糖尿病患者の高血糖を是正するのは重要だけれど、低血糖を起こすほどに下げすぎてしまうと、むしろ体に悪影響がある。特に、インスリンやSU薬などを使用している場合、食事内容との兼ね合いなどで血糖値が下がりすぎてしまうこともあるので要注意だ。

CGMがなかったころは、就寝中に無自覚の低血糖を起こしていても気づく術がなかった。しかし、今はCGMが普及してきたので、就寝中の血糖値の推移も分かるようになった。

わたしもリブレを使っていて、就寝中に低血糖(70 mg/dL未満)を示す赤いラインがグラフ中に出現することがある。リブレを使いだしたころは、夜中にトイレに起きたときにリブレで低血糖を示したら、暗がりで指先穿刺による血糖測定をして確認していた。すると、SMBGでは低血糖ではないことがほとんどで、単にリブレが低く出ているだけ、偽の低血糖を示しているだけ、ということが分かった。SMBGでも低血糖の時は、大抵は低血糖の自覚症状があった。なので、今ではリブレで低血糖を示していても、自覚症状がなければ気にしないようになった。

しかし、糖尿病内科の担当医は、診察のたびにリブレの赤いラインを気にする。

持効型インスリンをもう少し減らし、低血糖を回避した方がいい。そのために少しくらいHbA1cが上がってもいい、という考え方だ。

まあ、それくらい、低血糖には気をつけた方がいいということ。それが常識となっている。

 

でも、以前の糖尿病治療は、HbA1cはできるだけ下げた方がいい、健常者と同レベルにまで下げた方がいい、という考え方だった。

それが方針転換されたきっかけとなったのがACCORD試験だ。

 

ACCORD試験(The Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study)とは、2型糖尿病患者10,251人を無作為に標準治療群と強化治療群に分けて、心血管疾患を予防できるかどうか調べたものである。

 

Effects of Intensive Glucose Lowering in Type 2 Diabetes

ACCORD Study Group: N Engl J Med 2008;358:2545-2559.(ここ

 

被験者の条件は、

・HbA1c 7.5%以上

・年齢40〜79歳で心血管疾患の既往がある

・年齢55〜79歳で心血管疾患のリスク因子が2つ以上ある

 

集められた被験者は、ベースラインのHbA1cの中央値が8.1%、38%が女性、35%が心血管イベントを経験していた。

 

治療の内容は、

・標準治療群 目標HbA1c 7.0〜7.9%

・強化治療群 目標HbA1c 6.0%未満

 

治療1年後の結果は、中央値で

・標準治療群 HbA1c 7.5%

・強化治療群 HbA1c 6.4%

 

血糖値を厳格に下げた方が心血管疾患を予防できると予想されていたのだが、実際には心血管疾患が減少することはなく、むしろ強化治療群で全死亡が増加していた。

そのため、2008年2月に試験の途中で中止が発表された(追跡期間の中央値3.4年)。

 

それまでは「糖尿病患者の血糖値は、できるだけ健常人と同じレベルまで下げた方がいい」と考えられていたのだが、このACCORD試験の結果を受けて、「やみくもに血糖値を下げることはよくない」という流れになった。

 

また、なぜ強化治療群で全死亡率が上昇したのかについては、インスリン治療やSU薬によって低血糖が頻発したからではないかと考えられた。そのため、ACCORD試験以降は、できるだけ低血糖を起こさないようにしながら血糖値を下げる治療方針が広まっていった。

しかし、インスリンやSU薬による低血糖だけでは説明できない部分もあり、謎が残っていた。

 

 

今回紹介する論文では、ACCORD試験の被験者をベースラインでの空腹時血糖値とHbA1cの関係から3群に分けて解析している。

その結果、サブグループによって全死亡率が異なることが分かった。

 

The Hemoglobin Glycation Index Identifies Subpopulations With Harms or Benefits From Intensive Treatment in the ACCORD Trial

Hempe JM, et al: Diabetes care 2015;38:1067-1074.(ここ

 

ACCORD試験の被験者のベースラインの空腹時とHbA1cをプロットしたところ、以下のような分布を示した。

 

 

 

ここから得られた回帰式は、

 

HbA1c (%) = 0.009 x 空腹時血糖値 (mg/dL) + 6.8

 

空腹時血糖値から、上の式を使って予測HbA1cを計算することができる。

実測したHbA1cの値から、予測HbA1cの値を引いたものをHGI (hemoglobin glycation index)とした。

 

HGI = 実測HbA1c - 予測HbA1c

 

そして、HGIの大きさによって等しく3群に分けた。

 

・低HGI -0.520以下(予測より実測の方が低い)

・中HGI -0.520〜0.202(予測と実測の差が小さい)

・高HGI 0.202より大きい(予測より実測の方が高い)

 

例)ベースラインの空腹時血糖値が200 mg/dLで、実測HbA1cが7.5%だった場合。

 

予測HbA1c = 0.009 x 200 + 6.8 = 8.6%

 

HGI = 7.5 - 8.6 = -0.9

 

この場合、「低HGI」に分類されるわけだ。

 

このように3つのサブグループに分け、それぞれの特徴を解析した。

 

続く。

 

 

* * * * *

 

上記の回帰式。ほんまかいな?と思う。

 

HbA1c (%) = 0.009 x 空腹時血糖値 (mg/dL) + 6.8

 

切片が6.8ということは、空腹時血糖値が0.0 mg/dLだったとしても、HbA1cが6.8%になってしまう。

本来であれば、血糖値が0ならHbA1cも0のはずで、原点を通るはずだ。

(実際には、NGSP式のHbA1cは血糖値0のときに2.15%となる。したがって、切片は2.15になるのが正しい。ややこしいけど、なぜかこんな事態になっている)

 

たとえば、わたしの場合、最近の起床時血糖値の平均は90 mg/dLほど。

これを上記の回帰式に当てはめると、

 

予測HbA1c = 0.009 x 90 + 6.8 = 7.6%

 

直近の実測HbA1cは6.4%だった。

したがって、HGI = 6.4 - 7.6 = -1.2

 

糖尿病で入院したときのデータではどうか?

泌尿器科クリニックで測定した随時血糖値は754 mg/dLだったが、これは空腹時血糖値とは言えない。

翌日の夜おそく、市立病院で測定したのも随時血糖値だが、最後に飲食してからかなりの時間が経っていたので、ほぼ空腹時血糖値とみなせると思われる。このとき、489 mg/dLだった。

 

HbA1c = 0.009 x 489 + 6.8 = 11.2%

 

実測HbA1cは15.0%だった。

したがって、HGI = 15.0 - 11.2 = 3.8

 

こうして見ると、上記の回帰式は傾きが小さすぎるように思う。

空腹時血糖値がものすごく高いにもかかわらず、なぜかHbA1cが低い人が多い集団なのだ。だから、切片が大きくなってしまうわけだ。

 

論文中のconclusionsでも回帰式の問題点が指摘されていた。ACCORD試験の被験者が比較的高齢だったこと、CVDリスクが高い人を選択的に集めたことにより、回帰式が一般集団とは異なった可能性が考えられる。したがって、他の集団でこの回帰式を使用することは推奨できないとしている。

 

日本人集団でも同じようにプロットしたら、どうなるのだろうか。

全く違う結果になるのだろうか。

気になる〜