朱莉の川辺 第六灯火 | 緋月の未来予想図

緋月の未来予想図

今宵、貴方はこの世界に迷い込むでしょう
月も緋色に染まって、今夜きっと災いが降り注ぐでしょう…



最初から読む 第一灯火


前回から読む 第五灯火


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


朱莉の突飛な発言に良弘は耳を疑った。


(一緒に探すったって、今会ったばかりなのに…そんな信用ならない人によく頼めるな…)


良弘は朱莉の姿をポカンッとした顔で見つめていた。そこに朱莉はこほんっと一息紡いだ。


「あのね、私1人よりよし君と一緒の2人なら探す時間も短くて済むし、第一楽しく探せると思うの。良いアイディアじゃない」


「それは確かにそうだけど…その相手に俺でいいのか?他の、学校の友達とかに頼めばいいんじゃ…」


朱莉が桜の丘高校の一年生だとしたらクラスメイトで仲の良い友達の1人くらいはいるんじゃないか、と思った良弘は言葉が段々と濁っていった。


しかし、眉を下げる良弘に対して、朱莉はにっこりと何の問題もない笑顔でこう言った。


「よし君がいいの。学校の友達もいいけど、ここでこうして出会えたんだし、何かの運命だと思って…よし君がいいなって思ったの。だから私はよし君とがいい」


真っ直ぐな目で良弘を見る朱莉の顔に嘘なんて見当たらなかった。良弘はその顔に今度は言葉を詰まらせ少しの間困惑した。


困った表情の良弘を朱莉はしばし見つめていたが、小さな溜め息をつけば良弘に背中を向けた。


そのまま川沿いを歩いていこうと歩を進めていった。それに気付いた良弘は、


「お、おい。ちょっと待てよ。何処行くんだよ、朱莉」


と言いながら、朱莉の後ろを歩いた。


「だってよし君迷ってるみたいなんだもん。だから、少しだけ待ってようと思ったんだけど…追いかけてくるなら、もう返事は決まったの?」


後ろで手を組み、そのままくるりっと半回転して此方を向いた朱莉の髪は綺麗に風に靡いた。


朱莉の行動はなんだか奇抜な態度だった。良弘は今も朱莉の問いかけに言葉を詰まらせてしまった。


「それは………」


「…決まってないんだね。なら追いかけてないで」


そう言葉を残していき、朱莉はまたスタスタと歩き始めてしまった。


(朱莉…どうしてそんなに俺なんだ?初めて会って、ちょっと話しただけなのに…普通の人なら初対面の人にそんな事頼んだりしない…)


1人で川の近くをポツンッと立ち考えていれば、急に前方の方から「きゃっ!」と声が聞こえたと同時にぼっちゃーんっ!!と水の音も聞こえた。


その声と音に慌てて顔を上げて前方を見回した…すると、川の中でびしょ濡れになっていた朱莉がいた。


「朱莉…何してんの?」


「あ、あのね…よし君が早く決断出来ますようにって思って歩いてたら…、石に躓いて、ね。そのまま川にぽちゃんって落ちちゃった………え、えへへ」


頭に手を置き照れながら笑う朱莉を見て良弘は溜め息をつき、歩み寄り朱莉に向かって手を差し伸べた。


「大丈夫か、朱莉。お前…あぶなっかしいな」


「ごめんね、…それはそうと…よし君、決まったの?決まったら近づいてきてって言ったよね」


濡れた髪から見える朱莉の真っ直ぐな目に良弘はうっ…と言葉を詰まらせたが、唇をぎゅっと噛み締め大きく頷いた。


「決まったよ」


「それじゃあもう1回だけ聞くね?…朱莉と一緒に探してる人、探してくれる?」


大きく溜め息をついた後に決心したような表情で宣言した。


「俺は朱莉と一緒にその人を探すよ」




続く。