例に漏れず今夜も愛犬の悪気のない粗相が心配で中々眠れない。
一応、ベッドに入っては見たが眠れずにいた。
ふと『知の巨人』と言われた立花隆氏の事を思い出した。
「立花さんも、去年亡くなったんだな」と思ったのと同時に、1度見かけた時のことを思い返していた。
なんの用事で文藝春秋社に出向いたかは忘れてしまったが、ビルから地下鉄の赤坂見附駅に向かって歩いていた時に立花さんとすれ違った。
立花さんの著書のファンだった事もあって、ご挨拶がてら握手をしてもらおうかと思ったが、とてもしてもらうのが烏滸がましく思い止めた。
氏は飄々とあの柔和な表情で文藝春秋社ビルに向かって歩いていた。
わたしの東京時代は本当に人との出会いに恵まれており、お付き合いはなかったが、立花さんとのすれ違った一瞬だけでも嬉しかった。共通の知人が数人いたのでご挨拶したら、他愛もない会話くらいは出来たかもしれないが、あのすれ違いの一瞬だったから、強烈なインパクトとして記憶されたのだと思う。
尊敬し憧れたかっこいい大人の先輩達がどんどん鬼籍に入っていく。
その分こちらも歳をとっていっているのを気付かされる。
あの人達が今の日本や世界のことを見たらどの様な考えを持たれるだろうか。叶わぬ事とは解っていても聞いてみたい。
ふと思うと、わたしは気づくとゼロベースに戻っている。何かを構築していっていない恥ずかしさを感じる。
立花さんを初め、時代を鋭い知性で見てこられた人達と雲泥の差だ。
これから、どれだけ生きるか解らないが、持ち前の好奇心だけは薄れることなく、物事を見ていけるのかそれだけは失わなずに生きていくことを改めて心に刻んだ、台風上陸間近な夜だった。
そんな事を考えていたら目が益々覚めたので、書斎に行きこの一枚を聴いている。
ライムスターがメジャー移籍した2001年に出した1stアルバム『ウワサの真相』だ。
Creamの『サンシャイン・オブ・ユア・ラブ』をサンプリングで使った、本盤の同タイトルの三曲目をはじめ秀逸な曲が15曲詰まった彼らの代表作の一枚。
リリックはユニークなものが多く、肩の力が抜けた曲たちを楽しむことが出来る。
インディーズ時代の作品と比べると物足りなさは正直感じる。
個人的には『Walk On-Hey,DJ Jin Pt.2-』がお気に入りだ。DJ JINが珍しくラップしている。
今でこそアイドルの楽曲でも使用されるラップだが、タイニーパンクス(藤原ヒロシ、高木完)を筆頭にジャパニーズ・オールドスクールらの面々の頃は日本語はヒップホップに向いていないと言われていた。しかし、俳句などの文化があるこの国にはある意味ほかの国とは違ったアプローチでリリックを作れるはずだと、個人的には思っていた。
それを、体現してみせたのが、スチャダラパーやライムスター達だった。
日本の誇るサブカルチャーだった頃のヒップホップシーンは見ていて面白かった。
年を重ねて、現代のカルチャーに乏しくなった今、この時代にヒップホップがどのような立ち位置にあるかは解らないが、我々が知っている空気感(肩の力が抜けた遊び心)のままであるのだろうか。
例えば本作で言えば9曲目の『プリズナーPart 1,2,3』10曲目『グッド・オールド・デイズ』のような感じだ。
真剣にくだらないことをするのが面白いのだ。
そして、そのスタイルがわたしの生き方に影響を与えている。