水面に太陽の光が鮮やかに反射する川辺で、一つの魂が天へと登っていった。
その魂を静かに見つめていた、羽賀良弘は無言で魂を見送った。
頬に伝わる涙腺の後。
右手に強く握られている赤いストラップ。
震える両肩の悲しみは、良弘に届いた。
しかし、彼を除く他の人に、この悲しみが届く事はなかった。
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桜の丘高校。
夏休みも終わり、涼しくなった秋風が吹き込む教室で、羽賀良弘は小さく欠伸をしていた。
眠い、と呟き、窓の外を見つめる良弘に、
「――、羽賀――、羽賀良弘っ!さっさと解答用紙取りに来なさい!!」
クラス担任で英語教師でもある佐藤先生が、教卓から大声を出した。
良弘はそれに、若干の慌てを見せながら椅子から立ち上がり、解答用紙を受け取った。
「85点か、まぁまぁだな」
点数を確認して椅子についた良弘に向かって、後ろの席である上野健二が良弘の肩を叩いた。
「良弘、お前何点だった?俺なんか60点、英語は苦手じゃないが60点も取れれば良い所だよな。
…ってことで、俺よりも点数低かったら、帰りにジュース奢れよな」
良弘の目の前に解答用紙を突きつけて、誇らしげに語る健二に向かって
良弘は口角を上げて涼しげな表情で自身の解答用紙を健二に見せつけた。
「残念だったな、俺は85点…まぁまぁの結果」
85点と書かれた解答用紙を見た健二は「ちくしょう、俺の負けだよ」と、
しぶしぶ解答用紙を良弘の前から下げた。
「二人とも凄いわね、高得点じゃない」
いじける健二に向かって、良弘の隣の席に座る齋藤暁美が言う。
「そういう暁美は何点だったんだ?」
優しく微笑む暁美に問うと、「私は80点だったわ」と返ってきた。
暁美の言葉を聞き口を尖らせた健二が、二人を見渡して言う。
「俺は英語苦手でもないし、嫌いでもないが…こうも頭の良い二人を見ると、
自信なくすぜ。良弘はまぐれだとしても、暁美は優秀だからなー」
「とりあえず、お前よりは頭いいからな。暁美も俺も」
悔いる健二を前から弄るように微笑みながら、良弘は追い討ちをかける。
いつもの光景に暁美も言葉を続けた。
「確かに成績では健二君よりは良弘君の方が勝ってるわよね」
グサリッと心が傷ついた音が鳴り、健二が「そりゃねぇよー」と拗ねた声で呟いた。
それを見た良弘と暁美は思わず笑いが零れ落ちた。楽しそうに笑う二人を見た健二は
つられるように自身も軽やかに笑い出した。
「こぉぉらぁぁっっ!!!羽賀、齋藤、上野!!いつまでも喋ってないで、教科書開け!!」
チョークを指しながら怒りを見せる佐藤先生に、3人は高らかな返事と共に前を向き
教科書を開いた。
「はぁーい」
続く