日が落ちるのが早くなって、すぐに夜がやって来る季節となった。
そんな秋にぴったりの読み物を見つけた。
田原保宏の「数理糖尿病学」(リンクはこちら)
今年1月からスタートし、この10月に9回目の記事がアップされている。
田原氏は兵庫県明石市の明舞中央病院の院長をされている糖尿病内科医だが、
その経歴が変わっている。
もともとは東大工学部、大学院を卒業し、
富士通で工学系研究者として働いていたが、
大阪大学医学部に学士入学して糖尿病専門医となった。
そして、「HbA1cはいつの血糖を反映するか?」という基本的な問題について、
数学的に解き明かすことから研究が始まったそうだ。
研究を始めた1990年ごろは、
「HbA1cは1か月前の血糖を表す」とされていた。
しかし、「1か月前の血糖」とはなんだ?という疑問から、
研究がスタートしたのだそう。
そこで、実際の臨床データからモデルを構築し、
数式によって明らかにしていくのだけど…
いやぁ〜、眠くなる、眠くなるw
だめだ、わたしの頭は数理糖尿病学を拒絶してしまうわ。
なので、過程はともかく、結果だけ。
結論としては、HbA1cに対する過去の血糖の寄与率は、
直前の1か月が50%、その前の1か月が25%、さらに前の1か月が25%である、
ということが分かった。
赤血球の寿命は約120日(4か月)なので、
赤血球に含まれるヘモグロビンは、
4か月の間に徐々に糖化されていく。
そして、赤血球が寿命で死ぬと、糖化ヘモグロビンも消失する。
これが日々繰り返されている。
これ、1か月の平均血糖の寄与率で考えてるけど、
これをもっと細かくすれば、
たとえば1週間ごと、あるいは1日ごとの血糖値、
リブレを使っていたら15分ごとの血糖値でも同じことが言えるんだろう。
なので、リブレの血糖値からHbA1cを計算できるということになる。
直近の血糖値が強くHbA1cに影響する、ということを考えると、
甲状腺手術で1週間入院したときの高血糖が、
その3週間後の糖尿病内科受診時のHbA1cには強く反映したが、
入院から3か月後の前回受診時には、その影響はかなり薄まったのだな。
糖尿病の指標として当然のようにHbA1cが用いられていて、
患者であるわたしは検査結果に一喜一憂しているわけだが、
本来は糖尿病というのは高い血糖値が問題である。
HbA1cは過去の平均血糖を知るための手段として用いられている。
しかし、HbA1cと血糖値の関係がきちんと確立されているのかというと、
実はいまだにきちんと決まっていない。
最初にきちんと調べられたのは、
2002年のDCCT (Diabetes Control and Complications Trial)の報告。
このDCCTでHbA1cのNGSP値という標準体系が確立された。
そして、1日7回(毎食前、毎食後90分、就寝時)の血糖値を測定、
平均血糖へとHbA1cの関係を調べた。
そのグラフから導かれた回帰式は、
平均血糖=HbA1c x 35.6 - 77.3
つまり、HbA1c 1%当たりの血糖は35.6 mg/dlに相当するという結果だった。
しかし、個々のデータは大きくばらつき、
回帰直線からのずれは大きいもので70mg/dl、
HbA1c換算で2%もばらついていたのだが、
HbA1cと平均血糖の間に高い相関があったことが重視されて、
ばらつきについてはほとんど注目されなかったらしい。
こうして見ると、HbA1cが平均血糖を表すことが示されてから、
まだ20年そこそこなのだなと思うと驚きだ。
わたしがお遊びでOGTTを受けて、
2時間後でも200 mg/dlオーバーで
「おいおい、糖尿病やんか」と言われたころだ。
2008年のADAG (A1c-Derived Average Glucose) Studyの報告では、
まず、CGMと1日8回のSMBGをおこなってCGMのパラメーターを設定。
その後、4週間ごとに各2日以上のCGMをおこなうとともに、
CGM非施行日には1日7回のSMBGを週に3日以上実施。
12週のデータから各個人の平均血糖を計算、HbA1cとの関係を調べた。
そのグラフから導かれた回帰式は、
平均血糖=HbA1c x 28.7 - 46.7
つまり、HbA1c 1%当たりの血糖は28.7 mg/dlに相当するという結果だった。
しかし、やはり個々のデータは大きくばらつき、
大きいものでは30 mg/dl、HbA1c換算で1%以上のずれがあった。
しかし、DCTTの報告に比べれば、回帰直線からのずれは半分になり、
回帰式の精度が大きく改善した。
2011年のJDRF (Juvenile Diabetes Research Foundation) CGM Groupの報告では、
週に4日以上のCGMをおこなった。
そのグラフから導かれた回帰式は、
平均血糖=HbA1c x 24.4 - 16.2
HbA1c 1%当たりの血糖は24.4 mg/dlとなり、やや小さくなった。
このデータも大きくばらつき、
回帰直線から20~30 mg/dl、HbA1c換算で1%前後のばらつきがあった。
2013年のZhouらの報告では、
このころ、HbA1cと血糖値の関係には、
個人差だけでなく人種差があるという可能性も指摘されたため、
中国人における平均血糖とHbA1cの関係を調べた。
3日間のCGMをおこない、回帰式は、
平均血糖=HbA1c x 21.564 - 10.476
HbA1c 1%当たりの血糖は21.6 mg/dlと、
JDRF CGM Studyの結果よりもさらに勾配が小さくなっている。
この研究でもばらつきが大きく、40 mg/dl前後、
HbA1c換算で2%近いずれがあった。
2018年のBergenstalらの報告では、
やっと長期のCGMをおこなうことが可能になった。
その回帰式は、
平均血糖=HbA1c x 41.8 - 138.4
HbA1c 1%当たりの血糖は41.8 mg/dlと、これまでの報告より勾配が大きい。
これは、他の報告と違い、x軸に平均血糖を採用したかららしい。
田原氏が論文のデータを使って試算したところ、
HbA1cをx軸にして回帰分析をおこなうと
HbA1c 1%当たりの血糖は25~30 mg/dlと、他の報告と大きく変わらなかった。
うーん、グラフの描き方で結果が変わってしまうのって、どうなの???
このような報告における回帰式では、
HbA1c 6~7%ではどの回帰式も近いところを通るけれど、
勾配が異なるためにHbA1cが高値になると大きくずれてしまう。
回帰式の勾配が異なる原因としては、対象者の差が考えられる。
1型糖尿病や血糖コントロール不良例ではHbA1cがやや低値になる傾向があるので、
対象者や血糖コントロール状態が異なると勾配が影響を受ける可能性がある。
また、対象者のデータのx軸に対する分布幅が小さいと、
回帰式の勾配が小さくなりやすいという現象があるので、
データがx軸の広い範囲に分布している必要がある。
これらの報告の中で、平均血糖とHbA1cの関係を最も詳細に調べた論文は
ADAG Studyである。
糖尿病の知識がある患者ならよく知っている、この式。
平均血糖=HbA1c x 28.7 - 46.7
わたしも自分の検査結果が出るたびに計算してみる。
というか、換算表を作ってすぐに参照できるようにしているw
しかし、小数点のある数字が含まれた式は美しくない。
もっと使いやすい関係式で表せないか?
田原氏は以下の簡易式を推奨している。
HbA1c (NGSP)=平均血糖 ÷ 30 + 2
変形すると、
平均血糖=(HbA1c-2) x 30
これもよく見かける式だろう。
しかし、なんとなく小数点を含んだ式の方が「本物」らしくて、
そちらを採用して計算している人が多いんじゃないだろうか。
てか、わたしがそうであるw
しかし、実際には問題になるほどの違いはない。
というか、どっちにしろただの目安だと思えば、
簡易式で十分なのである。
HbA1cと平均血糖の関係式は、誰にも当てはまる絶対的なものではない。
各個人でずれがあって当然のものなのだ。
ADAG Studyでも、HbA1c 1%当たりで最大で30 mg/dlのばらつきがある。
このことについては、しらねのぞるばさんもブログ記事にされている。
HbA1cは『過去2か月の平均血糖値』ではありません[2](リンクはこちら)
HbA1cというのは、血糖値に比例して糖化されるヘモグロビンの割合だ。
ヘモグロビンは赤血球に存在し、
赤血球は約120日の寿命と言われている。
つまり、産まれてすぐの赤血球のヘモグロビンは全く糖化されていないが、
120日の間に少しずつ糖化され、
赤血球が死ぬと糖化ヘモグロビンも消失するというサイクルとなる。
しかし、赤血球の寿命には個人差があり、
100〜140日の幅があると言われている。
赤血球が長生きする人だとHbA1cは高めとなるし、
赤血球の寿命が短い人だとHbA1cは低めとなる。
かかとに強い衝撃を与えるような運動を継続していると、
赤血球が壊れやすいといわれる。
この場合、赤血球が新しくどんどん作られるので、
HbA1cは低めになるかもしれない。
あるいは、閉経前の女性も同じことが言えるかもしれないが、
鉄欠乏などで赤血球が新しく作られにくい状況だと、
むしろ赤血球は寿命が延びて貧血を補おうとするかもしれない。
合併症予防のためには、HbA1c 7%未満が目標とされる。
でも、同じHbA1c 7.0%であっても、
平均血糖が135mg/dlと165mg/dlの場合がありうる。
当然、平均血糖が高ければ、同じHbA1cでも合併症リスクは高いだろう。
わたしは糖尿病発覚時のHbA1cが15%だった。
平均血糖を計算すると、383.8 mg/dlとなる。
しかし、泌尿器科クリニックでの検査では754 mg/dlで、
翌日の市立病院での検査では489 mg/dlと、
計算から導かれる血糖値よりかなり高かった。
もちろん随時血糖なので、もっと低いときもあったのだろうけど、
だとしたら、かなり低い時間帯がないと釣り合いそうにない。
このころのリブレデータがあったら面白かっただろうなー
(でも、リブレは500 mg/dlまでしか測定できないから、Hi表示になっちゃうか)
やっぱり、リブレは偉大だね。
HbA1cではなく、平均血糖値を実際に認識できるから。
ただし、精度に問題があるので、
そこがもう少し改善されるといいのだけれど。
…ていうか、HbA1cと平均血糖の人種差の話はどこに行ったんだ?
結局、人種差はなかったと言うことに落ち着いたんだろうか?
この連載は、このあとグリコアルブミンについて続いていく。
日経メディカルの記事は会員登録が必要だけど、
田原氏自身が運営するサイトは公開されている。(リンクはこちら)
こっちの方がよりマニアックで、取っつきづらいのよね。
わたしにはムリー
この内容をもう少し分かりやすくまとめたのが日経メディカルの連載。
なんとか頑張って読み進めようと思う。
しかし、数式を眺めていると頭がもうろうとしてきて、
ハッと気がつくと同じ行をずっと読んでたりするんだな(爆)
これでそのまま寝落ちしてしまえればいいんだけど、
残念ながらわたしは寝てしまえない体質なので、
ただただ頭がボーッとするだけなのがツラい(涙)
なので、この続きの記事が書けるかどうかは不明である…