■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「あら、でもいいんじゃない?」
暁美の賛成の声が良弘と健二の目を丸くさせた。顔が分からないのに似顔絵に賛成した暁美の気持ちが分からず表情を曇らせた。どうしてだろう、と良弘の心の中で呟いた。
「似顔絵って身体的特徴に加えて性格の特徴だって入れたりする事だってあるわ。顔が分からなくても性格の特徴を入れて探しているってことを書けばきっと誰かは反応してくれるんじゃないかしら?」
「暁美…俺の意見に賛成するなんて珍しいじゃねぇか、やっと俺の考えに称賛する気になったか」
「ううん、本当は全然賛成してないしこんなの無謀以上の何者でもないって思ってるけど、何も案が出ない以上仕方ないでしょう?簡単に言うと消去法って感じかな」
悪意のないが所々尖った暁美の言葉に今度は健二の心が折れ曲がり、しゅんっと落ち込んだ。そんな健二には目もくれずに暁美は良弘に目線を向けていた。
「良弘君がどうしてその人を探してるかは知らないけど、出来る事があるならそれを頑張るしかないでしょ。ともかく、顔を思い出せるように努力してみて、無理なら性格上だけで探してみる、それしかないじゃない」
そう言い終われば暁美がお弁当箱の中にあるコロッケを箸で掴み口へと運んでいった。ゆっくり咀嚼する暁美を不思議そうにじっと見つめた良弘だったが、段々と表情も緩やかになってきた。
「それもそうだな…出来ないって騒ぐよりそういうのに頼ってみるのもいいかもしれないな、ありがとうな暁美。俺ちょっとだけ頑張ってみるよ」
「そう、それでこそ私の知ってるいつもの良弘君だわ」
ごくんっ、と飲み込んだ後ににっこりと明るく笑った暁美の顔はいつも通りの笑顔だった。健二もどうにか暁美の言葉の攻撃から立ち直り一つ息を吐くと小さく頷いた。
「俺たちも少しだけなら手伝える事はあると思うからさ、またこうやって頼ってくれよな」
「おう、健二もありがとな」
健二の溜め息混じりの言葉に苦笑気味に良弘も答えると丁度チャイムがなってしまった。
キーンコーンカーンコーンッ!
「やばっ!俺まだおにぎり一つしか食ってないよ、午後の授業大丈夫かな…」
「大丈夫じゃねぇの?心配事も小さくなったんだしよ、今度は授業集中できるな」
健二が食べていた菓子パンを高速で食べ終わらせ牛乳を飲んで立ち上がった。暁美もお弁当を布に包んで立ち上がって良弘を見た。
「ほら、行きましょう良弘君」
その言葉に良弘は「おう」とだけ言い、残ったおにぎりをコンビニ袋に戻して立ち上がった。
暁美がそれを確認すると先に屋上から出ようと扉へと歩いていった。その後に続こうと良弘が歩を進めようとした時、健二が良弘に近寄ってきてひっそりと小さな声で囁いた。
「あのな、今日の屋上で食べようって言ったの、本当は俺じゃなくて暁美なんだぜ。暁美朝から良弘の事が心配って俺にすげぇ言ってきてたんだからな」
「…え?」
暁美がそんなに自分の心配をしてたなんて…、と思い始めて暁美の方を良弘は見ると、扉を開きながら暁美は良弘と健二の方を見て大きく手を振っていた。
「ほら、2人とも!早くしないとおいていっちゃうんだからね!」
笑っていう暁美を見て良弘は小さく笑みを零した。
続く。