かわいい自分のボクサーが粉砕される時… | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

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人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

昨晩の夜遅く、WBAウェルター級タイトルマッチを観た…


チャンピオン アントニオ・マルガリート

×

挑戦者 シェーン・モズリー


マルガリートは無敗の前チャンピオン・コットをそのブルドーザーのような分厚いラッシングで粉砕し、スーパーチャンピオンとなった激闘派の30歳…


挑戦者のモズリーは過去にデラホーヤを破った元3階級制覇チャンピオンで圧倒的なキレとスピードを持つテクニシャン… しかし、もう37歳…


試合は序盤から37歳のジャブと右ストレートがキレまくる展開…


チャンピオンはモズリーのジャブを浴び、そして、左ジャブを繰り出す度にそれに右ストレートをまともに合わせられ、さらに右フックをカウンターで射抜かれる立ち上がり…


クリーンヒットを浴びる度、チャンピオンのマルガリートはニヤリ…と微笑むのだが、試合の主導権は奪われる…


一方のモズリーは中間距離から閃光のようなワンツーを繰り出してクリーンヒットを奪うと、す…っと距離を潰してクリンチに逃れ、マルガリートの反撃を巧みに封殺してしまう…


打ち合いになればマルガリート絶対有利、37歳モズリーのスタミナが失われ、そのスピードに陰りが見えたらマルガリートは絶対に捕まえるだろう…


と、考えていたが、しかし、あまりにもまともにパンチを「被弾」し続けてしまったチャンピオン…


が、喰っても喰っても不敵に微笑み続けるチャンピオンだったが、こうまともに喰い続けてはいくら世界最高峰の「タフネス」を備えていても時は歪み、感覚は崩れてゆく…


1Rからクリーンヒットを浴び続け、ポイントもほぼ全て吐き出し続けたチャンピオン、迎えた8R、終盤、ついに37歳モズリーに殴り倒された…


やや距離を残した場所から飛び込んだモズリーは左フックをマルガリートの顎先にぶつけ、そして、そのバランスを失ったチャンピオンに追いすがると渾身の右で追撃、超人的なタフネスを誇るマルガリートはなんとか踏み堪えたが、ロープを背負った状態で挑戦者のコンビネーションを浴び続け、ついにマットに這ったのである…


辛うじて立ち上がったチャンピオン、ここでゴングに救われたわけだが、しかし、素人目にもあまりにも深いダメージを負ったことは明白で、続行は危険な印象だ…



ボクシング&ロック野郎    higege91の夜明けはまだか?-Image352.jpg


…そのインターバル。


マルガリートの老トレーナーはその意識がぼやけたチャンピオンの頭から水を浴びせると、両手でチャンピオンの汗と水でびしょ濡れの頭を鷲掴みにして激しいマッサージを繰り返した…


ゴシゴシゴシゴシ…と。


もはやバラバラになりかけたその精神と肉体を繋ぎ止めようと、激しいマッサージを繰り返し続けた…


そして、時に、その頭を抱きこむと、大きな声で何かを語り掛けた…


試合前の予想では圧倒的優位とされていたチャンピオンだったが、ふたを開けてみればほぼフルマークで強烈カウンターを浴び続ける予想外の一方的過ぎる内容であった…


この時、このトレーナーはどのような気持ちであったのか…?


かわいい自分のボクサーが、今まさに、完全粉砕されようとしている…


37歳のスピードスター、モズリー攻略のために練り上げたであろう作戦は完全に失敗、さらに、試合中の軌道修正も全くできなかった…


自分の選手が粉砕されるのを見つめなければならないトレーナーという職業のある種の壮絶さが滲み出た、その、必死のマッサージに、僕の胸は張り裂けた…


もうダメだ… どう考えても逆転できない… 今夜のモズリーは完璧な調整と作戦を実践している… 万に一つも勝ち目はもうない… それでもチャンピオンは闘わなくてはならない… そして、このトレーナーももはやボロボロになったチャンピオンをコーナーから送り出さなくてはならない…


9Rのゴングが鳴り、メキシコの誇り・チャンピオン・マルガリートは、あっという間にモズリーにロープを背負わされると、そのコンビネーションの餌食となった…


レフェリーストップによる試合終了であったが、両者に割って入った瞬間、チャンピオンはマットに沈んだ…


昨晩は午前3時にこれを観て、しばらく放心してしまった…


いつまでもいつまでも老トレーナーがチャンピオンの頭に水を掛け続け、さらに、激しくマッサージし続ける様子を思い返した…


このような局面での、激しい劣勢を強いられたボクサーをバックアップするトレーナー・陣営の「気持ち」を想像して、胸が張り裂けた…


激しくマッサージすること、そして、例え僅かでも、その引き裂かれた肉体と精神を繋ぎ止めること、さらに、大きな声を出して勇気付けること…しか、彼らにはできないのである。


早めのストップ、私も賛成派   石井敏治 BOX-ONコラム


新日本木村ジムでトレーナーを務める超ベテランの石井さんのコラムであります…


その内容は、ボクサーがダメージを受けた際、そのダメージの累積によってダウンするまで試合を続行させるべきか、早期に試合をストップすべきかは…という難しい判断についての考察であります…


で、実はこのマルガリートとセコンドのR8のインターバルを観ながら思い出した場面があった…


それはいつかの東洋太平洋ウェルター級タイトルマッチ、チャンピオン 日高和彦×前チャンピオン レブ・サンティリャン2であった…


チャンピオンの日高選手、痛烈な強烈なパンチを浴びてダウンを喫し、そして、モズリーに滅多打ちにされたマルガリートと非常に似たような局面になったのを思い出すのだ…


そして、その時、セコンドについていたのはこのコラムの著者の石井トレーナーであった…


では、いつかのその試合の観戦記を掘り起こす…


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ああ、日高のチラシ


2005 12 3 後楽園ホール ダイナミックグローブ


東洋太平洋ウェルター級タイトルマッチ


チャンピオン 日高和彦

×

挑戦者 レブ・サンティリャン



…豪快に散った。日本唯一の重量級「1ケタ」世界ランカー(WBC9位)、OPBF東洋太平洋王者・日高和彦

(22W16KO4L・左ボクサーファイター)のV2戦だ。

 

 1撃で勝敗の行方がわからなくなるこの『ウェルター級』タイトルマッチ…。


 対戦相手は前・同王者・現3位のレブ・サンティリャン(比・21W15KO2L1D・左ボクサーファイター)…。


 前回は挑戦者だった日高が4RTKO勝ちで王座を奪取したわけだが、このリターンマッチは「KO必至」の触れ込みの大1番。世界の頂点が遠すぎるコノ階級で、日本人としてただ一人気を吐く世界ランカー・日高としては、『世界』の2文字にさらに「1歩でも前進」したい、負けられない1戦…


ああ、日高とサンティリャン1


 1R じわじわ出てくるレブ。迎え撃つ格好の王者・日高。


 僕的には「倒れろコノやロー!!」と、ゴングと同時に行って欲しかった。レブはパワーでは僅差で日高に劣る印象だが、技術的には日高の上を行く印象があったので、そのエンジンが掛かる前にリズムをこちらに引き寄せたい…と思っていた。…が、日高が後手に回る立ち上がりとなった。レブのリードの右が日高の頭を跳ね上げる。さらにクリーンヒットを浴びる。効いてる!?距離が悪いのか?暗雲立ち込める立ち上がり…。 レブ10-9


嗚呼、日高とサンティリャン2


 2R ゴング早々日高が当てるもレブの右フック?を喰らい、膝ががくんと揺れる。リードジャブがさらに日高の顔面に伸びてきて、それはことごとく当たるのだ。日高もクリーンヒットを当てるも、「決定的」ではない。さらに「細かいヒット」の数が違う。ここはおまけの互角10-10とするが、防御面が悪すぎる?このペースで喰らい続けると、やばい。


 3R 日高のジャブが当たり、左ストレートも突き刺さる。…が、レブはタフだ。手ごたえのありそうなパンチがヒットしても、相変わらずの右リードが当たるし、それをきっかけにコンビネーションもテンポ良く繋がって行く。日高は被弾が多い。よくない。 レブ10-9


嗚呼、日高とサンティリャン4


 4R 日高のパンチも当たるのだ。…が、それはことごとく『相打ち』になる。苦しい。さらに、コンビネーションがスムーズなレブのヒット数が多い。日高は連打ラッシュを繰り出して『見せ場』を作るも、総体的にやはりレブのポイントが高いか…? いかんせん、距離感で負けてる レブ10-9


 5R かすかながら『光明』が見えたラウンド。ジャブの刺し合いが互角に当たるようになってきた。日高のレブのコンビネーションの撃ち終わりに狙い打つ左ストレートが「見栄え良く」ヒットする!!よし、この距離を維持しながら、このリズムをキープしていけ!! 日高10-9


嗚呼、日高とサンティリャン3


 6R ある意味、このタイトルマッチの勝敗の分岐点はこの第6Rにあったように思う…。


 日高が攻める。レブが退く。日高はここぞとばかりに連打連打!! レブの瞼?をヒッティングでカットさせる。レブを赤コーナーに追い詰める。


 …ああ、日高の弱点がよりによって、この最も勝利に近づいたこの局面で現れてしまった。


 細かく連打から攻めたかった。そこで「ここぞ」という瞬間を見極めて欲しかった。


 …が、日高は全霊の力を込めた大振りのフック、身体を捩ってからの思いっきりのストレートの連打に繋げていってしまう。


 …レブは冷静にそれをかいくぐり、振りの大きくなった日高の顔面へ左ストレートをことごとく打ち抜いてゆき、この圧倒的なチャンスに、日高は後退を余儀なくされるのだ。


 「たられば」だが、第6Rのこのラッシュをあと少し冷静に攻められたら…。チャンスをじっくり作れたら…。「倒れろコノやロー!!」の連打が空を切り、日高は左ストレートを浴び後退してゴング…。


 ポイント的には日高だが、チャンスを逸した感は残った。日高10-9


 運命の第7R。蓄積した被弾。攻めに攻めてさがらされたことで、「スタミナ」面の不安が目に見えてくる。パンチの切れ、防御感が明らかに鈍りだした王者・日高に対して、前王者・レブは冷静だったし、肉体と精神のバランスが取れていた様に思う。力の抜けかけた日高に、R終盤、レブの『剛打』のコンビネーションがワン、ツー、スリー!! …と大炸裂!! 日高危うし!! ゴングに救われるも、もはや、ノーガード状態で浴びたコンビネーションは強烈過ぎた。あと15秒あったら倒されていた。もう危険な状態だった。レブ10-8


 R8 観客の誰もが、もう「勝算」のないことを感じていたに違いない。どう考えても無理だ。僕は「セコンド」に試合放棄して欲しかった。殺されに行くようなものだ。危険だ。冗談抜きに、抜き差しならない「死の危険」さえ漂う状態に見えた。もうグロッキーだ。パンチを振るうどころか、ガードを上げることさえ限界に見えた。


 …が、ゴングは鳴り、日高は「無意識」状態のような感じでコーナーを出た。レブは落ち着いてジャブから連打を放った。その結末は予定調和よろしく、日高は倒れた。もう止めてくれ!! レフリーはカウントを数えた。日高の身体が、ぐぐ…っと動いた。膝に力を込め、懸命に立ち上がろうと震えた。


ああ、日高とサンティリャン5


 観客は叫んだ。勝てるはずないのに、『立ち上がって』欲しい…。この気持ちは何だ?


 そうだ、日高に「勝者」になって欲しいのだ。…が、どう考えても無理なのに…。


 日高は立ち上がった。…が、レフリーは試合続行を許さなかった。


もしかしたら、意識は失われていたのかもしれない。きっと、そうだと思う。立ち上がったこと自体、『奇跡』のような、あり得ない出来事であった。


 凄まじい試合であった。日高はその後、再び倒れ、担架に乗せられてリングを降りた。


 王座陥落…。


 しかし、R8、あの連打を浴びて立ち上がった日高の姿は、まさに『執念』を絵に描いたような凄まじさであった。苦しかった。見ていられなかった。


 だが、僕はしかと見たぞ、その『奇跡のファイティングポーズ』を…!!


 立ち上がっても勝てないのに、立ち上がった日高…。限界を超えているのに、立ち上がった日高…。


嗚呼、日高とサンティリャン6

 

身体は大丈夫なのだろうか?担架で運び出されただけに、かなり「心配」である…。


湯場忠志がKO負けして、日高和彦までもがKO負けを喫した。


悔しいなぁ。R6のチャンスが大振りの雑な攻めで消えてなくならなかったら、十分勝機はあっただけに、悔しい。しかし、セコンドがR8送り出したのはわからない。…仮に非難されようとも、日高が「臆病者扱い」されようとも、R8開始前に「棄権」しても良かったのではないか?


非常に微妙であったが、今後の日高和彦のためにも、そうすべきだったのではないか?…という気持ちが残ったタイトルマッチであった。


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…という内容でありますね。


こちらは拮抗した内容でありましたが、さて、もはやこれ以上闘わせるのは「危険」なのでは…!? って場面を我々はよく目にしますが、この時、僕は石井トレーナーに続行を拒否して欲しかった…と本当に感じたのを覚えているのだ…


そして、その一方で、なんと辛い仕事なのだろう…と感じたのだ。


僕はこの試合を生観戦していますが、その時の記憶か、あるいは、後にもう一度見たテレビ中継録画での場面かは忘れたのですが、この時のR8、石井トレーナーが苦悶する様子を僕は見たような気がするのだ…


タオルを投げるか、あるいは、これほどの劣勢でも続けさせるのか…?


…そう、僕はボクサーたちを影から支えるトレーナーが苦悶に苛まれながら、それでも無情にも時が刻一刻と過ぎてゆくような局面を目撃する度に、あの時の石井トレーナーを思い出す…


あれほどの「超ベテラン」の方であっても、未だに苦悩・苦悶と戦われてらっしゃる…


ボクシングの奥深さと、その暗闇を感じた一瞬であった…


もはや放心状態に近いマルガリートの頭に浴びせられた水、そのトレーナーによって懸命に続けられたマッサージと、いつかの日高選手の危険な試合続行に、僕の胸は熱くなる…


逆転を本当に信じているのか…?


そんなことはあり得るのか…?


ボクサーに不用のダメージをこれ以上蓄積させる必要はあるのか…?


僕は早めのレフェリーストップを肯定する立場ですが、生観戦をしていて「担架」が登場する場面ほど辛い気持ちになることはない…


激しい打ち合いに興奮して絶叫するくせに、ノックアウトされて自分で立ち上がれないほどのダメージを選手が負った局面で、急に背筋が凍るような気持ちになって唇を噛む…


このような矛盾を抱えてもなお、僕がボクシング観戦が止められないのは、それはやはり、ボクシングがあまりにも「切実」だから…であります。


選手も、陣営も…


そして、観客でさえ、時にある種の「後ろめたさ」を感じながらも、それでも目が離せないのだ…


御愛読感謝


つづく