Anne Minard
for National Geographic News
November 20, 2008
レーダー探査を用いた最新の研究によると、数十年前に火星の中緯度で発見された堆積地形は、岩石の破片に覆われているが、その内部には数百メートルの厚さを持つ幅広い氷河が埋もれているという。
発見以来、この謎の堆積地形を構成する物質が岩石なのかそれとも氷なのかが長らく議論の的になってきた。この地形は、急傾斜の隆起構造の縁沿いに円を描くように物質が堆積して斜面を形成しているもので、膨大な数の衛星画像でその存在が確認されていた。
そして今回、アメリカ
にあるテキサス大学オースティン校のジョン・ホルト氏が率いる研究チームが、NASAの火星探査機マーズ・リコナイサンス・オービタのデータから、この地形が岩石の破片に覆われた氷である可能性が高いことを発見した。
発見された氷は、これまでに火星の表面で確認された氷よりもはるかに低緯度に存在している。専門家の中には、この閉じ込められた水分が将来の火星探査ミッションにおいて大いに役立つと考える者もいる。
ホルト氏は次のように話す。「総合的に判断して、この埋もれた氷河は、極冠以外にある氷の最大の貯蔵庫であることはほぼ間違いない。調査した地形の1つだけでロサンゼルス
の3倍の大きさがあり、それより大きいものも多数発見されている。『堆積物が岩石か氷か』という論争に関しては、個人的にはもう解決したと考えている。学界の判断を待ちたい」。
火星で極地に氷が集中して存在していることは昔から知られている。高緯度では気温が低いため巨大な氷の帯域が保持される。これは異論のない分かりやすい話だ。そのため、1970年代に行われたNASAのバイキング計画で火星探査機が南北両半球の中緯度に謎の堆積層を発見したとき、科学者たちは困惑した。
この堆積地形は火星によくみられる岩石破片が扇状に堆積した地形と似ているが、それよりも規模が大きく傾斜が急で、古代に粘性のある物質が流れて形成されたような特徴を持っている。
学界の意見は2つに割れ、論争が繰り広げられた。一方の学説は「この地形は岩石の破片が流れてできたもので、少量の氷が潤滑油の役割を果たした」というもので、もう一方の学説は「この地形は氷の塊で、昇華(固体が直接気体に変化すること)を防ぐのに足りる分だけの岩石破片が覆っている」というものだ。
この論争に決着を付けるため、ホルト氏が率いる研究チームはマーズ・リコナイサンス・オービタに対して、火星の南半球のヘラス盆地東部にある数カ所の堆積地形の内部に探知レーダーを発信するよう指示した。
レーダー信号は堆積層を通過し、深部にある火星表面で反射した。レーダー波の強度はほとんど失われておらず、厚い氷を通過したときに得られる値と同じであった。また、通過速度も氷を通過するときのものと一致した。今回の最新研究は、今週発行の「Science」誌に掲載されている。
「過去には火星の自転軸は傾いており、最も気温が低かった場所は極地ではなく中緯度だった。今回の発見はそれをはっきりと示す証拠となる」とホルト氏は話す。
南北両半球に存在する堆積地形はほぼ同じ緯度に位置しており、研究チームでは、地下氷河は過去の氷河期時代に火星の中緯度を覆っていた氷床が残ったものではないかと推測している。岩石破片に覆われたため暖かくなった現在でも保存されているのだという。
フランス
にあるパリ第11大学の天体物理学者ジョー・ミカルスキー氏は、今回の研究を受けて次のように話す。「今回の発見はこれまでの火星の気候変動モデルを支持する強力な証拠だ。今後、中緯度の地下氷河を覆う岩石破片の厚さを調査する必要があるが、もし十分薄ければ将来のミッションでこの氷を利用できるかもしれない。火星の有人探査はおそらく20年単位の作業となるだろう。水を現地で調達できるなら決定的な利点となる」。
Image courtesy NASA/Caltech/JPL/UTA/UA/MSSS/ESA/DLR
Eric M. De Jong, Ali Safaeinili, Jason Craig, Mike Stetson, Koji Kuramura, John W. Holt