わたしが劇作家として唯一影響を受けた宮沢章夫氏が亡くなった。
知ったのは別れた妻からのLINEだった。
本を読まない彼女でさえ、氏のエッセイのファンだった。
氏とは、何度か会う機会があった。
しかし、深く話す機会は無かった。
彼が作演出を手がけた作品を下北沢のスズナリ劇場に観にいき、終演後打ち上げに行った。
彼は下戸である。
しかし、演劇人の慣習になっている打ち上げには参加する。
主催者だからということもあるだろうが、演劇人は打ち上げはルーティンに組み込まれているのだ。
わたしは、小用を足しに御手洗にたった。
入ってすぐに男が入ってきた。
宮沢章夫だ。
「どうも」とお互い挨拶する。
小便器に向かって用を足し出した時、氏は真横の小便器に陣取った。
びっくりした。
他にも小便器はあるのに真横に来るか、普通と思いつつも緊張したわたしは、「お疲れ様でした」と声掛けた。
返ってきた言葉は「どうも」だった。
宮沢章夫氏はあの当時は長髪だった。
打ち上げの時にやたらと『腰痛』の話をしていた。
わたしにとっては心の師匠である。
安らかにお休みください。
そんなショックから少し立ち直って、書斎に入る。
先日の台風14号が過ぎ去って、秋の空気がやってきたことで、先日までのモワっと感はさすがに無くなった。
少しひんやりする書斎でこの一枚を聴いている。
元Thee Michel Gun Elephantのチバユウスケと元ブランキー・ジェット・シティーの照井利幸、シャーベッツのMASATOが組んだロックバンド、Rossoが2002年に出したファーストアルバム『BIRD』だ。
この面子から想像に難くない、ゴリゴリなストレートなロックンロールだ。
そんな中でも特筆すべきセンチメンタルな曲『シャロン』が、個人的には好きだ。
歌詞は散文的でよくわからないが、出だしの「サンタクロースが死んだ朝に」というのは、子供から思春期(大人)への移行を言っているのではないではないだろうか。
結成時、チバはまだThee Michel Gun Elephantと並行していたが、その後、解散してRossoに重きを置いて活動をする。2006年の活動休止後はThe Birthdayで活動をしていることはよく知られたことだろう。
4年間の短い期間にアルバムは3枚出している。
2枚目からはドラムのMASATOが抜け、元フリクションのイマイアキノブとサトウミノルが加入して4人体制になる。
本作は3ピースバンドだが、そうは思わせない激しく重い音を奏でた出来のいいロックだ。
ただ惜しいのが個性を感じさせるのが先に述べた『シャロン』と7曲目の『モータープール』くらいで、他の曲は似通っていて物足りなさを感じる。
それでもチバと照井という顔合わせはたまらないものがある。
日本のロックシーンを今後語る上で外せない一枚であることは間違いない。
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