白米のような精製した穀物はでんぷんの塊で、食べると血糖値が上がりやすい。

一方、未精製の玄米なら、食物繊維が多い分、食べても血糖値は上がりにくい。

そう、一般には言われている。

 

ところが。

炊飯前の玄米と白米を比べたら玄米の方が食物繊維が多いのに、炊飯後は白米の方が食物繊維が多くなるらしいのだ。

一体どういうこと?

 

「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」で、玄米と白米を比較してみる。

 

・炊飯前の1合(乾燥150 g)当たりの食物繊維量

  玄米 4.5 g

  白米 0.8 g

 

このように、イメージ通り圧倒的に玄米の方が食物繊維が多い。

では、炊飯後を比較してみると。

 

・炊飯後の茶碗1杯(めし160 g)当たりの食物繊維量

  玄米 2.2 g

  白米 2.4 g

 

めし160 gというのは、約半合に相当する。

なので、食物繊維の量は1合の約半分が含まれるはず。

たしかに、玄米では4.5 gが2.2 gと、半分弱の量となっている。

しかし、白米はなぜか、炊飯前後で0.8 gが2.4 gと増えている!

何が起きてるんだ?

炊飯中に、食物繊維がめちゃくちゃ生成された?

玄米ではそんなことが起きないのに?

じゃあ、玄米よりも白米を食べた方がいいのか…?(困惑)

 

実は、食物繊維の測定法が変更されて、新しいデータに置き換わっているのだ。

だけど、全ての食品で新しい測定法が適用されたわけではないので、新しい測定法と古い測定法のデータが混在していて、その結果、上記のような混乱が生じているということらしい。

 

いきなり5倍! 同じ“白米ごはん”なのに、最新の食品成分表で食物繊維急増の怪ここ

 

2017年まで プロスキー変法

2018年から AOAC 2011・25法(一部の食品のみ)

 

プロスキー変法では、「低分子水溶性食物繊維」と「難消化性でんぷん」の一部(RS1、RS2)、リンク先の記事では記載がないが、窒素を含むキチン・キトサンを測定できなかった。

低分子水溶性食物繊維とは、イヌリンや難消化性デキストリン、難消化性オリゴ糖(大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖)など。

難消化性でんぷんとは、別名レジスタントスターチである。

 

注)レジスタントスターチの種類について

RS1:豆類や未粉砕の全粒穀類のデンプンなど物理的に消化酵素が接触できないもの RS2:生のジャガイモ,未熟なバナナ,あるいはハイアミロースコーンなどのデンプン

RS3:老化デンプン(一旦糊化(α化)したデンプンが再結晶化(β化)したもの)

RS4:加工デンプン(架橋デンプンなど化学修飾されたもの)

 

現在、AOAC 2011・25法で測定されているのは60食品のみ。

それ以外は、プロスキー変法の測定値となっていて、データが混在しているのだ。

食品成分表の「炭水化物成分表編」であればどちらの測定法かが分かるが、食品成分表の本体では、どちらの方法で測定したのかがわからない。

なので、

・白米ごはん(白米(めし))はA法で測った成分値に変わり、玄米ごはん(玄米(めし))はP法で測った成分値のままなので、白米ごはんの方が食物繊維が多い。

・全粒粉のパンの食物繊維は食パンよりもちょっと多いだけ。

・生のジャガイモの食物繊維は一気に7倍超。

・乾燥したあずきでは食物繊維が増え、ゆでたあずきでは減った。

といった怪現象が起きているのだとか。

 

もちろん、もともと食品に含まれている食物繊維の量が、増えたり減ったりしたわけではない。数字上のトリックだ。

ただ、自分の食生活を組み立てる際に、「不溶性食物繊維を増やそう」とか「水溶性食物繊維を増やそう」、あるいは逆に「不溶性食物繊維を減らそう」「不溶性と水溶性の割合をこれくらいにしよう」と工夫していた場合、元となるデータが変更されれば混乱するかも。

 

リンク先の記事では「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」から急に変更されたような感じがするが、実は「日本食品標準成分表2015年度版(七訂)追補2018年」で変更されている。

なので、使用している栄養成分計算アプリによって、追補版のデータにアップデートされていれば、八訂以前からすでに怪現象が起きていたことになる。

私が使っている、グリコの「栄養成分ナビゲーター」もすでにアップデートされていたのだけど、怪現象には気がつかなかったな(汗)

 

ただ、いつだったか、キクイモを調べたら、糖質量が多くて食物繊維量が少なくて、なんで?キクイモはでんぷんが少なくてイヌリンが多いはずなのに?と疑問に思い、文科省の担当部署に問い合わせのメールをしたことがある。

そしたら、イヌリンは現在の方法では測定できず、順次、食物繊維の測定法を変更しているところだ、という回答が来たのだった。

 

2つの測定法が混在していることで、メーカーも頭を抱えているらしい。

米(めし)の食物繊維だけが見かけ上増えてしまったので、本来なら食物繊維が豊富なはずの大麦や雑穀のメリットを打ち出しにくくなったのだとか。

 

1日の食物繊維摂取量は、理想は24 gなのだそう。

しかし、実現性を考慮して、男性21 g、女性18 gと設定されてきた。

この目標値はプロスキー変法でのものであることに注意が必要だ。

白米を3食摂っている人がAOAC 2011・25法での食物繊維量で摂取量を計算するとたくさん摂取できているように見えてしまうが、それは間違い。

今後、AOAC 2011・25法での食物繊維量が基準となり、食物繊維の目標摂取量は1日24〜25 gになるのではないかということだ。

 

栄養士さんたちは大変そうだな。

あ、そうそう、グリコの「栄養成分ナビゲーター」は2018年追補版には対応しているけど、2020年版(八訂)にはまだ対応していない。

別に急いでるわけじゃないけど、いつごろ対応になるのかな?と思って、グリコのお客様センターに問い合わせてみた。

そしたら、「八訂への対応については変更点が多いこともあり、今年の年末までを目途に更新する予定」と回答があった。

こういう作業って、ものすごく大変何だろうなぁ。

「栄養成分ナビゲーター」の運用って、グリコにとって特に利益にならないだろうし。

わたしは10年くらい前からずっと利用させてもらってる。

文科省の「食品成分データベース」もよく利用してるけど、ちょっと調べるときにはグリコのサイトの方を使うことが多い。

 

栄養学とか栄養データって、まだまだ未知の部分が多そう。

今までの知見だけではとらえられないこともたくさんあるんだろうね。

結局は、いろんな食品を少しずつ摂取するというのが、取りこぼしがなくてよさそうだ。

今日の夕食には、小松菜、なす、レンコン、高野豆腐などを食べたから、食物繊維たっぷりかな?

水溶性と不溶性のバランスまでは分からんw

 

プロスキー変法で測定されているのか、AOAC 2011・25法で測定されているのかは、以下のサイトで調べることができる。

この中の、

 

日本食品標準成分表2020年版(八訂)炭水化物成分表編 電子書籍(第2章を除く) (PDF:1.7MB) 

・第2章本表別表1(データ) (Excel:280KB) 

 

このエクセルファイルをダウンロードすればいい。

データを愛でる趣味のある人には楽しいデータだと思うw

 

 

<おまけ>

 

デジ女。

「でじおんな」と呼んでしまったおバカなわたし。

「デジジョ」なのね。

「リケジョ」みたいにカタカナにしてくれればよかったのに。

って、「リケジョ」という言い方も好きじゃないから使わないけど。

「山ガール」とか「歴女」とかは、それを趣味としている女性を指しているから、それほど違和感はない。

だけど、その分野の専門家としての女性に対して「○○ジョ」と呼ぶのは違和感がある。

あ、だから、単なる歴史好きの女性を「歴女」と呼ぶのはいいけれど、歴史の専門家を「歴女」と呼ぶのはNGね。