4月12日の糖尿病ネットワークの記事より。

糖尿病によるインスリン抵抗性がアルツハイマー病の原因に メカニズムを解明

 

まず、このタイトルを見たときに思ったのは、

インスリン抵抗性は糖尿病によって起こるの?ってことだった。

インスリン抵抗性によって(2型)糖尿病が起こるんだと思ってたんだけど。

 

まあいいや。

 

本文を読むと、まずは以下の記載がある。

 

「東京大学の研究チームは、(中略)、高脂肪の食事を摂り続けることで脳に代謝ストレスが生じ、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβが蓄積するメカニズムを解明した」

 

ここでは糖尿病ではなく、

高脂肪食がアルツハイマー病(AD)の原因となると書いてある。

 

これは大変だ。

だって、軽い糖質制限であっても、

カロリーを十分に摂取するためには脂質摂取量を増やす必要があるから。

スーパー糖質制限ならなおさらだ。

きっと、糖質制限反対派、特に脂質制限派は、

「そらみたことか!」と歓喜の声を上げていることだろう。

わたし自身、脂質摂取量が増えることにそれなりの抵抗感が残っているし。

 

ということで、糖尿病ネットワークの記事にリンクされている論文を読んでみた。

 

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Differential effects of diet- and genetically-induced brain insulin resistance on amyloid pathology in a mouse model of Alzheimer’s disease(Molecular Neurodegeneration 2019年4月12日)

 

まず、確認しておきたいのが、

これはマウスを用いた実験であり、ヒトでの観察ではない。

加齢とともに脳にアミロイドβタンパク質(Aβ)が蓄積するADモデルマウスでは、

10ヶ月齢ごろからAβの沈着(アミロイド斑)が見られるようになる。

3ヶ月齢まで通常食(chow)を与えたのち、高脂肪食(HFD)に切り替えて

アミロイドβの蓄積度合いを調べた。

 

すると、HFD群では5ヶ月齢くらいから

chow群に比べてAβの蓄積が見られ始め、

9ヶ月齢になると有意に上昇していた。

HFDによる変化は、アミロイド斑が現れるよりずっと前から起きていた。

 

AβはAPPという前駆タンパク質から切り出されて作られる。

Aβの蓄積が産生の増加によるものなのか、分解の減少によるものなのか調べた。

すると、産生の増加は認められなかった。

Aβの半減期は、5ヶ月齢では両群に差はなかったが、

9ヶ月齢ではHFD群の方が有意に長くなっていた。

このことから、Aβクリアランスの減少がAβ蓄積に関与していると示唆された。

 

HFD摂取によるAβの蓄積は9ヶ月齢ですでに起きている。

この時点で、飼料をHFDからchowに変更、

またはカロリー制限食(CR;自由摂食時の通常食の70%カロリー)に変更、

15ヶ月齢でのAβ沈着を調べてみた。

HFDからchow、またはCRに切り替えると、

Aβの沈着は劇的に減少した。

ちなみに、HFDではなくCRをずっと与えていた場合は、

コントロール群であるchow群よりさらに沈着が減少している。

 

マウスにHFDを与えると、早い時期からインスリン抵抗性が現れ、

高インスリン、高血糖となる。

HFDによるAβ蓄積増加は、インスリン抵抗性によるものなのか、

それともインスリンシグナル伝達の減弱によるものなのか?

それを調べるために、ISR-2遺伝子を欠損したマウスを用いた。

ISR-2とは、インスリン受容体に結合して、

インスリンのシグナルを下流に伝える因子のひとつである。

これを欠損しているとインスリンのシグナルが上手く細胞内に伝わらず、

高インスリン、高血糖を呈するようになる。

 

9ヶ月齢のISR-2欠損ADモデルマウスのAβ蓄積を調べたところ、

ADモデルマウスに比べてAβの蓄積が有意に低下していた。

また、15ヶ月齢におけるAβ沈着は、

IRS-2欠損マウスでは劇的に減少していた。

 

このマウスにHFDを与えると、

さらに高インスリン、高血糖になる。

(ADモデルマウスのおおよその空腹時血糖値;100 mg/dl、IRS-2欠損マウス;200 mg/dl、ISR-2欠損HFDマウス;300 mg/dl)

(同じくおおよそのインスリン量;0.5 ng/ml、1.5 ng/ml、3.0 ng/ml)

 

インスリン抵抗性を生じる原因は、炎症および小胞体ストレスと考えられている。

そこで、脂肪組織における炎症性サイトカイン(TNFα)と

小胞体ストレス関連遺伝子の発現を調べた。

IRS-2を欠損していないマウスにHFDを与えると(黒のバー)、

当然ながら炎症性サイトカインや小胞体ストレス関連遺伝子の発現が増加する。

しかし、IRS-2欠損マウス(グレーのバー)では、

高インスリン、高血糖状態ではあるが、

これらの遺伝子発現の増加は見られない。

 

では、IRS-2欠損マウスにHFDを与えたらどうなるか。

やはりHFDによってこれらの遺伝子発現が増加し、

インスリン抵抗性を生じたと考えられる。

この状態でのAβの蓄積を調べた。

 

IRS-2欠損によりインスリンシグナル伝達が弱いとAβ蓄積は減少するのだが、

その効果はHFD摂取によって打ち消され、

Aβの蓄積、および沈着が見られるようになった。

このことから、Aβ蓄積にはインスリンのシグナル伝達ではなく、

インスリン抵抗性の増大が関与していると考えられた。

 

結論:高脂肪食によりインスリン抵抗性が生じ、そのことがAβ蓄積を増加させ、アルツハイマー病発症リスクが高まる。

しかしながら、高脂肪食から食事を切り替えインスリン抵抗性を改善することで、Aβ蓄積を可逆的に減少させることができる。

アルツハイマー病リスク軽減のために、脂質制限を!

 

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さて。

このように論文の内容を紹介すると、

やはり高脂肪食はよくないように感じる。

しかし、本当にそうなのだろうか?

 

長くなるので、続きは次回とする。