ちょっとしたきっかけがあって、
昨年末から「発展する地域 衰退する地域」という本を読んでいた。


著者ジェイン・ジェイコブズは、経済学者ではなくジャーナリストだという。
 

原題は「Citys and the Wealth of Nations」だから、直訳すると「都市と国富」であり、アダム・スミスの「国富論(あるいは「諸国民の富」)The Wealth of Nations」をもじったタイトルである。

地方創生みたいな日本語タイトルは、むしろ誤解を招くと思う。
この日本語訳の発行は2012年暮れだが、原著は1984年の発表というから、40年前の本が30年ほど経ってやっと日本に紹介された、という体である。
そのことも、本の正当な評価を、大きく損なっているのではなかろうか。

その内容は、先行する経済書や経済学を否定する野心的なもので、

経済とは、「都市とその周辺」を単位として、その内部とほかの都市との関係の、ダイナミズムによって発展したり衰退したりするもの、というのがその主張である。
通常の経済学で扱われる「国の経済」という枠組みも、国という単位で定められる貨幣や利率も、一般に景気と表現される、物価と失業率との相関関係も、すべて些末なこと、と切り捨てられている。

興味のある人にはぜひ読んでいただきたいが、

自分なりに気になったのが、タイトル同様、訳語についてである。

最初に出てくる重要な概念が「輸入置換」と訳されている。
import replacement の訳なのだが、ある地域(都市)から消費地へと送られてくる(輸入される)産品が、消費地での地元生産に切り替わる、ということである。
通常の経済学用語では imprt substitution(輸入代替)が使われるというが、
substitution の方が「代用・置き換え」に近く、replacement は「元へ戻す・補充する」というようなニュアンスがある。

私なら、輸入切替、とでもするだろう。
きわめて前向きに、明治の日本人のように、

輸入品、モノはいいけど、なんでこんな高いんだ?どうやって作ってるんだ?なんだこんなもの、俺でも作れるんじゃないか、なにこの辺で作れるやつはいるさ、

といって真似て本家を超えるのが、その輸入切替なのだ。

 

もうひとつ、

improvisation、インプロビゼーションも

この本で提示されている大事な概念である。

 

この言葉、本の中では、日本語に訳されずにカタカナで使われている。


そもそもはジャズなどで即興演奏のことをいう言葉だが、

たしかに、作ったことのないものをつくるのは、インプロビゼーションで、

インプロビゼーションなくして、イノベーションはなく、

イノベーションのないところに、進歩はない。

 

とにかくやってみる。手を付ける。

失敗し、修正し、繰り返し、改良する。

 

いやいや、これは、

経済の話ではない。社会の話であり、人生の話である。

 

インプロビゼーション、あるのみ、なのである。