「バイブル」とは(ここ)
[1] 聖書。キリスト教の聖典。
※文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉三「一冊の『バイブル』を読むの外に」
[2] 〘名〙 転じて、ある分野で権威ある書物。また、個人が常に人生の指針として読み返す一冊の本。
※非凡なる凡人(1903)〈国木田独歩〉上「西国立志編は彼の聖書(バイブル)である」
(精選版 日本国語大辞典)
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わたしはキリスト教徒ではないので、「バイブル」という単語は主に[2]の意味で用いる。とは言え、人生の指針として常に読み返すような本なんて、そうそう巡りあわないけどね。
もっと軽い感じで「バイブル」と呼んでいいなら、たとえば糖尿病について調べたくなってから購入した書籍たちが挙げられるかもしれない。
↓こんな感じ。
写真のほかにも、
・Newton 2018年12月号「最新科学にもとづく食と健康の正しい知識」
・実験医学 2019年3月号「食の機能実行分子のサイエンス 食品が生体に与える影響の理解と制御」
・糖尿病プラクティス 2019年3・4月号「糖尿病と時間生物学-生活習慣病としての糖尿病と体内時計との関連-」
があるけど、どうもわたしは食とか栄養学よりは、生体内・細胞内でのメカニズムを知る方が好きなようで、購入するのはどうしてもそっち系統の総説を優先する(だって、専門書ってお高いんだもん…orz)。自分の治療に役立つ情報がほしいというよりは、もっと純粋に「糖尿病って一体何なんだろう?」というのを知りたい。知ってどうなる?と自分でも思うけど、知的好奇心を満たすのは単純に楽しいんだよね。
糖尿病の治療を開始した2017年6月当時のわたしの知識は、それこそ「インスリンは血糖値を下げるホルモン、グルカゴンは血糖値を上げるホルモン」くらいだった。
まあ、もともと細胞内情報伝達系のバックグラウンドがあるので、インスリンの受容体がチロシンキナーゼ型であることは知っていたし、その研究者として春日雅人氏や門脇孝氏の名前はよく覚えていたけれども、そんなの30年も前の知識だ。
治療を始めて1年ほどは、糖尿病について調べようとか全く考えもしなかった。医師に言われるまま、ぼんやりと治療を続けていた。
しかし、過去記事にも何回か書いたけど、自分が用いている「GLP-1受容体作動薬」というものにふと興味を持って、「GLP-1ってなんやねん?」とネットで調べたことがきっかけとなり、糖尿病研究の面白さに気づいたのだった。
日本語でネットで「GLP-1」を検索しても、ゴミみたいな情報ばかりが引っかかってきて、全く役に立たなかった。ただ、GLP-1とはインクレチンであり(インクレチンという単語も初めて知った)、正式にはglucagon-like peptide-1ということが分かった。
グルカゴンに似たペプチド?
ペプチドと言うからには、GLP-1遺伝子というのがあるはずだ。
遺伝子配列、アミノ酸配列を調べたら、どれくらいグルカゴンと似ているか分かりそうだ。
そう思って、GLP-1 geneやglucagon-like peptide geneとかのキーワードでNCBIのサイトを検索してみたけど、どうも上手く引っかかってこない。ヒットするのはglucagon geneとか、glucagon receptor geneとか、GLP-1 receptor geneばかりで、GLP-1 geneそのものがヒットしてこなかった。
ここでピンとくればよかったんだけど、なぜかこのとき、自分の検索の仕方が悪くてヒットしないんだろうと思い込んでしまった。
「インクレチン」やら「GLP-1」やら、自分の知らない間に新しいホルモンが見つかっていて、それが治療薬に用いられるほど糖尿病に重要な役割を果たしているのだなぁ。こりゃ、最近の糖尿病の知見をきちんと知っておいたほうがよさそうだ。
そこで、教科書的なものがほしくなり、探したところ、
・実験医学増刊号 2017年2月号「糖尿病研究の“いま”と治療の“これから”」(写真 上段左)
を見つけた。
実験医学は学生時代に親しんだ日本語総説雑誌のひとつだ(ほかに「細胞工学」や「蛋白質核酸酵素」があったが、いずれも休刊してしまった)。この特集号は2017年発行なので、2018年当時ではまだわりと新しかった。
こういう最新研究についての総説類はあっという間に時代遅れになるから、何年も前のものはあまり参考にならないことが多い。当時でもすでに1年半前の発行だったけれど、糖尿病について網羅的に書かれているようだったし、思い切って買ってみたのだった。
いや〜、買って正解!
糖尿病のことがいろいろ分かって、とても面白かった。
そして、知りたかったGLP-1についても疑問が解けた。
GLP-1遺伝子なんてなく、グルカゴン遺伝子が正体だったのだ!
そりゃ、NCBIで検索してもglucagon geneしか引っかかってこないわけだよ…orz
スゲーな、グルカゴン遺伝子!
そう思って書いた過去記事がある。
でも、今読み返すと、当時はまだかなり抑えた筆致だったのね。
今だったら、もっと盛り盛りに書いてると思うわw
ものすごく興味深かったのが、糖尿病患者ではβ細胞が細胞死を起こして減少してしまう(から、インスリン分泌が低下してしまう)と思われていたけれど、実際には全てが死んでしまったわけではなく、脱分化や分化転換を起こしている可能性があるという点だ。
β細胞としてインスリンを分泌していたはずが、いつの間にかグルカゴンを分泌し出すだと…? なんてことだ!?
その驚きを表現した過去記事がこちら。
ともかく、GLP-1がグルカゴン遺伝子産物であることに驚いたわたしは、「グルカゴン(遺伝子)スゲー!」となった。この特集号ではグルカゴンやGLP-1についての記述は少なく、もう少し踏み込んで知りたくなった。グルカゴンについて書かれた手頃な総説がないかと探したところ、ちょっと古いけどよさげなものが見つかったので、迷わず購入した。
・実験医学 2015年4月号「グルカゴン革命 糖尿病の真の分子病態を追え!」(写真 上段真ん中)
これを読んで、2012年にUngerらによって「グルカゴン中心説」(ここ)が発表されていたことを知った。しかし、グルカゴンの測定法には問題があり、Ungerらの研究も額面通りには受け取れないことも知った。また、グルカゴン分泌におけるインスリンの「スイッチ・オフ」説も知った。(ここ)
なので、わたしの中では、糖尿病のメカニズムを知るためにはインスリンだけでなくグルカゴンも大事。ただし、グルカゴンの研究は一筋縄ではいかないし、グルカゴンの作用も単に血糖値を上げるというものではない、という認識が定着した。
というわけで、わたしの中ではこの2冊がバイブル的な扱いとなっている。
そんな中、2019年夏になって、糖尿病ブログ界隈で突如グルカゴンブームが起きた。
それは、グルカゴンについての本が出版されたからだった。
・稙田 太郎 著 2019年4月25日発行「糖尿病はグルカゴンの反乱だった-インスリン発見後、なぜ未だに糖尿病は克服できないのか」(最初の写真 下段右)
普段、わたしはこういった著書が1人の書籍は読まないんだけど、あまりにも話題になって盛り上がったので、自分で内容を確かめたくて買って読んでみた。(著者が一人のこういう類の本を読まないのは、著者のバイアスが入りまくるから。なので、新聞下部の広告欄でよく見かけるような「糖尿病がみるみるよくなる!」などのタイトルがついた書籍なども全く興味がない。いや、野次馬的にはパラパラと見てみたい気持ちはあるけど、自分で買おうとは思わない)
読んでいるといろいろと思うところがあり、読書感想文的なブログ記事をつらつらと書き連ねたのだった。
それらの記事は、「グルカゴン」カテゴリにまとめている。
インスリンとグルカゴンは、やっぱり糖尿病にとっては中心的な役割を果たすホルモンなので、新しい総説を見つけると、つい買ってしまう。
まあ、いくら読んだところで、片っ端からすぐ忘れるんだけどね(爆)
・月刊糖尿病127号(Vol.12 No.7, 2020)「インスリン分泌機構とその異常」
・月刊糖尿病131号(Vol.13 No.3 2021)「グルカゴン(膵α細胞)はどこまでわかったか」
実験医学や月刊糖尿病のグルカゴン特集では、糖尿病治療薬としてのグルカゴン受容体拮抗薬の可能性に触れられていた。グルカゴンは血糖値を上げるホルモンなので、その受容体にフタをしてしまえば、グルカゴンによる血糖上昇が抑えられる。その結果、血糖コントロールができると考えられたわけだ。
しかし、一向に開発に成功したとは聞こえてこない。
ところが、2023年現在、真逆の治療薬が成功しそうなのがオドロキだ。
インクレチン製剤としては、まずはGLP-1受容体作動薬が大成功した。
商品名としては、ビクトーザやトルリシティ、オゼンピック、リベルサスなどである。
次に、GLP-1+GIP受容体作動薬が開発された。2つ(デュアル)の受容体を活性化させるもの(アゴニスト)であるので、デュアルアゴニストと呼ばれる。
GIPはGLP-1と同じくインクレチン(インスリン分泌を促進するホルモン)だけれど、GLP-1と違い、グルカゴン分泌を促進したり脂肪合成を促進(=脂肪肝や肥満を促進)する作用があると報告されていた。人によってはGLP-1を「善玉インクレチン」、GIPを「悪玉インクレチン」なんて呼ぶことも。なので、GLP-1のような糖尿病治療薬には利用できないと考えられていた。
ところが、デュアルアゴニストを投与すると、GLP-1製剤よりもさらに体重減少効果、血糖改善効果が見られたのだった。
そして、2022年にデュアルアゴニストであるチルゼパチド(商品名マンジャロ)が承認され、2023年6月から発売開始となった。
さらに現在、GLP-1+GIP+グルカゴンの3つの受容体に作用するトリプルアゴニスト(retatrutide)の臨床試験が進んでいる。
GIP/GLP-1/グルカゴンの“トリプル作動薬”、体重24%減 retatrutide、肥満症と2型糖尿病を対象に開発進む(要登録)
なんでグルカゴン受容体を刺激して血糖値が下がるんだよ!?と不思議でならない。記事によれば、どうやら、
生理的には血糖を上昇させる働きがあるグルカゴンだが、インスリン分泌や食欲抑制などの作用もあり、GLP-1受容体と同時に刺激すると、2型糖尿病や肥満症に良い影響をもたらすと考えられるようだ
ということらしい。
GIPの場合、生理的濃度では肥満を促進するが、薬理的濃度(普通ではありえないくらいの高濃度)では食欲を抑制し、その結果、肥満を抑制する。また、GLP-1製剤とGIP製剤を同時に投与すると、より顕著な体重減少作用がみられた(いずれもマウスの話)。
グルカゴンも、薬理的濃度でインクレチンとともに投与することで、体重減少や血糖改善効果をもたらすということなのだろう。
今のところは、retatrutideはデュアルアゴニスト(マンジャロ)よりも強い効果を示すのかどうかは調べられていないようだ(トルリシティ 1.5 mgとの比較は報告されている)。いずれ、比較検証されるのだろう。
血糖改善効果が高いようなのですっごい興味があるんだけど、マンジャロにしろretatrutideにしろ体重減少効果が注目されているので、BMI 22未満の糖尿病患者には医師が処方したがらない気がする。BMI 20未満ならなおさらだ。
というか、トルリシティでさえ、取り上げられちゃったからね…orz
ああ、体重減少作用や食欲抑制作用がなく、血糖だけを劇的に改善してくれる薬剤が開発されないものか。
これは肥満型糖尿病患者がターゲットの欧米の製薬メーカーには期待できそうにないから、日本のメーカーに頑張ってほしいところだ。
他に買った本としては、甲状腺を全摘したこと、そのせいで一時的に副甲状腺機能が低下したこと、また、副腎ホルモンが血糖値に関係することなど、内分泌系全般の分かりやすい教科書があるといいなと思って購入したのが、
・STEPシリーズ 内科3 代謝・内分泌 第3版(海馬書房)(最初の写真 上段右)
2011年発行なので新しくはないけど、基本的な教科書としては十分だと思う。
アマゾンのマーケットプレイスで中古本として購入した。本体価格4,100円のところ、送料込みで776円w 届くまでちょっと不安だったけど、本のコンディションはとてもよく、マジでいい買い物をした。
この本は最初から最後まで通して読むというよりは、必要なときにパラパラめくって調べるという感じ。
・奥山 治美 著 糖尿なのに脂質(あぶら)が主因!―糖尿病とその合併症予防の脂質栄養ガイドライン(日本脂質栄養学会)(最初の写真 中段右)
一般的には「トンデモ」本に分類されるんだろう。興味本位で読んでみたw
内容を鵜呑みにするわけではないけれど、本流の人たちが絶対に触れないようなことがいろいろ書いてあるので、なかなか興味深かった。
・伊藤 浩 編集 そうだったんだ!脂質異常症 第2版(文光堂)(最初の写真 下段左)
脂質関連のことを網羅した教科書的な書籍がほしくて、当時の糖尿病内科の医師に教えてもらった本。
私が本当に知りたかった疑問の答えは載っていなかったけれど、脂質関連の基本的なことが分かりやすく書かれていてよかった。
以上、わたしのバイブル(と言っていいのか?)を紹介した。
もっと「バイブル」っぽいものもあるよ。
真言宗のお経とかw
上のページには「三返」繰り返すお経ばかりだけど、中には「心にまかせ 三返〜七返」というものもある。こういう場合、普通は七回繰り返すんだけど、唱えているうちに何回目だったか分からなくなってしまう。なので、何回目なのかを数えるのに必死になってしまい、お経に心がこもらなくなってしまう。数珠の玉を動かしながら唱えるといいらしいが、わたしには難しい。(そもそも、心を込めてお経を唱えているか疑問だけど エヘ)
しかし、なんと言ってもこれ!
日本語タイトルは「反☆進化論講座」なんて、ちょっとふざけたタイトルだが、これは歴とした「空飛ぶスパゲッティ・モンスターの福音書」なのである。
わたしはIDカードを持っているような正式なスパモン教徒ではない。
福音書を持っているだけのエセ教徒である。
しかし、その教義については信奉している。
糖尿病になって糖質制限を始めてからは、聖なる食べ物(麺類)を口にすることができないことに絶望したけど、紀文の糖質0g麺やZENBヌードル、九州まーめんなどの存在を知って、今ではパスタファリアンとして活動を再開することができている。
ありがたいことである。
明日も一日、(血糖値が)穏やかな日になりますように。
ラーメン。