「筑豊のタイソン」の『糸』が切れた瞬間… OPBF S・フライ級タイトルマッチ(有永VS丸山)  | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

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人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

2005 8 22 午後6時 


 懲りない男、HIGEGE91はまたしても後楽園ホールにやって来ていた。


本日のメインイベントはOPBF王者 有永政幸(WBC11位)×同級8位 丸山大輔 の一戦。


 有永はこれが初防衛にあたり、前回王座奪取にも拘らず、出来が悪かっただけに王者として本当の実力を発揮したい。一方、「筑豊のタイソン」こと丸山大輔は『9試合連続1RKO』なんと言うとてつもない「記録」の持ち主。WBAバンタム級でも15位にランクしている。両者の戦績を確認しよう。


チャンピオン 有永政幸 

23戦18勝8KO4敗1分け(元日本スーパーフライ級王者) 左ボクサーファイター


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挑戦者 丸山大輔 

18戦18勝13KO無敗 (タイトル初挑戦) 右ファイター


 こうして戦績だけ見ると丸山のほうが「凄く」見えるが、過去の対戦相手や、実績で評価すると勝ち負けが交錯はしていても有永が有利か…?。デビューは1999年とほぼ同時期で、年齢も78年生まれで26歳同士で、さらに二人とも同じ「福岡県出身と共通項が多い。


 有永は安定感に難がアリ、丸山は経験値に難がある。キレでは有永、重さなら丸山…。スピードなら有永、圧力なら丸山…、判定なら有永、KO決着なら丸山か…?しかし、ボクは丸山をまだ記事でしか見たことなかったから楽しみで仕方なかった。ニックネームがいい。「筑豊のタイソン」とは…。


 しかし、調べてみると、最近過去5試合は全て10R判定勝。勢いが衰えたか、あるいは対戦相手がレベルアップしてきたのか?しかし、相手はみんな「タイ人、フィリピン人」みたいだし…。それと比べると有永は相澤国之(現日本1位)とか、川端賢二(現・バンタム3位)、田中聖二(前日本SF王者)…だとか、そうそうたる顔ぶれとのマッチメイクの中で叩き上げられてきている。勝ち負け引き分けと目まぐるしい有永の最近だが、これは「経験」って意味では丸山を圧倒している。地方のジムだと、やっぱり対戦相手探しから苦労しちゃうんだろうし…、などとあれこれ想像しながらメインを待つ。


 客の入りがもう一つだったので一般立ち見券(¥3,000也)でも悠々と南側出入り口を確保。前座第3試合で不覚にも睡魔に襲われ、岡田誠一(Sフェザー)のKOを見逃す。気を引き締めて第4試合の観戦。

 

 細野悟(Sフェザー)、元アマチュアライト級2冠王。…で、昨年の国体で先ごろワタナベジムからデビューした内山高志(こちらはもアマ王者、…で先日強烈なハンマーを打ち下ろすようなパンチで外国人相手に1RKOデビューを果たした)を倒した選手だそうな…。これは楽しみ!!っていうんで気を引き締める。

 

 対戦相手はワンチャナ・チュワタナ、タイ国3位のランカーだそうな。


1R 右構えのファイタータイプの細野に対して、ワンチャナ(…どっち構えか忘れた)…は中間距離で戦うボクサーファイター系。立ち上がりは両者互角。しかし、細野のボディーアッパーは凄い音だ。10-10。


2R リードジャブの少ない細野に対して、出鼻をくじくワンチャナのジャブが冴える。期待の大型新人の割には攻めが単調。突破できない。有効打の印象が薄い。ワンチャナ10-9


3R 細野のボディーが炸裂。するもあくまでクリーンヒットどまり。さらにコンビネーションとしては繋がりが悪い。畳み掛けるにはいたらず。細野10-9


4R …攻勢点は確かに細野なのだろうが、リードジャブがまったくといっていいほど出ない。だから先手を取られる。観ていて歯がゆい。それで結構「打たれる」。相対的には細野だがしっくりこない。細野10-9


5R やっぱり先手を取られ、クリーンヒットも貰っちゃう。しかし、前進。…するもコンビネーションに繋がらない。ワンチャナがしぶとい…と言ったところなのか?10-10互角


6R ワンチャナが勢いよく飛び出してくる。中間距離からリードを突く。細野被弾。ロープに詰まるシーンも…。しかし、盛り返す。終盤には連打をまとめ、なんとか攻勢を獲ったか…?細野10-9


 HIGEGE91の採点 細野59-ワンチャナ57

 公式の採点 60-59 60-55 60-54 の「3-0」で細野悟のフルマーク勝利…なのだが、あの剛打の


内山をほんとに倒したの…?って印象は拭えない。プロデビューで固くなったか?しかし、先手を常に取られる「受け」のボクシングはちょっといただけない。うまく使い分けて、さらにリードジャブをもう少し見せて欲しかった。しかし、これからが楽しみな「ファイター」登場であった。


 …あああ、メインに辿り着く前に力尽きそうだ。そこで前座をさらにざっと記す。


澤永真佐樹(日本F7位)VS望月義将 10回戦 97-95 97-95 96-95 で澤永の勝ち…だったのだが、HIGEGE91の採点では96-98で「望月」だった。観客もちょっと「エー!?」な反応だった。大橋ジムの興行だったから「赤コーナー」は激しい応援。…なだけに不満な採点だったか?しかし、望月は良く攻めてたけどな…。

 …で、ミニマム級10位のこちらも期待の新鋭、八重樫東。相手はタイ国のダンチャイ・シスサイソン。図バババババーンと2R1分38秒、3度ダウンを奪ってのKO勝利。これは強い。早い。大橋会長に名づけられた、その名も「マシンガンパンチ」大爆発であった。…で、たれ目の笑顔のやさしい好青年であった。彼ならイーグルを倒せるかもしれない。かなり強いっていうか、『音速』って感じ?


いよいよメインイベント。


1R 両者激しく打って出る。なるほど、丸山コンパクトな連打は重そうだ。有永も負けてはいないが、その重さではさすがに見劣りする。それぞれに「クリーンヒット」が生まれるも、決定的とはいえない。しかし、終始、押していた丸山のやや優勢か… 丸山10-9


2R~8R 王者有永は打ち負けない。気合が入っていた。丸山のお株を奪う「ラッシュ」を見せる。ロープに追い込んでは大きなフックを振りかぶっては「叩きおろす」のである。丸山も打ち返すが、有永には「足」があった。自分の距離を保ちながら、ここぞで思い切り打ち下ろす。やがて、その距離感が「有永」の敷いた「境界線」がリング上に見えるようになってくる。有永は腰を引いて鋭く、細かく、縦に右のリードを突く。それは鞭のように丸山の届かない場所から飛んでくる。丸山はそれをかいくぐろうと頭を下げて大きなフックを振りながらもぐるが、有永のショートが待っている。近づいても駄目。当然距離が合わないから「ジャブ」で作り直すことも出来ない。


…届かない。


ただ、ただ、「被弾」してゆく。有永にも時々丸山のフックが当たることはあっても、首を捻っているのか、それが目で見てわかるほどの「ダメージ」は負わない。そのリズミカルな「ステップ」が鈍ることはない。丸山はなにを思って戦っていたのだろう…。出ても駄目、引いても駄目、自分の「ボクシング」が「真っ白」になってゆく…。有永は「多彩」に上下左右とその手を休めることはない。丸山の顔がゴツゴツと高潮して行くのにそうは時間が掛からなかった。


 …R5にはバッティングで丸山の右目瞼が切れる。流血戦となる。丸山は下がらない。追いかける。それはまるで、子供の頃に良くやった「影踏み」のようであった。追いかけてもそこに有永はいない。『影』と戦っているようだ。パンチを振るう。カウンターとなって丸山の首が捩れる。有永のパンチは重くはない、が、切れている。蓄積して行く。体が重くなってゆく…。腕が鉛のように重くなってゆく…。まるで根が生えたように、足がリングから離れない…。頭を振ることがこんなに大変なことだったかな…。


 …俺は今、なにをしているんだ?


…そうか、戦っているんだ。…なんだこの男は?…俺を殺そうとでも言うのか?…血で濁って見えない。…俺を倒そうというのか?…なんで俺はパンチを振るうんだ?…こんなに体が重いのに、なんで俺はこの「幻」のような「影」に向かってパンチを振るうんだ?…なんで俺は戦ってるんだ?…俺は誰にも負けないんじゃなかったのか?…俺の拳は誰よりも「固い」んじゃなかったのか?…なんで俺は倒れたくないんだ?…そうか、俺は『勝つ』ためにこの拳を誰よりも「固く」鍛え続けてきたんじゃないか…。こんな「影」なんかに負けてたまるか。…あ、まだ「動く」。…ちょっと重いけど、まだまだ動くじゃないか…。そのために「走って」来たんじゃないか。…誰にも負けないように、毎日毎日やって来たんじゃないか。そうだ、倒す。この『敵』を倒す。…俺が「俺」であるために、倒れることは出来ないんだ。…そうだ、まだまだ動ける。…『本調子』じゃないけど、「顎先」にタイミングよく当てられれば倒れるんだ。…そうして今までだってやって来たんだ。…ちょっと、あとちょっと「間」が合えば倒れるさ。…タイミングが合いさえすれば、俺が倒れる必要がなくなるんだ。…やれる。…あともう少しだ。…だって、まだ動けるんだから。…絶対に俺は倒れない。…絶対に負けない。…俺は誰にも負けない!!


 …これはHIGEGE91に聞こえた丸山の『声』である。


 まさに「死刑執行」状態であった。それでもR8まで試合が進んだのは、この丸山の「燃える闘志」を誰もが肌で感じていたからだ。目が死んでいない。僕はそのボクサーたちの「瞳」の輝きを見るために、観戦には必ず『双眼鏡』を首から下げている。丸山は諦めてなかったし、その拳は有永を探して「空」を切り続けた…。立っていることが不思議であった。それほど、丸山は打ちのめされていた。どうにもならない状況で、立っていることだけがもはや「抵抗」であった。


 …が最後の瞬間がやってきた。

 

 9R 2分20秒…


  丸山の最後の「糸」が切れた瞬間、僕に聞こえていた「声」も途絶えた。有永の連打にかろうじて上げていた「ガード」が下がり、丸山は自陣の青コーナーへと仰向けになって倒れこんだ。ピクリともしなかった。カウントは必要なかった。タオルも投げ込まれた。試合終了であった。かなり「危険」な状態であった。…以前、有永からタイトルを奪った、「田中聖二選手」が頭を過ぎった。・・・すこし怖かった。


 しばらくして、ようやく青コーナーの椅子に腰掛けた丸山選手を見て、僕は相当ほっとした。  
 

有永は最高の状態でリングに上がって来ていたと思う。「完璧」な試合運びで、彼にとってもベストファイトであったかもしれない。丸山は『完敗』であった。


 しかし、そのガッツは誰の目にも焼きついたし、僕は絶対に忘れない。ゆっくり休養してください。本当にありがとうございました。お疲れ様です。


…有永、良かったな。次もがんばって下さい。


…僕が「筑豊のタイソン」の強烈な敗北をかみ締め、ホールから客が引き、撤収作業が始まった頃、観客席の1番端にまだ座っている男の人がいた。


…坂本博之選手であった。


…彼は「筑豊のタイソン」を激励に来ていたという…。同じ福岡出身だそうな。…ふいに、「坂本対畑山」の世界タイトルマッチを思い出した。


…そうだ。あの時の試合と、どこかちょっと似ていた。


御愛読感謝


つづく