ある事柄のプラスとマイナスの両面を考えるというのは、業種は何であれ、リスク管理を必要とする場ではとても大切な考え方と言えます。その典型例が農薬などの化学物質でしょう。
ベネフィットもあるし、適切な運用をしないとマイナスもある。しかも、その振る舞いは完全には把握できていない面も合わせもっています。ですから「リスク管理」が必要なのですね。
温暖化問題も、同じだと感じます。プラスの要素とマイナスの要素があります。さらに、この両面の要素でさえ、まだ分かっていないことが多々あります。しかし、何かしら、上手にそれと付き合わないとなりません。
マラリアとDDTにまつわる話は、こうした例として最適に思います。今でも年間5億人が感染し、毎年100万人が死亡しているのですから、これ以上、切実なテーマもないでしょう。
「温暖化するとマラリアの感染が増える」と非常に単純化された言い方がよくされます。これはマラリア寄生虫が蚊の中で成長するには、温度が16℃以上40℃以下であることが必要、という事実に基づいています。
第二次世界大戦後、DDTを使った蚊の駆除と繁殖地制御が徹底的に行われるまで、先進国でさえ、マラリアは非常にありふれた疫病でした。
実際、小氷期であった16世紀から18世紀にかけてのヨーロッパの湿地帯でも蔓延していましたし、治療薬として知られるキニーネが発見されたのも16世紀のことです。以来、各地で繰り返し大発生を繰り返してきました。
小氷期から見ても、またこの100年でもいいのですが、地球は温暖化してきています。しかし、ある地域ではマラリアは根絶に成功しており、ある地域では未だ猛威をふるっています。
温暖化することで、マラリアの基礎的なリスクが上がることは確かです。しかし、そのリスクを適切に管理するには、より重要な要素が他にあることを、歴史は教えてくれています。
マラリアのリスク管理に大事なことは、貧困に起因する栄養状態の改善であり、公衆衛生であり、医療体制であり、蚊の駆除や繁殖地の制御などです。これら重要さに比べれば、多少の温度上昇は決定因になど、なりようもありません。
アル・ゴアは明らかに、マラリアのリスクを誇張し過ぎています。人命に関わることだから、危険性を知ってもらうために、そうした手法もありなのだ、という論理をよく見聞きします。それは誤りです。
人命に関わることだからこそ、より適切な情報が必要なのであり、誤ったリスク理解は、別のリスクを生むだけです。
人の命が失われる現場にいる人間にとって、アル・ゴアのようなやり方は、最低の方法論です。補足として中西準子氏のサイト にも、悲惨な現状についての記事があります。

