最近、空目(見間違い)することが多い。

今朝、登録をしているMedical Tribuneから来たメールを見てギョッとした。

 

「だから臭いのだ小児科」

 

他にも、「臭いのだ」に続いて放射線科や皮膚科などがずらずらと続いている。

えっ?

と思ってよく見たら、

「だから良いのだ○○科」

だった。

 

一瞬、ああ、小児科は特に赤ちゃんなんかは便の状態とか調べるだろうしなー、とか思ってしまったわたしはアホだ。

 

さて、タイトルの件。

なんかすごい秘密を語っているような感じのタイトルだけど、単に

「お金って、実はマネーなんです!」

的なことを言っているに過ぎない。

昔、怪しげなサプリの販売サイトで、デカデカと書いてあったのが

「酵素って、実はエンザイムなんです!」

という売り文句だったのだ。

あまりにも強烈すぎて忘れられないのだけど、一体なんの酵素だったのか?については覚えていない。まあ、健康にいいとかやせるとか、そんな感じだったと思う。

 

サプリはともかくとして、食物からの酵素摂取は推奨されることなんだろうか?

体内酵素には消化酵素と代謝酵素があって、体外酵素として食物に含まれる酵素があり、一説によると食物酵素を摂ることが大切なのだそうだ。

ヒトが一生の間に作れる酵素の量は決まっていて、使いすぎると枯渇してしまうから、食物で外から補充してやる必要があるのだとか。

あるいは、飽食の時代では、食べすぎによって消化酵素が大量に必要となり、そのために代謝酵素が不足してしまう。だから、食物に含まれる消化酵素の助けが必要なのだ、とも。

 

うーん、消化酵素をたくさん作ると代謝酵素が不足するとか、酵素を作りすぎるとそのうち枯渇するとか、ちょっと信じがたいなぁ。

加齢によって消化酵素や代謝酵素の働きが低下してくるというのは理解できるけど、それが若いころに酵素を作りすぎたから枯渇した、っていうのは違うんじゃないかと思うのよね。

使わない機能は廃用性萎縮してしまうから使わないと(鍛えないと)ダメだ!なんて主張する人もいるし、いろんな説があるよねぇ。

まあ、独自の主張を唱えるのは自由だ。

科学的かどうかは知らんけど。

 

栄養学というのはまだまだ未知の世界だから、もしかしたら、食物に含まれる酵素がとても重要な働きをしている可能性はある。

どんな食品にどんな酵素が含まれているのか、わたしはよく知らない。

知っているのは、昔から有名な、大根に含まれるジアスターゼ(アミラーゼ)。

大根おろしを食べると胃がスッキリする、なんて話を聞く。

わたし自身は大根おろしの効果を感じたことはない。

お餅を大根おろしで食べたり、ステーキを大根おろしで食べるのは好きだけど、それは胃がスッキリするんじゃなくて、口がサッパリして食べやすいから。

母親なんかは、ステーキを大根おろしで食べたら胃もたれしない、大根の消化酵素が助けてくれるからだ、なんて言うんだけど、ジアスターゼ(アミラーゼ)はでんぷん分解酵素だから、ステーキ(タンパク質/脂質)の消化には全く関係ないんだよなぁ。単に、サッパリとして脂っこさを感じにくくなるから、胸焼け・胃もたれのような症状を感じにくくなるってことなんだと思う。

だけど、母親に「でんぷん分解酵素だから云々」と説明すると「あんたはいつも屁理屈ばっかり!」と逆ギレされるので、このテの話になると「うんうん、分かる、分かる」とテキトーに話を合わせるようにしている。

昔はつい反論して、喧嘩になっていたんだけどね。

理屈を説明したところで、いつも「屁理屈だ」とキレられて話が終わってしまうことを学んだわたしは、大人になったんだろう。

 

それはともかく。

ほかに酵素を含む有名な食品と言えば、パイナップル、キウイ、青パパイヤだろうか。これらはタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を豊富に含んでいる。

生のパイナップルを食べすぎると、口の中がイガイガしてくる。

これは、プロテアーゼが口内のタンパク質を分解してしまうからだと言われている。

キウイはどうなんだろう?

口がイガイガするほどたくさん食べたことはないから分からないなぁ。

青パパイヤに至っては、そもそも食べたことがないから分からない。

でも、タンパク質分解酵素の活性が強いのなら、やっぱりたくさん食べると口の中がイガイガするんだろうか?

台湾パイナップルは、食べても口がイガイガしなかった。

これは、プロテアーゼが少ないから? うーん、謎。

 

ほかにどんな食品に酵素が含まれてるんだろう?とネットで調べようとしたけど、なかなかアカデミックなサイトは見つからない。

それらしい情報が載っていたサイト(ここ)によると、

消化を助ける酵素と酵素を含む食材

プロテアーゼの多い食品(タンパク質分解酵素)

 麹、納豆、塩辛、パイナップル、パパイア、いちじく。キウイ、プルーン、りんご、ゴーヤ、メロン、玉ねぎなど

アミラーゼの多い食品(でんぷん分解酵素)

 大根、キャベツ、山芋、かぶ、バナナ、生姜、キウイ、パプリカ、梨など

リパーゼの多い食品(脂肪分解酵素)

 納豆、味噌、漬物、甘酒、チーズ、アボカド、イチゴ、オレンジ、スイカ、グレープフルーツ、大根、人参、ほうれん草、セロリ、トマトなど

さて、この根拠はどこにあるのか。

できれば、一定量の各食品と酵素が作用する基質とを反応させて、どれくらい活性があるのか見てみたいものだ。

 

発酵食品にさまざまな酵素が含まれるのはまあ分かる。麹や酵母のような微生物が持っている酵素なんだろう。

いちごやスイカなどにリパーゼが多いってのは初めて見たかも。

 

それにしても、発酵食品以外は植物性ばかりだな。

動物性食品には酵素は含まれてないのかな?

まあ、生食できるものは限られているけど、生卵なんかいろんな酵素を含んでそうだけどなぁ。今じゃ食べられなくなった生レバーとか、酵素の塊だったんじゃない?

個体丸ごとを食べる生しらすとか、生の桜エビとかも酵素の塊っぽい。

でも、リストには入ってないのね。不思議。

まあ、生しらすや生桜エビなんて、普段よく食べるような食材じゃないか。

 

食物酵素について調べてたら、ビックリするようなことが書いてあった。

“食べるくすり”としての青パパイヤ

完熟パパイヤよりも栄養価が高い

優秀なパパイン(酵素)は三大栄養素(糖質・脂質・たんぱく質)を同時に分解(ここ

えっ?と思ってさらにネットで調べたら、

青パパイヤの主成分であるパパイン酵素は、タンパク質・脂質・糖質すべてを分解する非常に稀な酵素です。

老化の原因と言われる活性酸素を除去し、アンチエイジング効果も期待できます。(ここ

「食物酵素」のなかでも酵素の王様と言われるのがパパイヤです。パパイヤに含まれている酵素には、タンパク質、脂質糖分を同時に分解するパパイン酵素以外にもキモパパイン、カルパインなどの酵素も豊富に含まれています。(ここ

 

パパインは三大栄養素を同時に分解し、さらには活性酸素を除去するって!?

タンパク質・脂質・糖質の全てを基質にできる酵素なんて、初めて知ったわー

 

ていうか、ありえないでしょ!

 

パパインはプロテアーゼ、つまりタンパク質分解酵素。

糖質や脂質は分解しない。

キモパパイン、カルパインもプロテアーゼだ。

3つめのサイトなんてサイト名が「パパイヤ大学」で、「パパイヤを学び、パパイヤで人を幸せにする」のだそうだが、大丈夫か?

 

この「パパイヤ大学」のサイトには、「タンパク質の分解実験」「脂質の分解実験」「糖質の分解実験」という面白そうなページ名があるのだけど、どうやらページ名だけで中身はアップされていないようだ。残念。

 

パパインについては、

食物酵素はタンパク質の一種で、熱に弱い物質です。ほとんどの食物酵素は42~48度で活性を失います。しかし、南国のフルーツに含まれる食物酵素の多くは、少し高めの温度でも酵素活性を失いません。例えばキウイの場合においても、40℃から60℃の間でも酵素は活性するそうです。さらにグリーンパパイヤに含まれるパパインは100℃の温度でも酵素活性を失いません。

私たちの体は、胃酸によって体内に悪影響をあたえるような有害物質を死滅させる働きを備えています。胃酸はph2前後と大変強い酸性です。ほとんどの食物はこの胃酸によって変質します。しかし、パパイン酵素はph1.2でも変質しません。

と、熱に強く、胃酸にも強いと説明している。

へー、そうなんだ?

100℃でも活性があり、pH1.2でも変質しないってビックリだな。

これって、青パパイヤとして食べたときだけ発揮される性質なんだろうか?

 

精製したパパインのデータならあった。(ここ

たしかに、pH安定性のグラフを見ると少なくともpH3でも変質せず、温度活性のグラフを見ると100℃でも半分以上酵素活性が残っている。

 

 

だけど、pH活性のグラフを見たら、pH5くらいの酸性度から急激に活性が低下するようだ。だとすると、胃の中に入ってしまうとほとんど働かなくなりそう。

 

温度安定性のグラフを見ると、比較的熱に耐性があると言えそうだ。

とは言え、80℃では5分程度でほぼ失活してしまうから、煮たり炒めたりするなら数分以内でやめてすぐに冷ます必要がありそうだ。

60℃くらいの低温調理であれば、30分くらいでもある程度活性を保ってそう。

だから、青パパイヤと肉を一緒にしてラップで巻くかジップロックに入れて低温調理すれば、お肉が軟らかくなるかもしれない。

 

ということで、高熱でも活性がある、強酸性でも変質しない、というのは正しいけれど、その条件下で十分酵素が働くことができるのか?というと、かなり怪しい。

 

しかしまあ、なんでこんなことになってるんだ?

パパインがなんでもかんでも分解する酵素だと誤解されるようになった原因は?

 

青パパイヤについて調べた結果、ああ、ナルホドと納得した。(ここ

青パパイヤ、パパイヤの葉にはこの三大栄養素を分解する酵素がすべて含まれていることで知られています。

パパイヤにはパパイン酵素だけでなく、カタラーゼ(さまざまな病気や老化を招く活性酸素を消去し、アルコールの分解を促す酵素)、アミラーゼ(でんぷんを分解する酵素)、リパーゼ(脂肪を分解する酵素)、プロテアーゼ(タンパク質を分解する酵素)、トレハラーゼ(体内のインターフェロンの働きを高め、免疫力を高める酵素)など、多くの有効な酵素が含まれています。

パパイヤには、代表的なタンパク質分解酵素であるパパインの他、糖質を分解するアミラーゼや脂質を分解するリパーゼも含まれるという話が、いつの間にか「パパインはタンパク質も糖質も脂質も分解する」にすり替わったんだな。

さらに、カタラーゼは過酸化水素(活性酸素のひとつ)を酸素と水に分解する酵素なのだが、パパイヤ大学のサイトではその作用もパパインにまとめてしまったようだ。

面白い。

 

カタラーゼが入っているからアンチエイジングか〜

だけど、誰でもカタラーゼなんてたっぷり持ってると思うんだけどなぁ。

子どものころ、ちょっと怪我をしたらオキシドールで消毒したものだ。

傷口にかけるとシュワシュワーっと泡が出て痛かった記憶がある。

オキシドールとは3%過酸化水素水のことで、活性酸素の働きによって殺菌するというもの。そして、体液にはカタラーゼが含まれているので、過酸化水素が分解されて水と酸素になるので、酸素が泡となって出てきていたのだ。

それくらいありふれた酵素なんだけど、さらに食物から取り入れる必要があるんだろうか?

 

カタラーゼの説明の中の「アルコールの分解を促す」という部分がよく分からなくてググってしまった。

エタノールはアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドになり、その大部分はアルデヒド脱水素酵素によって酢酸になり、クエン酸回路に入ってエネルギー源となるのだが、アセトアルデヒドの一部はカタラーゼによっても代謝されるらしい。(ここ p149)

ただ、アルコール代謝におけるカタラーゼの寄与率は低いと考えられているから、やっぱり過酸化水素を分解する酵素、という理解でいいと思った。

 

で、食物酵素なんだけど。

 

今のところ、わたしはその効能をあんまり信じていない。

だって、酵素はタンパク質だし、ゴクンと飲み込んで胃に入った瞬間に胃酸によるpHの低下で失活し、胃で分泌されるタンパク質分解酵素であるペプシンによって、タンパク質はどんどん分解されてしまうと思うからだ。

あとはアミノ酸として吸収されてお終い。

もし、消化酵素としての効果を期待するのであれば、食べる前、調理の段階で、消化してほしい食材と一緒に何時間か反応させておくのがいいと思う。

ただ、パイナップルや青パパイヤで肉を処理するとして、本当にタンパク質が分解されるのなら、肉がドロドロになってしまうんじゃないだろうか。

よく、肉をキウイと混ぜたりマイタケと混ぜたりしておけば軟らかくなると言うけど、酵素は肉の表面にしか作用しないんじゃないかなぁ?肉の中まで軟らかくなるのかなぁ?といつも思う。

実際のところ、どうなんだろう?

 

とりあえず、わたしの考えはこの記事と同じ。

 

「酵素ジュースできれいになれる」は本当か? 酵素と生食の真相を追う(前篇)ここ

 

もともと、ヒトが加熱調理を始めたのは、生のままでは食べられないものが食べられるようになったり、風味がよくなったりということもあるけど、食中毒が減ったことも大きかったと思う。

生食って、常に危険が伴うんだよね。

安心して刺身が食べられたり、生卵が食べられたり、寄生虫の心配なく生野菜を楽しめることに感謝しながら、美味しく食べられればそれでいいや、と思う。