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―日本王座6度目の防衛、おめでとうございます。
ありがとうございます。みなさんの応援に感謝しています。
―史上初となる3冠タイトルマッチを制した吉野さんですが、いまもアルバイトをしているって本当ですか?
はい。よく「チャンピオンだから稼いでるでしょ?」と言われますが、全然です(笑)。ボクサーのファイトマネーと建設現場での仕事を合わせると、年収は300万円ちょっとです。昨年息子も生まれたのですが、体づくりに必要な日々の食費・サプリメント費や治療費もバカにならないですし、僕だけの稼ぎじゃ到底暮らしていけません。
―奥さまはどんなお仕事をされているんですか? 歯科衛生士です。実は妻の年収の方が高いんです。お互い仕事と育児を分担しているので、今日もこの取材が終わったら18時に息子を保育園に迎えにいきます。
―トレーニングとアルバイトの掛け持ちは大変そうですね。
毎日、建設業の仕事が終わってから練馬の所属ジムへ通っています。朝5時に起きて現場まで行って、8時から17時まで働いたあとに三迫ジムへ移動します。18時半から21時頃までトレーニングをして、それから埼玉の自宅まで帰るので、就寝は0時になります。
―そうした生活をどれくらい続けているのですか?
プロボクサーになってから5年経ちますが、当初3年ぐらいは工場勤務と掛け持ちしていました。2017年に日本ライト級王座決定戦で勝利し、チャンピオンになったので、そのあとの1年間はボクシング1本に絞ったんですが、賞金だけでは十分な収入を得られなくて、今度は建設現場でアルバイトを再開しました。
―なぜ王者でも”稼げない”のでしょうか?
大会の賞金が少ないからです。プロボクシングの大会にはスポンサーがつかないことがほとんどです。RIZINのような総合格闘技の興行とは違って、ボクシングの試合で1000万円や1億円の賞金がつくことはないんです。大会スポンサーがないので、観戦チケットの売り上げに応じて賞金が決まります。プロボクシングの注目度が低く、観客数が思うように伸びないのも原因のひとつです。それに加えて、今年はコロナの影響があって、試合数も観客の数も少なくなってしまいました。僕はいま年間2、3試合しているのですが、王座を賭けたタイトル戦のファイトマネーは1試合100万円程度。そこから税金も引かれます。さらに、大会から支給される勝利者賞はたったの3万円です。しかもお金ではなく商品券3万円分。今回防衛した試合なんて、商品券ですらなくてSIXPAD(シックスパッド)の腹筋ベルトでした(笑)。
―ご自身でもチケット販売もされているのですか?
試合のチケットは自分で売らないといけないんです。SNSで宣伝して、購入してくださる方とDMで直接やりとりをするか、自分から周りの人へ「よかったら来てください」とLINEを入れてチケットを取り置いています。席の割り振りも自分でしています。だから試合で入場する時も、皆さんがどの席に座っているのか大体頭に入っています。自分のポスターも、欲しい方から連絡をもらって自分で配っています。
―スポンサー集めもチャンピオン自ら動いて行っているんですか?
はい、自分で探して自分で営業をかけています。現在、僕のスポンサーさんは6、7社います。地元・栃木の方や、東京で知り合った方が僕のことを知っていくなかで「応援したい」とスポンサーになってくれることが多いです。
―相場はどれぐらいなのでしょうか。
試合のトランクスに社名を記載する形で、スポンサー料は1試合3万円~10万円のあいだです。スポンサー料とファイトマネーだけでは生活していくのは厳しい。アルバイトだけしていた方が稼げるぐらいです。
―高校時代からのエリートで多くのタイトルを獲得してきた吉野さんにも、ボクシングが“キツい”と感じる瞬間はありますか?
仕事とトレーニングを両立させるのがしんどいです。朝早くから建設現場での肉体労働をして、それが終わったあとに、所属ジムでトレーニングをして、帰宅したら深夜で…っていう日々が身体にこたえます。現場では社長さんが気をつかってくれて、けがをしそうな作業は免除してくれているんですが、重いものを運ぶ作業なので終業する頃にはドッと疲れがきます。
―稼げないボクシングよりも、稼げる総合格闘技などへの転向を考えたりしますか?
確かに周囲にはキックボクシングへ転向するボクサーも多いですね。総合格闘技を見ていると、競技だけでなく、選手のキャラや派手なパフォーマンスがあって、エンターテイメントになっている。その点ボクシングの興行は地味なので、そういったエンタメ性の有無が、大型スポンサーがつく・つかないを左右しているのかなと感じています。
―引退の時期や引退後のネクストキャリアについて考えることはありますか?
僕は目などの大きなけがをしてしまったらやめようと考えています。ボクシングのけがは命に関わるものが多いので、脳や目をやられてしまうと引退後の人生にも影響を及ぼす。周囲でも、そういったけがでやめる人もいれば、「1度敗戦したら辞める」という人もいます。ボクサーは1試合に人生の全てを賭けているので、いくら強くて何十戦無敗を積み上げていても、1度負けたら全てが燃え尽きてしまう。そういう世界なんです。
―将来の不安は感じますか?
ボクサーをやめた後の生活について考えると正直不安ですね。プロ経験のある人のなかでもトレーナーになれるのはほんの一握りです。教えられる生徒も肩書きがあるトレーナーじゃないとついてこないので、チャンピオンの経歴がないとなかなかトレーナーにはなれない。僕はトレーナーよりも、飲食店など開業できたら、と考えています。
―次は世界戦が期待されていますが、試合の予定はありますか?
世界ランキンクは11位まで上がりましたが、世界戦のマッチを行うにはお金が必要です。いま、その資金が足りないんです。対戦相手もそういったメリットがないと受けてくれないので……。加えてコロナの影響もあり、対戦のめどは立っていません。でも、コンディションは上がり調子なので早く世界戦をやりたい気持ちでいっぱいです。お金が足りないという理由でせっかくのチャンスを逃したくない。世界ランカーであれば誰でもかかって来いという気持ち。日本にはもう敵がいないですから、とにかく闘いたいです。
<プロフィール>よしの・しゅういちろう/プロボクサー。1991年生まれ。栃木県鹿沼市出身。三迫ジム所属。作新学院ボクシング部時代にインターハイ・国体・選抜で優勝し高校4冠、東京農大ボクシング部では国体二年連続準優勝を果たす。大学卒業後、約2年のサラリーマン生活を経て、2015年プロデビュー。17年日本ライト級にて王座獲得。19年、OPBF東洋太平洋・WBOアジアパシフィックライト級王座獲得、20年9月、3タイトルを賭けた防衛戦で勝利し、日本ライト級王座では6度の防衛に成功した。
…非常に、ざっくばらんに語ってくださりました
厳しい
実に、厳しい
日本人ボクサーで、世界の壁の高いライト級とはいえ、いま、国内で最も評価の高い、三冠チャンピオンがアルバイト生活とは、実に厳しい現実…
早朝5時起きで移動、日中働いて、移動して、夕方からジムで練習、ほどほどで埼玉に帰って就寝は午前0時…
さらに、これに子育てにまつわる時間が加わる
ううむ
吉野選手で1試合100万かぁ
年に3試合…
ううむ
絶対に世界チャンピオンになって欲しいよなぁ〜
奥様もお子様も一緒に戦ってる
頑張ってください
絶対に獲ってくださいっ
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