大分刑務所(大分市)の男性受刑者が、監視カメラ付き居室に1年以上収容されたのはプライバシー権の侵害だとして、国に220万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁は令和6年1月19日、違法性を認め44万円の支払いを命じた令和5年2月の1審大分地裁判決を取り消し、原告側の請求を棄却した。

なお、本案訴訟は、双方が控訴していたとのこと。

 

 

 

まず、刑事収容施設法4条3項では、被収容者の居室について、「被収容者が主として休息及び就寝のために使用する場所として刑事施設の長が指定する室」、と定めており、その他、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する規則49条に、居室指定に関する法務省令があるが、監視カメラ室への収容もこれらの規定に基づく居室の指定として行われているものであり、監視カメラ室の運用に関する通達などはない。なお、各刑務所独自で内規の定めがあるものと推測される。

 

カメラ部屋は、天井の中央付近にカメラが一つ付いており、居室内の状況を24時間、常時、モニターで監視できるもので、カメラを通じての視認範囲は部屋全体にわたり、常時、連続して録画・録音を行っているものである。

 

監視カメラ室の構造及び設備についても、蛇口や網戸はなく、緑色の畳敷きであり、洗面所は木の枠で囲まれている。

このように建設されているのは、これは自殺防止の点からのものと考えられ、一般の居室に比べると、著しく異なっているものである。

 

監視カメラ室に収容するケースは、

自殺・自傷行為の相当危険性があり、その必要性がある場合

監視下に置かなければ、物を壊すなどの粗暴性が確実に認められる場合

医療上の必要性が相当程度ある場合(相当程度は、例えば、その医療を中止されると生命に関わる場合など)と言えるものである。

 

また、刑務官とのトラブルの有無を確認するためなどにも必要な場合もあると捉えることもできるが、単にトラブルの有無を確認するのに、カメラ付き部屋に収容することはその合理性を欠き、必要性はないものである。

軽く触れておくが、刑務官とのトラブルなんか日常茶飯事であって、トラブルの有無を確認するためにカメラ付き部屋が必要なら、一度でもトラブルを起こしたことある収容者や、トラブルになりそうになった場合の収容者は、カメラ付き部屋に収容される根拠となりかねないなど、濫用されやすくなるものであってかつ、トラブルの有無を確認するためなら当事者双方への注意喚起や指導等を重ねて防止・解消に努めるべき適切な方法があって、被収容者の動静を監視カメラで常時監視するまでの必要性は到底認め難く、トラブルの有無を確認するためカメラ付き部屋に収容するのは、その合理性を著しく欠くものと言わざるおえない。

 

したがって、2審判決は、【受刑者が反則行為について証拠隠滅が疑われる行動をしたことなどから、適切な証拠を残すため、カメラが設置された部屋に収容した判断は、刑事施設の秩序などを適正に維持するという目的に沿う】ということは、まあ事案詳細がわからないからなんともいえないが、おそらく単にトラブルの有無を確認するためのものであって、被収容者の動静を監視カメラで常時監視するまでの必要性は到底認め難く、隔離その他の適切な方法で解決するもので、不当な判決でないかと推測される。

 

仮に、反則行為について証拠隠滅が疑われる行動について、受刑者が自殺や自傷行為などをしようとして、反則行為とされる事案に結びつくもので証拠隠滅しようとしたならば、2審判断の刑事施設の秩序などを適正に維持するという目的に沿うということは、妥当と評価されるかもしれないが、単にトラブルの有無の確認ともいえるようなことで、カメラ付き部屋に収容していたなら、不当な判決と解されるものだ。

 

カメラ付き部屋は、刑務官、刑務所とのトラブルの有無を確認するための適切な証拠を残すため、長期間収容するのに使用されるものとして想定されているものではなく、上記①②③の場合などの相当必要性が認められる場合に、刑事施設の規律と秩序を維持するために執られる措置と考えるのが相当である。

 

加えて、人は他人から生活状況や動作をみだりに見られないという権利を保有しており、憲法ではプライバシー権として保障されている。

むろん、拘禁目的を維持達成するために必要最小限度のプライバシー権の侵害はやむを得ないものであるが、拘禁目的とは関係ないのに受刑者や死刑確定者のプライバシー権を侵害することは許されない。

 

法の観点からも、刑事収容施設法73条1項において「刑事施設の規律及び秩序は、適正に維持されなければならない。」と定めると同時に、「前項の目的を達成するため執る措置は、被収容者の収容を確保し、並びにその処遇のための適切な環境及びその安全かつ平穏な共同生活を維持するため必要な限度を超えてはならない。」と定められており、規律及び秩序の適正維持のために刑務所が執る措置が、必要な限度を超えてはならないことを明記している。
かかる法の規定の趣旨は、施設管理や秩序維持、被収容者の生命・身体の安全確保のために、被収容者の権利・利益が一定程度の制約を受ける場合のあることはやむを得ないとしても、その制約は必要最小限度に止められなければならないとするものである。(比例原則といわれるもの)

 

カメラ付き部屋に不当に収容されたことによる訴訟の判例がそこそこ出ていますが、ほとんどの事案がその違法性が認められられており、棄却されている事案というものは、ほぼみうけられないです。

 

近年だと2018年に、熊本刑務所に服役中の男性受刑者(35)が、監視カメラ付き独房に正当な理由なく長期間収容されたり、刑務官から暴言を受けたりして違法な扱いを受けたとして、国に964万円の損害賠償を求めた訴訟で、熊本地裁(小野寺優子裁判長)は23日、刑務所側の違法性を一部認め、国に40万円の支払いを命じた。

 

男性は2013年3月、刑務官の顔を殴るなどしてカメラ付き独房に約7カ月間収容された。独房には他人に危害を加える恐れがある場合などに収容されるが、小野寺裁判長は「同年7月ごろには原告は他人に危害を加える恐れはなく、動静を厳重に監視する必要性はなくなった。漫然と収容を継続したのは違法」と述べた。刑務官が男性に「カスが、死ね」と発言したことも認定し「原告の名誉感情という人格権を侵害する侮辱に当たる」と判断した。とても意義ある判決事例があります。

 

その他、広島拘置所(広島市中区)で16年以上監視カメラがある居室に収容されているのはプライバシー権などの侵害で違法だとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した西山省三死刑囚(70)が国に2112万円の損害賠償を求めて提訴している事案(広島地裁係属)もあります。

 

 

 

カメラ付き部屋は、その必要性が相当と認められない限り、通常違法性が認められるもので、

また、動静を厳重に監視する必要性は相当程度低下し、あるいわその必要性がなくなったにもかかわらず、漫然とカメラ室への収容を継続したような場合には、刑事施設の長が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったものとして、国賠法上違法との評価を受けることになると解されている。