この時期、急激に活動を増すのが『蚊』だ。
犬の散歩をしただけで10数箇所食われている。
痒い。
人の血を吸っといて、最後に嫌がらせに痒くさせるのはどういう事だ。
そもそも、耳元に飛んできた時のあの音が嫌だ。
なんとも言えないあの音。
就寝についたと思ったら、暗闇で聞こえるあのなんとも言えない音。
眠たい体に鞭打って、起きて電気をつける。
そして、なぜだか気配を消してどこを見るともなく手を広げて蚊のいる場所を探す。
中々見つからない。
傍から見たら、暗黒舞踏のような動きだ。
こちとら、眠いのだ。
早く殺して安眠につきたい。
見つからない。
諦めて、電気を消し一抹の不安を抱きながら、布団に入る。
徐々に意識が遠のいていく。
その時だ。
あの嫌な音が聞こえる。
蚊だ。
耳元を飛んでるらしい。自分の耳を叩く。耳がキーンとなる。
起き上がり電気をつける。
仕留めたかどうか、手のひらを見る。
死骸はない。
イライラする。誰に言うわけでもなく言葉を発する。
「もう!」
牛ではない。怒りに満ちているのだ。
その間に新たにかゆい箇所が出現する。
殺虫剤と虫除けスプレーが必要だ。
後で買いに行こう。
そして、郵便局に税金を払いがてらスプレーを購入してきて安堵している今聴いているのがこの一枚。
矢野顕子の1995年にリリースした16枚目のアルバム『Piano Nightly』だ。
ピアノ弾き語りで矢野顕子の魅力を最大限堪能できる一枚だ。
島崎藤村が作詞した童謡『椰子の実』をこういう解釈するかという、矢野顕子の天才ぶりに圧巻だ。
梅雨空の今日、心穏やかに聴くにはこういう一枚がもってこいだ。
ただでさえ蚊に食われたところが痒いのだ。
鎮静化させることが大事だ。
2曲目の『星の王子様(薬師丸ひろ子への楽曲提供曲)』、15曲目の『New Song』以外はカバー曲だが、矢野顕子のオリジナリティーが強いのでまるで本人の曲のようだ。
いずれの曲も矢野自身が旧知の仲(島崎藤村は別として)なのを見ると、いかに彼女のバイタリティーが広いかが解る一枚になっている(ジェームス・テイラーはどうだろう)。
わたしがこの中で一曲選ぶとしたら、細野晴臣の曲である『恋は桃色』だ。原曲ももちろん素晴らしいのだが、矢野顕子というエッセンスがさらに新しいニュアンスに変化している。
聴いているうちに蚊にやられたことも忘れてきた。
『音楽』とはやはりある意味『形のない薬』なのだ。
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