Apple Watchで血糖測定! その1 のつづきである。
1時間におよそ4回の血糖測定ができるという、血糖測定機能を搭載したApple Watchのプロトタイプ。
その実力はいかに?
代表的な例がFig. 4cとして紹介されている。
(図は分かりやすいようにmMをmg/dLに改変している)
赤い線がApple Watchによって測定された血糖値。
黒い四角が指先で測定した血糖値を示す。
指先での測定はAccusure 580を用いている。
赤い線を見ると、それなりに血糖値の変動を捉えているようにも見える。
指先での血糖値と比較すると(グラフの縦軸からおおよその値を読み取った)、
昼食前(?)
指先 96 mg/dL
Apple Watch 117 mg/dL
夕食後
指先 156 mg/dL
Apple Watch 180 mg/dL
まあ、これくらいならリブレでも見られる乖離の幅だ。
わたしの場合はリブレの方が低く指先の方が高いことがほとんどなのだが、食後にリブレのセンサータッチで156 mg/dLと喜んでいたら、指先では180 mg/dLでガッカリ…ということはよくある。
肌に密着させる腕時計型の場合、腕を動かすことで測定誤差が大きくなる可能性が考えられる。
そこで、左右の腕にApple Watchをつけ、左手は動かさず、右手は振ったり曲げたり手首を動かしたりして比較してみた。
黒いグラフは指先で測定した血糖値
赤いグラフは腕を動かさずに測定した血糖値
青いグラフは腕を動かして測定した血糖値
このように、腕を動かしても大きな問題は認められなかった。
23人のボランティア(13人の糖尿病患者と10人の健常者)にApple Watchを8時間(10時から18時)つけてもらい、指先での血糖値と比較して、クラークエラーグリッドによって精度を評価した。(Fig. 4eを改変)
指先での測定は6回おこない、うち、1回はキャリブレーションに用い、1回は昼食1時間後、1回は夕食1時間後、残りの3回はランダムな時間に測定した。
注)右下のCとDの位置が逆ではないだろうか。
縦軸が指先で測定した血糖値、横軸がApple Watchで測定した血糖値である。
理想は対角線に引かれた点線であり、それに近いほど精度が高いことを示している。
クラークエラーグリッド分析は、臨床に用いる際に患者へのリスクの大きさにより5段階の領域に分類される。
A:治療への影響なし
B:治療の変更にほとんどもしくはまったく影響がない
C:治療の変更を引き起こす可能性がある
D:治療の変更により重大なリスクを及ぼす可能性がある
E:治療の変更により危険な影響がある
最も望ましい範囲は当然ながらゾーンAなのだが、ゾーンBでも臨床的には有用な範囲だと考えられている。
Apple Watchでの血糖測定は、ゾーンAに46.99%、ゾーンBに37.35%、ゾーンA+Bに84.34%が入っていた。
ゾーンD、Eに該当するデータは見られなかったことから、論文では「誤解を招いたり誤った読みをすることなく、高品質の測定結果をもたらすことを示唆している」と述べている。
しかしながら、ゾーンCに入るデータはあり、ゾーンDに入りそうなデータもある。
また、精度84.34%というのは高いように見えるが、実際に製品化するためには精度99%が求められるという壁がある。
自己血糖測定モニタリング(SMBG)に関する規格にISO15197があり、クラークエラーグリッド分析でゾーンA+Bに99%以上の測定データが入っていることが求められるのだ。
つまり、このプロトタイプの結果は、まだまだ正確性に欠けることを示しているのである。
実際、黄色で示した左上のゾーンCに入ったデータを見てみると、Apple Watchで180 mg/dLのところ指先で300 mg/dL、あるいはApple Watchで144 mg/dLのところ指先で270 mg/dLと、「マジ使えねー!(怒)」と言いたくなる。
赤色で示した左のゾーンDにはデータは入っていないが、このゾーンはわたしはリブレでしょっちゅう経験している。リブレでは低血糖を示す赤線のグラフになっていても、指先で測定すると実際には低血糖ではない、というパターン。
就寝中にこのパターンになることがほどんどで、リブレを使い始めたころ、夜中にトイレで起きたときに、ついでに指先で血糖値を測定して確認していた。しかし、全く低血糖ではなく、当然ながら低血糖の自覚症状もないので、そのうちリブレで低血糖を示していても気にしなくなってしまった。
オオカミ少年状態であるw
もちろん、ごくたまーに低血糖の自覚症状を感じることがあり、その場合は指先で確認するとたしかに軽い低血糖になっている。こういうときは素直に補食して血糖値を上げている。が、こういうときは滅多にない。
超速効型インスリンを使用している糖尿病患者の場合は、右下のゾーンCDEが危険となるだろう。
Apple Watchのデータが高血糖を示したからとインスリンを打ったら、実際は高血糖ではないために低血糖を引き起こしてしまう。
ゾーンCのデータの中には、Apple Watchで324 mg/dLのところ指先では130 mg/dLなんてものがある。
324 mg/dLを信じてインスリンを打ってしまうと、とんでもないことになるだろう。
これでは怖くて信用できない。
Apple Watchを使っていても、やっぱり指先での血糖測定は止められないということになる。
わたしなんて、リブレを使っているのに1日3回指先で測定しないと落ち着かないもんなぁ…
では、Apple Watchのプロトタイプに比べて、リブレのエラーグリッド分析はどんな感じなのかというと。
The Performance and Usability of a Factory-Calibrated Flash Glucose Monitoring System
Bailey et al. Diabetes Technol Ther. 2015 Nov;17(11):787-94
doi: 10.1089/dia.2014.0378. Epub 2015 Jul 14.
Fig. 1のright panelがクラークエラーグリッド分析なのだが、ゾーン分けの線が薄くて見づらいので強調してみた。
こちらはデータ数が膨大であり、低血糖側から高血糖側まで幅広くデータが分布している。
データ数が多いためゾーンCDEに分布するデータもあるようだが、全体で見ると
ゾーンA 85.5%
ゾーンA+B 99.0%
ということになるらしい。
正直、ゾーンBでも「使えねー!(怒)」と言いたくなると思うが、臨床的にはOKとされているので、ユーザーが吠えても仕方がない。
そして、一定の確率でゾーンCDEに分布するデータになることも仕方がないのだろう。
メーカーはデータのバラツキを織り込みずみなので、ユーザーからクレームが来ればセンサー交換で対応しているのだと思われる。
Apple Watchのクラークエラーグリッド分析と比較するには、グラフの範囲を揃えた方が直感的に分かりやすい。
こうやって並べると、Apple Watchの方がバラツキが大きいことが分かる。
やはり、もう少し精度が上がるよう改良が必要だろう。
エラーグリッドではないが、日本人でのリブレデータもある。
以前にも紹介した図だ。
理想は破線で示した対角線だが、実際はそれより傾きが低い、つまり指先よりリブレの方が低く出る場合が多かった。
その傾向があったとしても、やはりApple Watchのデータよりはまとまって分布しているように見える。
毎日指先で複数回の血糖値を測定している者としては、できれば非侵襲的な測定機器があればいいなと思う。
しかし、経皮的に間質液中のグルコースを抽出して測定するというのは、まだまだハードルが高そうだ。
ほかにも、汗や涙を利用して測定するデバイスが考えられているようだけど、どれも一長一短があるのだろう。
今回のセンサーはリバースイオントフォレーシスという技術を用いているようだが、パルスオキシメーターのように光学センサーで経皮的に血中酸素濃度を測定する場合は、皮膚の色が問題になってくるようだ。
【第214回】皮膚の色が濃いと酸素飽和度は高く表示される?(要登録)
紹介されている論文によると、白人と比較した場合、黒人・アジア人・2種類以上の人種が混ざった集団において、動脈血液ガス分析よりもパルスオキシメーターで測定した酸素飽和度の数値が高いことが分かったらしい。
以前から素人なりに、皮膚の色がパルスオキシメーターの測定に影響しそうな気がしていたのだが、医療で普通に使われているデバイスだし、そんなことはないのだろうと思っていた。なのに、まさか2022年になって論文として報告されるなんて、「えっ、今さら!?」と思ってしまった。
KETTOとかCABOCも経皮的に血糖測定できる装置で、KETTOの測定原理は
非侵襲の血糖レベル測定で、国際的に学会で注目されているMHC(Metabolic Heat Confirmation)方式を採用
血中のブドウ糖が酸化するときに発する熱と酸素供給の関係に着目、各種センサーから検出された温度や血中酸素飽和度などを用いて血糖レベルを算出することで針を使わない血糖レベルの測定を可能にしました。
*現時点、日本では正式な血糖値測定方式としてはまだ認められていません。
ということなので、もしかすると皮膚の色に影響されるかもしれない。
まだしばらくは、リブレやDexcomのような間質液グルコース測定機器の時代が続くのかもしれない。
リブレ、もう少しリーズナブルに、かつ、高精度になってくれると嬉しいな。