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「その探してる人の特徴がさ、明るくて優しいってだけで他に手がかりがないんだ。顔も名前も覚えてないって言ってて…打つ手なしっていうか、さ」
特徴とも言えない特徴を暁美と健二に伝えると暁美も健二もポカンッと口を開けてしたが、少し経てば小さく考えるように唇をへの字にすれば暁美が首を左右に振った。
「明るくて優しいだけじゃ断片的過ぎて分からないわ、それに明るいっていうなら私や良弘君や健二君だって当てはまるわ。そもそも男か女かも分からないのに探しているなんて無謀よ」
「男か女かは分からないけど、この桜の丘高校の生徒っては言ってたよ。それ以外は何も言ってなかったけど…」
朱莉が昨日言ってた探し人の特徴を思い出そうと頭をフル回転させ暁美と健二に伝えるが、暁美と同じように遅れて健二も首を横に振って言った。
「俺もやっぱわかんないや、この高校の生徒って言ってもよ。生徒何人いると思ってんだよ、その中で優しくて明るい人なんて数え切れない程いるぜ、それに暁美の言う通りそれだけの特徴なら俺や暁美、良弘、お前だって例外じゃねぇよ?」
「あれ、明るいは分かるけど、優しいっていうのは健二君当てはまるの?ちょっと意外かも」
暁美がクスリッと小さく口元に手を当てて笑うと、健二が「うるせぇ」と笑いながら言った。その言葉に暁美はまた笑った。
「言っとくけどな、俺だって優しいんだからな。この間だって迷子の女の子の母親を探してやったんだからな」
「へぇ、健二君にしてはやるじゃない。その女の子も安心出来てよかったじゃない」
「2人とも…話しが逸れてるって、健二が優しいかどうかは今後の議題にしといてどうすれば探し人が見つかるか知恵を絞ってくれよ」
またもぐもぐとおにぎりを頬張りながら答えた良弘に暁美は「そうね」とお弁当を再び突き始めた。2人の言動を見て健二は「議題にすんのかよ!」とツッコミを入れつつ自分も菓子パンを頬張った。
「でも…探すって言っても良弘君そんな情報が少ないと誰も見つかんないよ、せめて名前ぐらいは分からないとね、あと性別とか年齢、学年クラス、身体特徴、必要な事はいっぱいあるのに性格の事だけなんてやっぱりどう考えても無理よ」
「…そっか、やっぱ難しいか」
おにぎりを一つ食べ終わった時に暁美の鋭い言葉に良弘の心は折れ曲がり、がっくりと肩を落としていた。暁美の現実的だが否定出来ない言葉に、口を出さないでただ菓子パンを食べていた健二が思いついたような表情を浮かべて顔を上げた。
「いや、一つ良い事思いついたよ。こういうのはどうだ?」
人差し指を立てて2人を交互に見た健二を見て暁美も良弘も視線を健二に向けた。
「その探し人の似顔絵作るんだよ、良弘お前確か美術専攻だろ?それだったら似顔絵も得意じゃねぇか?」
似顔絵、それは人物の容貌や特徴をとらえて、あるいはデフォルメして描いた人物画――………。
(いやいや、説明入れる場合じゃねぇ…)
自分の考えにノリツッコミを入れた良弘は健二の事を細い目で見つめた。
「お前…話し聞いてたか?顔が分からないって言っただろ、顔も分からない奴の似顔絵なんて書けるわけないじゃないか」
「あ、そっか…で、でもよ、良弘がそうやって1人で悩んでるよりも周りの力を借りるって手だと良い案じゃねぇの?」
健二の慌てながら言う答えに良弘は頭を抱えそうになった。何言ってんだ、と思わず言いそうになった思いを心の中に止めながらもう一度否定しようとした時。
「あら、でも良い考えじゃない?」
暁美が賛成の声を発した。
続く。