連日の35℃超え…orz

エアコンつけてても食欲落ちてまう〜

 

さて。

HbA1c 7%未満で合併症は起きないの? その2 の続きである。

 

 

「糖尿病診療ガイドライン2019」の「2. 糖尿病治療の目標と指針」(ここ)には、次のような記載もある。

Kumamoto studyが少数例での検討であることや諸外国における目標値も考慮して[b]、HbA1c 7.0%未満を合併症予防のための目標値とした。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130 mg/dL未満、食後2時間血糖値180 mg/dL未満をおおよその目安とする。(中略)また、伊藤らによる、空腹時血糖値126 mg/dL以上で網膜症の罹患率や有病率が有意に上昇するとの成績[13]にもおおよそ符合した値となっている。

この、[13]の論文を見てみる。

 

Importance of OGTT for diagnosing diabetes mellitus based on prevalence and incidence of retinopathy

Diabetes Research and Clinical Practice 49 (2000) 181–186(ここ

 

この論文では、OGTTを受けた12,208人の結果から、

 

・網膜症の有病率は、空腹時血糖値126 mg/dl以上およびOGTT 2時間血糖値198 mg/dl以上で有意に上昇した

 

・空腹時血糖値の上昇とともにOGTT 2時間血糖値200 mg/dl以上の割合が増加し、空腹時血糖異常(IFG) (110 - 125 mg/dl)症例の約1/3が2時間血糖値200 mg/dl以上を示した*

 

・したがって、空腹時血糖値126 mg/dlが、網膜症の有病率と罹患率のカットオフ値として適切である

 

と結論づけている。

 

* IFGとは、本来は「空腹時血糖値が高め(110 - 125 mg/dl)だがOGTT 2時間値は140 mg/dl未満」である場合を指すのだが、この論文では米国糖尿病学会(ADA)の「糖尿病およびIFGの診断には空腹時血糖値のみを使用することを推奨」という提案に基づいて分類している。

 

要旨にそう記載されているのだが、読んで納得できるだろうか?

1番目と2番目はいい。

その内容と、3番目がどうしてもつながらないのだ。

だって、2番目に「空腹時血糖異常の状態でも、約3割はOGTT 2時間血糖値が200 mg/dl以上を示す」とあり、1番目には「OGTT 2時間血糖値198 mg/dl以上で網膜症の有病率は有意に上昇した」とあるのだから。

 

とにかく、論文のデータを確認してみよう。

 

空腹時血糖値(FPG)が110〜125 mg/dlの場合、網膜症の発症率(10.000人/年)は31人/年だが、126〜139 mg/dlでは69人/年と有意に増加していた。そして、FPGが上昇するにつれて発症率がさらに増加していた。

 

逆に言えば、たとえ空腹時血糖値が100 mg/dl未満であっても、1年で1万人中30人ほどは網膜症を発症することが、このグラフから見てとれる。

 

ともかく、空腹時血糖値126 mg/dl以上になると網膜症を発症しやすくなるので、それ未満を目指した方がよさそうだということが分かる。

 

そして、この論文には、さらに重要な情報がある。

 

・同じ空腹時血糖値であっても、網膜症発生率は2時間血糖値200 mg/dlで2〜3倍高く、2時間血糖値が網膜症の発生率と高度に関連していた

 

 

発症率(10,000人/年)を、FPGとOGTT 2時間値で分類して示したグラフである。

すると、2時間値が200 mg/dl未満であれば、FPGが高くても網膜症発症リスクは高くならず、2時間値が上昇するにつれて発症率が増加していた。

 

つまり、空腹時血糖値よりもOGTT2時間値の方が重要だということを示している。

 

健康診断では、通常は空腹時に採血する。そして、空腹時血糖値が110から125 mg/dlであれば、糖尿病ではなく「境界型(空腹時血糖異常) (IFG)」と診断される。

では、IFGの人がOGTTを受けると、2時間血糖値はどんな結果になるのだろうか?

OGTT 2時間値が200 mg/dl以上だった人の割合を示したのが、次のグラフである。

 

 

IFG症例4,909人中、OGTT 2時間値が200 mg/dl以上だったのは1,617人と、およそ1/3の人が200 mg/dl以上という結果だった。本来なら、OGTT 2時間値200 mg/dl以上というのは「糖尿病型」の診断となり、再検査で再度200 mg/dl以上だと「糖尿病」と診断される。

つまり、空腹時血糖値126 mg/dlという基準では1/3の人の糖尿病が見落とされ、特に121 mg/dl以上だと約半数の人が見落とされてしまう可能性があるわけだ。

 

これは2000年の論文なのだが、それによると、

 

「1980年のWHOのOGTT評価基準とは異なり、米国糖尿病学会(ADA)の診断基準はFPGを重視し、OGTTを行う必要性については消極的な立場をとり、糖尿病診断のためにFPGを測定することを提案している」

 

とある。

WHOは糖尿病の診断にOGTTを推奨しているが、ADAは空腹時血糖値を重視することを提案している、と。

そこで、日本でもADAの基準をそのまま適用し空腹時血糖値のみを重視することが妥当であるのか、OGTTを実施し網膜症の発症率を調べて検討した、と論文で述べていた。

 

その結果、空腹時血糖値が110 mg/dl以上の群では、OGTT 2時間値 200 mg/dl以上の群で200 mg/dl未満の群より網膜症の発症率が2から3倍高かった。

糖尿病管理の目的は合併症の予防であり、空腹時血糖値のみの検査ではOGTTで検出されるだろう多くの糖尿病症例を見逃してしまうので適切ではない、としている。

 

日本では糖尿病の診断にOGTTが積極的に活用されているのかもしれないが、一度診断されてからは、食後血糖値を測定する機会は多くないだろう。

せっかくOGTT2時間値と網膜症の発症リスクが示されているのに、普段の治療に活かされているとは思えない。HbA1c 7.0%未満さえ達成すればよい、そんな指導がまかり通っているのではないだろうか。

わたしの場合、医師に「食後血糖値が200 mg/dlを大きく超えているんだけど」と申し出ても、「ふーん、ほんまやな、ちょっと高いな」で終わってしまった。ちなみに、糖尿病専門医である。

「食後の血糖値を180 mg/dl未満に抑えないと、合併症のリスクが上がります」と指導している医師はどれくらいいるんだろう? 指導するとして、では、どうやって目標値を達成しするように指導するのだろうか? 糖尿病学会が推奨する食事療法では、血糖値が上昇してしまう患者は多いと思う。となると、食後に運動すれば血糖値は下がるはず、と指導するのだろうか?

 

糖尿病の合併症は「しめじ」、つまり、神経障害、網膜症、腎症の3つが代表的だが、これらは「細小血管症」である。細い血管が傷害されることで生じる合併症ということだ。

これに対し、「大血管症」による合併症もある。動脈硬化により生じる心血管疾患である。

 

「糖尿病診療ガイドライン2019」の「2. 糖尿病治療の目標と指針」(ここ)によると、以下の記載がある。

75 g経口ブドウ糖負荷試験(oral glucose tolerance test: OGTT)2時間血糖値が心血管疾患における、血圧、脂質とは独立したリスクファクターであることがDECODE[15]により明らかにされた。(中略)食後高血糖と大血管症については他項を参照されたい(「12. 糖尿病(性)大血管症」参照)。

大血管症にはOGTT2時間値がリスクファクターであると書いてある。食後高血糖と大血管症については他項を参照とあるので、見てみたのだが…

 

なんだ、これ?

どこにも「食後高血糖」という単語がないぞ?

 

DECODEのことにも言及がないようだし、「厳格な血糖コントロールが大血管症の発症抑制に有効である」との記載はあるが、その具体的な内容についてはよく分からない。厳格な血糖コントロールとして引用されている研究は強化インスリン療法なので、だとすれば食後の血糖値も抑制されているだろう。強化インスリン療法なら大血管症の発症を抑制できるとして、では、経口薬のみ、あるいは持効型インスリン+経口薬(BOT療法)の糖尿病患者の場合はどうなんだ?

 

参照先に求める情報が記載されていないガイドラインって、なんなんだ?

現場の医師は、このガイドラインの内容で糖尿病患者の診療に当たることができるのだろうか。

 

ともかく、どうやら食後高血糖は大血管症リスクと関連がありそうだ。

つまり、HbA1c 7.0%未満達成だけでは、大血管症の発症を抑制しきれないのだと思われる。

 

と、わたしがブログ記事をチンタラ下書きしている間に、ドクターシミズがこんな記事をアップしていた。

 

空腹時ではない随時血糖値と様々な疾患のリスクここ

 

ここで紹介されている論文によると、

血糖値が144~199ではそれぞれのリスクは、網膜症12.73倍、末梢神経障害2.48倍、糖尿病性腎症11.57倍、末梢動脈疾患1.33倍、心筋梗塞1.4倍です。

網膜症と腎症では血糖値が117~143の人でさえ約5倍、99~116の人でさえ1.9倍のリスクがあります。

随時血糖値が200 mg/dl未満であっても、合併症リスクが高いことが示されたとのこと。

 

元論文を確認していないのだが、随時血糖値ということなので、食後2時間血糖値とは違うと思われる。つまり、空腹時に近いものも、ピーク血糖値に近いものも含まれたデータだろう。その点は注意が必要だ。

 

日刊ゲンダイヘルスケアには、こんな記事が出た。

 

予備軍の中でも脳卒中・心筋梗塞のリスクがより高い人は?ここ

 

この糖尿病予備群ですが、さらにもう少し突っ込んで言うと、心血管疾患のような重大病を引き起こすリスクが非常に高い人と、それほどでもない人がいます。最も注意すべきは、「脂質異常症がある」「高血圧がある」「家系に糖尿病患者がいる」「家系に心筋梗塞/脳梗塞患者がいる」「食後の血糖値が高い」に該当する人。該当する項目が多いほどにリスクは高いと考えてください。

一方で、比較的リスクが低めなのは、高血圧や脂質異常症がなく、家系に高血圧患者がいなくて、空腹時だけ血糖値が少し高くなる人です。同じ糖尿病予備群であっても、危険度が大きく異なってきます。(中略)

日本人は欧米人と異なり、食後の血糖値が高い人が多いといわれています。だから食後の血糖値のチェックはとても重要なのですが、一般的な健診では空腹時血糖値しか見ません。だから、食後の血糖値が高くても「異常なし」となってしまうこともあり、かつては「隠れ糖尿病」とも呼ばれていました。(中略)

食後の血糖値がどうかを調べるには、持続自己血糖測定器(商品名リブレ)を購入して測ってみるのが、一番手っ取り早いと思います。(中略)

食後の血糖値が高ければ、糖尿病予備群であっても、より一層気を引き締めて対策を講じなければなりません。

 

糖尿病予備群(境界型)であっても、食後高血糖があると心血管疾患リスクが高いのだ。だから、リブレが有効である、としている。

 

欧米人はインスリン抵抗性型の糖尿病が多いからか、空腹時血糖値が高くても食後血糖値はそれほど上がらないことが多いようだ。それに対し、日本人は空腹時血糖値が低くても食後に血糖値スパイクを起こしている人が多く存在する。

欧米人がリブレを活用する意義は小さいかもしれないが、日本人にとっては重要なツールとなり得るのだ。特に、標準〜やせ型体型で、自分に糖尿病リスクがあるかも?との自覚が少ない人にとっては。

 

糖尿病患者の血糖コントロール目標は、HbA1c 7.0%未満。

この数字がひとり歩きしてしまっているように思う。

そのためだろうか、患者の勘違いが発生してしまっている。

前にも書いたことがあると思うが、以前、父親にこう聞かれたことがある。

「HbA1cが7.0%までやったら、糖尿病と違うらしいな?」

なにを急にとぼけたことを言い出したのかと問い詰めると、どうやら話の出所は知人(高齢男性)らしく、その人曰く「医者がそう言った」。

 

患者というのは、医者の説明を自分の都合のいいように解釈しがち。

この場合も、おそらくは「(合併症予防のために)HbA1c 7.0%まで下げろ」と言われたことを、「HbA1c 7.0%まで下げたら糖尿病ではなくなる(糖尿病が治った)」と解釈したのだろう。

 

こんな勘違いをするのはこの人だけかと思いたいところだが、今度は母親の知人(高齢女性)が全く同じく「HbA1cは7.0%までなら糖尿病じゃない」と口にしたらしい。この女性の場合、高血圧で内科クリニックに通院していて、そこで血液検査も受けているようで、「わたしは血圧は高いけど、糖尿病ではない」とのこと。母親が「HbA1cは測っとるん?」と聞くと、「うん、6.5%」。なので、母親が「それ、糖尿病やん」と指摘したのだが、「いや、違うで。7になったら糖尿病やろ?」と、真面目な顔で返されたらしい。

この場合は、おそらく医師から「7.0%になったら治療を始める」と言われているんじゃないかと思われる。ちなみに、この人が通院しているクリニックの医師は糖尿病専門医ではない。

この女性はわたしも知っているのだが、完全な肥満体型だ。だから、減量すれば血圧も血糖値もかなり改善すると思われる。が、全くやせる気はないらしい。家族3人で食べようと買ったみたらし団子5本を、一人1本ずつなら余るからと、先に1本だけこっそり食べようとして、結局ガマンできずに5本全部食べてしまう…なんて話をケラケラ笑いながらする人だ。あっけらかんとしていて気持ちがいいくらいだけれど、まあ、それではやせないし、血圧も血糖値も下がらないだろう。というか、そんな食生活と体型なのに、HbA1c 6.5%程度ですんでいるのだから羨ましい。

 

「血糖値に囚われすぎるな」というのは一理ある。

だけど、「HbA1c 7%未満で安心するな」というのも一理あるんじゃないかな。

食後高血糖は要注意であることは間違いない。

欧米人での基準を重視して、目の前にいる日本人患者の特性に向き合わない糖尿病治療って、どうなんだろうね。

 

 

<おまけ>

 

ベゾス氏、地球の美しさに「畏敬の念」 宇宙飛行終え会見ここ

 

有人宇宙飛行が成功して以来、「宇宙から見た地球は美しかった」とか、「薄い大気に守られている」「この美しくはかない地球を守らなければ」などなど、宇宙飛行を経験した人はみな、地球に対して畏敬の念に駆られるようだ。

 

そして、「この光景を、一度は自分の目で見るべきだ」なんて言ったりするんだけど、そのたびに疑問に思っていた。

ロケットの打ち上げって、どれくらい環境に負荷をかけてるんだろう?と。

打ち上げの瞬間だけじゃなく、ロケットの生産過程から全部トータルで。

美しくはかない地球の姿を一瞬見るために、その地球の環境に莫大な負荷をかけているのなら本末転倒じゃない?

 

軌道エレベーターが実現したら、少しは負荷が減るのかな?

本当に実現するのかな?

実現するとしても、わたしがそれを確認するのは難しいのかなー?