漫画 ランド 山下和美
読みたいなぁ〜と思っていたんだけど、なんとなく、そのままになっていた、山下和美『ランド』。
とりあえず、5巻まで読んで、想像以上に深くて、面白い。
ある山あいの村。
村人は、勤勉や実直を美徳とし、昼は農作業、夜は外に出ずに慎ましく暮らす。
四方をとりかこむ山には、東西南北の山の上に神が見下ろし、四ツ神様として、村人から敬い畏れられている。
塀の内、には、あやめ様、れんげ様と呼ばれる巫女が住み、いわゆる城下町のようになっている。
巫女の側近は動物の被り物をつけ、不作や飢饉になれば、神に祈りを捧げ、生け贄を差し出す。
この村の人々は、50歳になると、"知命"を迎え、亡くなる。無事に知命を迎えることは喜ばしいことであり、人々はトラブルを起こさず、真面目に、ただ穏やかに知命を迎えたいと思っている。
そんな村に双子が生まれる。
双子は不吉と忌み嫌われ、片方は山に捨てる風習がある。捨吉は、残った片方の子を杏と名づけ、片方は山へ捨ててきた。
数年後、死んだと思われた片方は、山に住むはみ出し者達によって助けられ、アンと呼ばれ、杏と同じ歳になっていた。
はみ出し者たちは皆、生け贄にされたり、山に捨てられたり、村からはじきだされた者たち。
村人とは関わらずに生きている。
村で、捨吉と叔母と暮らす杏は、好奇心旺盛。
死んだらどこにいくの?
山のむこうには何があるの?
村人たちが考えもしない疑問を次々と質問し、叔母に叱られる。四ツ神様のバチが当たるよ!!
そんな杏の前に、鳥の足に捕まったアンが現れる!!あの子は山のむこうを見たことがあるのかしら。
実は、この村は、、、、以下かなりネタバレ。
アマネとカズネという双子が作り上げた、世界。
山の向こうには近未来の日本が広がる。
ランドという会社で、社長のアマネとカズネは、実験場として?"この世"という素朴な人々の暮らしの空間を作り、日々観察していた
そして、アンは近未来へ行くことになり、杏はカズネからタブレットを受け取り"この世"で文字を初めて知る。
杏は、文字を得るコトでその世界から脱することができた。文字があれば、何年も前の人の考えを知ることができ、自分がいなくなっても、それを伝えることができる。
知識を得ることが、自由を得ることだと知る。
人の、"わからないこと"に対する不安、恐怖心を逆手に支配する。
それは、昔から、人が暗闇を怖がるように、神を畏れるように、それは自然発生していく。
そして、平和な時はいいが、いざ危うい状況になったときに、互いに監視したり、他人を蹴落としたり、自分以外の犠牲者をまつりあげたり。
そして、文字をもたないこの村の人々は、過去を忘れ、また繰り返す。
知命を迎えた人々は、実は死んだのではなく、まるであの世のような世界に連れていかれ、また働く。
洗脳、集団ヒステリー、利己主義、、、、人間の本質をあぶりだすような、実験場"この世"。
11巻で完結してるらしいので、どう落ち着くのか、めちゃくちゃ楽しみ
追記 8巻まで
天音と和音が作った、ランドという会社は、老化を止めるなにかを作って成功した会社らしい。
この世の、あやめ様は、天音の奥さんで、2人の子どもがれんげ様。
れんげは、実は、大会社ランドのご令嬢として、近未来のあの世で生活をしていて、自分もいつ老化を止める処置をしようかと思っていた。
しかし、いつまでも"仕事"で帰ってこない母あやめは、何をしているのか。この世に行ってみることにする。
そこは、山の向こう。隔絶された世界。
母あやめは、そこで巫女として生きていた。傍には、あやめを守る忠犬のような捨吉が一定の距離のむこうにいた。
時代錯誤な、子捨てや生贄などの風習にれんげは衝撃を受け、異を唱えるが、あやめはそんな人々の中に根付く生活をただ、見守って、その世界で老いていくことを決めていた。
その、あやめの視線の先には、捨吉がいた。
捨吉は、かつて生贄として子捨てされ、唯一生き延びた者として、あやめに拾われて、捨吉と名付けられた。塀の内で、あやめとしか話さず、あやめとしか目を合わせない。
自分とは目すら合わさない捨吉から、目が離せないれんげ。母に対する対抗心からか、れんげは捨吉に文字を教える。
捨吉は初めて塀の外に出る。
村八分になっていた実家には寝たきりの年老いた両親と、姉、そして、世話をするルツがいた。
ルツは、自分が正しいと思うことをし、捨吉と暮らすようになる。
が、村人に生き戻った生贄だと知れると、捨吉とルツは、縄をかけられ、あやめとれんげの前に引き出される。
ルツは咎めナシとされるが、捨吉は子捨て役を言いつかる。
あやめ、れんげ親子を魅了した捨吉。。。結局、捨吉が選んだのは、ルツで、、、
知命を迎えて死んだはずの平太の父は、山あいのある場所にいた。
そこには、今まで死んだはずの人がたくさん。これがあの世か。
と、水洗便所やある程度の近代生活を送りつつ、飛行機などの機械の残骸を解体する作業なんかを、ただ黙々としている。
追追記 読了❣️
実は、全て、天音と和音が作ったランド会社の事業一部。
知命という誇りを持って死んだ後の世界はココだった、、、ということに疑問を持たない。
そうやって、高齢者を集めてなるべく疑問を持たずに、働かせるための事業。
働けなくなると、さらに違う場所へ行くらしいが、、、
平太父と同僚ガジロウは、ちょっとその仕組みに気づきだしている。今いるココはどこだ。
死んだはずなのに、さらに死んだら、どうなるんだ。
ある日、ガジロウが小型トンボ機械を操作して、上空から働けなくなった人が収容されている施設を発見した。そこには、原発マーク
知ろうとしない、興味のない世界は、その世から無いも同然の世界。
つまり、お互いに知らない世界の中で生きている、、、ってこと。
ひとつは、文字もない原始の世界。50歳で人生を終え、まじないや神を拠り所としている世界。
天音と和音が神として作り上げた世界。
杏が暮らす。
ひとつは、死後の世界、とされている世界。ゴミが集まり、人もゴミも処理する世界。姥捨山的な場所か。
ひとつは、発展を遂げ、人々が不老不死に近づき、欲望が実現した世界。先端技術を駆使し、ストレス物質はAIによって取り除かれ、若さを維持でき、快適に暮らせる、、、理想の世界かもしれない。アンはここに連れて来られ、7年を過ごした。
この全て知るのは、天音と和音。
天音と和音の転機となった、あの大地震。
日本が国土のほとんどを失い、あの日、ふたりを助けてくれた男の人と、研究所で不老不死の薬を作った。死への恐怖。人々の行き着く先への好奇心。
少子化を食い止めるべく寿命を100年単位で延ばし、日本を株式会社化し、3つの世界を作ったものの、和音は時を止めたが、天音にはその薬は効かずに老いるばかり。
どこかで、ぶっ壊れちゃえ、、、と思っていた天音。そう思ったのは、画面の向こうの世界だから。
でも、その場で生きてる人がいて、和音は両方の世界を知っているからこそ、そこに愛着があった。
天音と和音がズレてきた。
そして、双子の杏とアンが、世界を変えた。
そして、平太の父とガジロウが疑問を持って変えようとした。
さらに、不老不死の薬の効果も綻びがみえはじめ、、、、
物語の着地は、ちょっと想像のさらにナナメ上だったな、、、
杏の恋心とか、
平太の恋心とか、
れんげの恋心とか、、、、もうちょっと見たかったかな。
地震、原発、少子化、肥大した欲望、、、、
意識して見ようとしなければ、見えない世界があり、考えようと、想像しようとしなければ、それは無いものとなる。
あたりまえを、ただ受け入れ、思考停止している民衆は、ダレかを神とかリーダーとかにまつりあげて、突き進んでいく、、、それは文明が進んでも、進んでいなくても人間の本質なのかも。
不老不死を手に入れ、ITの中で"実感"が無くなった世界って、今からちょっと先の世界のようで、末恐ろしかった、、、