1988年12月21日「ピューマ渡久地×川島郭志」 東日本新人王決勝戦 | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

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1988年12月21日 東日本新人王フライ級決勝戦 

後楽園ホール


ピューマ渡久地 3W3KO

×

川島郭志 3W3KO


この素晴らしいカードについては、度々ボクシング関連の書物の中や、ボクシングマニア衆が集まる酒の席などに登場します…


川島選手は後のWBC世界ジュニアバンタム級チャンピオンであり、6度の連続防衛を達成、そのテクニックは日本人歴代世界チャンピオンの中でも屈指の存在と言われており、いまなお、「アンタッチャブル」とえば、真っ先に浮かぶのはなんと言っても川島選手…という方も多いはず。


また、その才能は川島選手や鬼塚選手(後のWBA世界チャンピオン)を凌ぐとまで語られた渡久地選手は2度の日本王座を獲得し、さらに、当時のWBC世界フライ級チャンピオンであった勇利アルバチャコフにも挑んだ名選手… しかし、世界には届かなかったのですよねぇ…


平成三羽鳥…という表現で当時はこの川島選手、鬼塚選手、渡久地選手を評していたそうですが(僕はその頃はボクシングマニアではなかったけれども)、こんな風に同世代の日本人選手が同階級で凌ぎを削りあっていた時代…ってのがあったわけですね…


さらに、ここに後のボクシング界最大のカリスマ、辰吉丈一郎選手も登場してくるのだから、非常にいい時代だったのかもしれないですね…


その諸説はいろいろあるようですが、最初は鬼塚・渡久地・川島を以って平成三羽烏だったそうですが、川島選手が怪我等による戦線離脱時期もあって、鬼塚・渡久地・辰吉を以ってそう評した向きもあるようですが、いずれにせよ、なんだかうらやましい時代だったのだなぁ、ってちょっと感慨深くもなってしまう…


で、今夜はまさに、文字通りの「伝説の一戦」…に触れたいと思っております。


さて、この両者は前年のアマチュア時代のインターハイ決勝で対戦、川島選手が渡久地選手を降して優勝していたそうで(因みに、その準決勝では鬼塚選手をも川島選手が降している)、この辺りの因縁や時代背景を含めても、この一戦の価値は非常に大きなものがありますねぇ…


1R サウスポーの川島は距離を保ちながら長いリードから左ストレートを打ち込んでゆく… 一方の渡久地はその懐の深い川島と接近戦で勝負したそうだ… 有効打クリーンヒットの数では川島が上回ったか? 長い左、さらに、右フック、右ボディーブロー…と、印象に残るパンチが好印象… 川島10-9


2R 川島はその柔らかな上体を反らしながら渡久地の強打を鼻先でひょいひょいとかわしてしまう… そして、不意に打ち込むのはいきなりの左、さらにかなり遠くからでも届いてしまう右ボディーフック… が、渡久地の右ストレートが川島の顔面を直撃、川島が後退し、渡久地がその強打で追撃、ロープを背負った川島も必死の迎撃、至近距離でのスリリングなカウンター直撃必死の両者フックの応酬!!! と、ここでバランスを崩した渡久地が尻餅をついた… ダウンか!? いや、スリップだ… 再開後も渡久地のダイレクトライトに川島はのけ反る窮地が見られたものの、しかし、川島もその鋭い左で返礼… 非常に緊張感のあるラウンドだった… このラウンドは見栄えの良い有効打を放った渡久地のアグレッシブを評価する… 渡久地10-9


3R 手数で上回るのは川島… 渡久地の鋭利な左フックをするりとスウェーバックでかわすと、ひょいと突き刺すのは左から右ボディー、さらに、距離を狭めて繰り出したのは左右アッパーカット!!! 渡久地の強打はやや空転気味か…? 川島がリズミカルに有効打を積み重ねてゆく… ところが、渡久地のダイレクトライトが川島の顔面を貫くと、川島の動きは急に鈍りロープを背負ってしまう… 切れ味と滑らかさでは川島だが、一発と重みではなんといっても渡久地だ… 川島の足はやや重くなり、クリンチで凌ごうとするような場面も見られた… しかし、川島も打ち合いに応じる気風の良さも発揮… しかし、これは渡久地にとって都合の良い「打ち合い」の土俵であるように見える… さて、このラウンドは採点が難しい… 有効打数で上回ったのは川島だが、見栄えの良い攻勢を作ったのは渡久地か…? ダメージは川島の方が深そうだが… ここは川島の有効打数を採る!!! 川島10-9


4R やはり、中間距離では川島が有利、渡久地のパンチが空を切り、その腕が引き戻されると同時に繰り出される川島の長いパンチ、そのコンビネーションは見事に渡久地の顔を跳ね上げる… が、やはり、渡久地のいきなりの右がきっかけとなって川島は後退してしまった… ニュートラルコーナーを背負って右、左、右…と渡久地のハードパンチをまともに喰ってしまった… これは効いている!! 川島、頭をつけての接近戦のボディー打ちで反撃するも、しかし、ここは渡久地の圧倒的攻勢を採る… 渡久地10-9


5R  柔らかい川島とぶれない渡久地… 本当に好対照な二人の戦い… しかし、渡久地のぶれないボクシングが徐々に徐々に柔のテクニシャンを追い込んでゆく… 川島のソリッドパンチ、その淀みないコンビネーションが炸裂するも、しかし、渡久地はまったくひるむ気配を見せず、倍返しとばかり重い右パンチで川島を押し込んでゆく… 川島はその天才的な上体移動で決定打こそ許さないものの、しかし、渡久地の真っ向からの打ち合いに次第に飲み込まれ、翻弄されていくのが見てとれる… さらに、渡久地は川島をコーナーに追い込むと、脅威の左ボディーブロー5連発6連発を見舞い、さらなる追撃をしかける!!! 川島、苦しい…が、しかし、手を出し続けて喰らい付く!!! 素晴らしい精神力!!!  渡久地10-9


6R ラストラウンド!!! その開始早々、渡久地の右をまともに喰った川島の頭が大きく跳ね飛ばされ、そして、のけ反った… 恐らくは川島にはすでにかなりのダメージの蓄積があったはずで、この強打をまとめて浴びてはいけない…!!! 川島はなんとかなんとか堪えるも、コーナーを背負った状態で喰ったのは、渡久地の右ストレートで、もはや足の踏ん張りの効かなくなった状態でそのコーナーから抜け出すも、渡久地の強打連打の前に意識はうつろな状態になっていたようであった… と、ここでレフェリーが割って入ると同時に、ついに、柔のテクニシャンはその腰をマットに沈めてしまったのだ… カウントが入る… なんとか川島は立ち上がるも、しかし、その揺れる膝はついに定まらず、テンカウント以内に続行の意思を伝えることができなかった… カウントアウト…


6R 1:24 KOで勝者、ピューマ渡久地!!! 東日本フライ級新人王獲得!!!


おぉぉ…


これが、これがその「伝説の一戦」の全貌であったのかぁ…


非常に興奮しました…


さて、しかし、このピューマ渡久地選手ですが、日本王座を無敗状態で連続KO記録を伸ばしながら獲得するも、しかし、その3度目の防衛戦で後の勇利アルバチャコフを迎え撃つはずが、これが直前でキャンセルになってしまったのですよねぇ… この騒動にも諸説あるようですが、いずれにせよ、ここでその王座は剥奪され、無期限ライセンス停止という処分を受けてしまうのですね… が、その再起一戦目でいきなりの世界ランカー、ヘスス・ロハスに挑むもこれに屈してしまうも、しかし、再び日本チャンピオンとなってついに世界タイトルマッチのリングへ昇ったわけですが、いつかの因縁の相手、勇利アルバチャコフだったのですよねぇ… が、この戦いは壮絶なる9RTKO負けに屈してしまうわけですが、その見事な負けっぷりは度々頭に浮かんできます…


一方の川島選手は同年代の渡久地選手や鬼塚選手らが輝かしく華々しく脚光を浴びる破竹の連勝を重ねる中でつねに苦悶の中にあったわけですね… 拳の骨折に1年以上の時間を掛け、さらにその再起の過程で再びのTKO負けを喫したり…とそのトンネルは非常に苦しいものだったに違いない… が、ついに日本チャンピオンとなって3度の防衛を果たした後に、時のWBC世界チャンピオンのホセ・ルイス・ブエノへの挑戦のチャンスを掴み、見事ここでダウンを奪って判定勝利し、念願の世界チャンピオンの栄光を掴むわけですが、日本歴代世界チャンピオンの中にあって、随一とされるほど研ぎ澄まされた「防御技術」でありますが、やはり、幾度かの敗戦で痛感し苦しんだ自身のある種の打たれ脆さと向き合い、これを死ぬ気で克服したからこその頂であった、と思うと、この渡久地選手との激戦、結果としての敗北の意味の大きさは計り知れない財産となっていた、ということになるわけですね…


いやぁ、なんという奥行きのある「伝説の一戦」でありましょうか…?


やはり、ここに僕はボクシングの王道のなんたるかを観たような気がするわけです…


敗れてこそ、初めて獲得できる「真なる強靭」と「真なる精神力」がここにある、ということですね…


無敗やら最短にこだわって話題性を煽ることもビジネス上必要な場合もあるでしょう…


しかしながら、僕はこの後の名世界チャンピオンと、後の名日本チャンピオンの苦しみと挫折と、その後の栄光こそが、まさに「本物」と呼ばれるべきはずのものであり、そして、それこそが僕の観たいものだ!!! って、改めて感じたわけですね…


本当に素晴らしい戦いでありました…


御愛読感謝


つづく