1)
− ラベルに「砂糖不使用」と書かれた食品         84 (11.7)    60 (12.5)
− 1食あたり20カロリー未満の食品†         78 (10.8)    82 (17.1)
− 無回答         41 (5.7)    10 (2.1)

"free-food"の意味を理解しないと間違いそう。わたしも「なにが"フリー"なの?」とよく分からなかった。ネットで調べようとしても、キーワードを"free-food"とハイフンを入れても、ハイフンを無視して"free food"での検索になってしまった。これだと「無料で配布される食料」になってしまう。CareNetの記事に「摂取量を気にしなくていい食品」と説明があったので、そういうことかとやっと分かった。

これ、もしかして"sugar-free"とかと間違えた人が多かったんじゃないかなぁ?

"free-food"というのは日常的に使われる言い回しなんだろうか?(オリジナルの質問は英語で作成されているが、この研究ではポルトガル語版が用いられている)

あまり使われることのない言い回しだった場合、患者が「無知」「勉強不足」というのとはちょっと違う気がする。


DKT-05: HbA1cは過去どれくらいの期間の平均血糖値を調べる検査か?
− 1日      60 (8.3)    43 (9.0)
− 1週間      61 (8.5)    39 (8.1)
− 6〜10週間†      201 (27.9)    182 (38.0)
− 6ヵ月      267 (37.0)    119 (24.8)
− 無回答      132 (18.3)    96 (20.0)

インスリン療法中の人は正解の「6〜10週間」を選んだ人が一番多かったけど、「6ヵ月」を選んだ人もかなり多かったし、無回答の人も多かった。非インスリンの人は「6ヵ月」を選んだ人が一番多かった。

ポルトガルの臨床現場では、あまりHbA1cについての説明がないのだろうか?

日本の場合は「1〜2か月の指標」とされているから「4〜8週間」となる。一番近いのは「6〜10週間」だけど、真面目な人は回答に困ってしまうかも?


DKT-06: 血糖値を測定する最適な方法は?
− 尿検査      35 (4.9)    35 (7.3)
− 血液検査†      548 (76.0)    379 (79.1)
− 尿と血液どちらも同等      111 (15.4)    62 (12.9)
− 無回答      27 (3.7)    3 (0.6)


DKT-07: 甘味料が入っていないフルーツジュースは血糖値にどのような影響を与えるか?
− 血糖値を下げる      63 (8.7)    37 (7.7)
− 血糖値を上げる†      428 (59.4)    340 (71.0)
− 影響しない      194 (26.9)    97 (20.3)
− 無回答      36 (5.0)    5 (1.0)

「甘味料が入っていない」という言葉に惑わされたのか、「血糖値に影響しない」と答えた人がそこそこ存在した。特に、非インスリンの人は正答率が低く、「影響しない」と答えた人が多かったようだ。


DKT-08: 低血糖の治療に使ってはいけないものはどれか?
− ハードキャンディー3個      133 (18.4)    77 (16.1)
− オレンジジュース1/2カップ      57 (7.9)    37 (7.7)
− ダイエットソフトドリンク1カップ†      92 (12.8)    51 (10.6)
− スキムミルク1カップ      383 (53.1)    300 (62.6)
− 無回答      56 (7.8)    14 (2.9)

スキムミルクは糖質よりたんぱく質というイメージが強かったのだろうか? しかも、インスリン療法の人の方が間違いが多かった。この調子だと、低血糖が起きたときにダイエットコーラを飲んでしまう人が多そうだな…

 

DKT-09: 血糖値を良好にコントロールしている人にとって、運動は血糖値にどんな影響を与えるか?
− 血糖値を下げる†      577 (80.0)    422 (88.1)
− 血糖値を上げる      37 (5.1)    23 (4.8)
− 効果なし      80 (11.1)    30 (6.3)
− 無回答      27 (3.7)    4 (0.8)

これ、人によっては「血糖値を上げる」場合もあるし、「効果なし」の場合もあるんだけどね。一般論としては、「血糖値を下げる」と答えるしかないよね。


DKT-10: 感染によって起こるのは
− 血糖値の上昇†      439 (60.9)    366 (76.4)
− 血統値の低下      46 (6.4)    25 (5.2)
− 血糖値に変化なし      135 (18.7)    61 (12.7)
− 無回答      101 (14.0)    27 (5.6)

これまでの質問の中で、わたしはこれが一番難問じゃないかと思ったんだけど、正答率が高いのにびっくり。インスリンを使っていない日本人2型糖尿病患者も、同じくらい正解するんだろうか?


DKT-11: 足のケアの最良の方法は
− 毎日観察して洗う†      577 (80.0)    422 (88.1)
− 毎日アルコールでマッサージする      12 (1.7)    7 (1.5)
− 毎日1時間浸す      45 (6.2)    16 (3.3)
− いつもより大きめのサイズの靴を買う      77 (10.7)    34 (7.1)
− 無回答      10 (1.4)    0 (0)


DKT-12: 低脂肪の食品を食べると、どのリスクが低下するか?
− 神経疾患      39 (5.4)    23 (4.8)
− 腎臓病      76 (10.5)    55 (11.5)
− 心臓病†      511 (70.9)    361 (75.4)
− 眼疾患      34 (4.7)    25 (5.2)
− 無回答      61 (8.5)    15 (3.1)


DKT-13: しびれやチクチク感はどの疾患の症状か?
− 神経疾患†      372 (51.6)    200 (41.8)
− 腎臓病      128 (17.8)    153 (31.9)
− 眼疾患      25 (3.5)    13 (2.7)
− 肝臓病      97 (13.5)    70 (14.6)
− 無回答      99 (13.7)    43 (9.0)

なぜかインスリン療法の人で「腎臓病」を選んだ人が多かった。不思議。


DKT-14: 通常、糖尿病と無関係なのは?
− 視力の問題      68 (9.4)    17 (3.5)
− 腎臓の問題      38 (5.3)    15 (3.1)
− 神経の問題      97 (13.5)    48 (10.0)
− 肺の問題†      448 (62.1)    391 (81.6)
− 無回答      70 (9.7)    8 (1.7)

 

以下は、インスリン療法をしている患者への質問。
DKT-15: ケトアシドーシスの徴候は?
− 震え 91 (19.0)
− 発汗 116 (24.2)
− 嘔吐† 21 (4.4)
− 低血糖 108 (22.5)
− 無回答 143 (29.9)

これ、明らかに「低血糖」と混同しているね。ケトアシのことをよく理解している日本人患者も少ないだろうし、これは仕方がないかも。

わたしも、ケトアシについて医師や看護師から説明を受けた記憶はないよ。

 

DKT-16: インフルエンザに罹った場合、なにを変更すべきか?
− インスリン量を減らす 16 (3.3)
− 水分摂取を減らす 22 (4.6)
− たんぱく質をもっと摂る 72 (15.0)
− 血糖値やケトンをいつもより頻繁に測定する† 348 (72.7)
− 無回答 21 (4.4)

ポルトガルでは、患者はケトン体の自己測定もしてるんだろうか?


DKT-17: 中間型インスリン(NPH)を使用した場合、インスリン作用の時間はどれくらいか?
− 1〜3時間 48 (10.0)
− 6〜12時間† 190 (39.7)
− 12〜15時間 97 (20.3)
− 15時間以上 65 (13.6)
− 無回答 79 (16.5)

ポルトガルのインスリン療法がどんな感じか知らないけど、中間型インスリンを使ったことがない患者が多いなら、この質問に答えるのは難しいと思う。わたしだって、ネットで調べないと2番目か3番目か迷って答えられないわ。


DKT-18: 昼食の直前で、朝食時にインスリンを打つのを忘れたことに気づいた。どうすべきか?
− 血糖値を下げるために昼食を抜く 8 (1.7)
− いつもの朝食前のインスリン量で打つ 119 (24.8)
− いつもの朝食前の2倍のインスリン量で打つ 7 (1.5)
− 血糖値を測定して、インスリン量を決める† 300 (62.6)
− 無回答 45 (9.4)


DKT-19: 低血糖(insulin reaction)が出始めたらどうすべきか?
− 運動 15 (3.1)
− 横になって休む 73 (15.2)
− ジュースを飲む† 328 (68.5)
− 速効型インスリンを打つ 26 (5.4)
− 無回答 37 (7.7)

"insulin reaction"という意味がよく分からなくて、「インスリンが作用し始めたらどうすべきか?」という質問かと思ってしまった。"insulin reaction"とは、インスリンが過剰に効きすぎた状態を指すんだね。


DKT-20: 低血糖(low blood glucose)の原因として考えられるのは?
− インスリン過剰† 309 (64.5)
− インスリン不足 61 (12.7)
− 食べすぎ 32 (6.7)
− 運動不足 55 (11.5)
− 無回答 22 (4.6)


DKT-21: 朝のインスリンを打ったのに朝食を抜いたら、血糖値は通常どうなるか?
− 血糖値が上がる 68 (14.2)
− 血糖値が下がる† 350 (73.1)
− 変わらない 24 (5.0)
− 無回答 20 (4.2)


DKT-22: 高血糖の原因は?
− インスリン不足† 295 (61.6)
− 食事を抜いたこと 67 (14.0)
− おやつを遅らせたこと 74 (15.4)
− 尿中に大量のケトンがあること 23 (4.8)
− 無回答 20 (4.2)


DKT-23: 低血糖(insulin reaction)を引き起こすものは?
− 激しい運動† 371 (77.5)
− 感染 26 (5.4)
− 過食 23 (4.8)
− インスリン不使用 54 (11.3)
− 無回答 5 (1.0)

 

テストはこれで終了。

 

全体の正答率はインスリン療法の患者の方が高かった。

それ以外の特徴として、非インスリン、インスリン療法どちらの群でも、正答率が低かったのは

・65歳以上

・低学歴

・一人暮らし

非インスリン群では、罹患歴が3年以下の方が有意に正答率が低かった。一方、インスリン療法群では、3年以下でも3年より長くてもどちらも正答率は高かった。

やはり、インスリン療法は低血糖リスクが大きく、自分の状態によってインスリン投与量を決める必要があることから、早くから患者は知識を持つ必要があるのだろう。

 

すごく不思議なのが、「患者がどこで治療を受けているか?」だ。

ポルトガルの医療についてよく分からないのだが、患者は「医療センター "Health center"」「病院の外来 "Hospital ambulatory"」「糖尿病専門病院 "Diabetes specialized hospital"」のいずれかで治療を受けるようだ。

 

非インスリン患者 人数 正答率

医療センター 448人    0.55 ± 0.18

病院の外来 76人    0.65 ± 0.12

糖尿病専門病院 197人    0.49 ± 0.13

 

インスリン療法患者 人数 正答率

医療センター 82人    0.61 ± 0.18

病院の外来 184人    0.67 ± 0.11

糖尿病専門病院 213人    0.54 ± 0.14

 

非インスリン患者は医療センターを受診している割合が多く、インスリン療法の患者は専門病院を受診している割合が多いようだ。

そして、テストに正解したのは病院の外来を受診している患者が多く、専門病院を受診している患者は正答率が低かった。

 

なぜこんなことに???

普通に考えたら、糖尿病専門病院の方がしっかり患者教育をしてそうなのに。

 

日本だと、どんな風に分類分けができるかな。

・内科出身ではない医師が主治医の患者

・糖尿病専門医ではない内科の医師が主治医の患者

・糖尿病専門医が主治医の患者

こんな感じ?

結局のところ、患者の知識レベルって、主治医の違いよりも患者自身の積極性が重要だよね。今の時代、自分で調べようと思ったらネットですぐ調べられるのだから。

 

ただし、「知ってる」ということと、「実行する(特に、食事療法、運動療法」ことは別物なのだw

わたしだって、もっとバリバリ運動した方がいいことくらい、知ってるよ。知ってるけどしてないだけ。

食べちゃいけない物の知識だってあるよ。でも、食べる。

昨日から、ミスドでフロマージュ・ドが販売されてるよね。

買うよ!絶対、買う!

こんなの、2型糖尿病患者が食べてはいけない典型的な食品だ、って知ってるよ。

それがどうした!

食べるぞ、食べてやるー!w