―――強まる雨足がふたりの世界を包み街中の喧騒が掻き消されていく。
その中を駆け抜けた俺達は自宅に着くなりバスルームへ向かう。
俺は素早く衣服を脱ぎ捨て扉に手を掛けたところでユカの方を振り向く。
ユカは恥ずかしそうに俯いたまま小さな声で言う。
“先に入ってて…”
その言葉を聞いた俺は頷く。
“分かったよ”
短く答えた後、半開きだった扉を閉め、少し熱めのお湯を浴槽に溜めながら冷えた体にシャワーを浴びせる。
暫らくして半分ほど溜まった湯に浸かっていると、体にタオルを巻いたユカがおどおどしながら浴室に入ってきた。
…が、扉の前で立ち尽くしたまま俯いて一向に動こうとしない、よく見ると唇の色は変わり微かに身を震わせている様だった。
それを見た俺は居ても立ってもいられなくなり強引にユカの腕を引き寄せる。
“わっ!?待って、まだシャワー浴びてないよ…”
と、小さな声で抗議するユカを無視して浴槽へ促し、そのまま抱きしめた…やはりユカの体は冷えきっていた…。
この浴槽は“風呂ぐらいゆっくり入りたい”という俺の意向でかなり広めなのだが、ユカは俺の腿に腰掛ける形で身をあずけていた。
…しばらくして、ユカが十分にぬくもったのを見計らい俺はキスをして先に上がることを告げ浴槽を後にした。
寝支度を整えた俺はベットに横になりユカを待った。
天井を見つめながら “後一日…” という言葉が頭を巡り続け気持ちがどんどん落ち込んでゆく…
そして…その想いはユカがベットに入ってきた時に爆発する。
俺はユカにすがるように抱き着き…
「なぁユカ…どうしても明日でお別れなのか?もっとここに居ちゃダメなのか?…俺達は…俺達はもう終わりなのか?」
ユカは寂しげな表情で頷き目を潤ませながら答える。
「うん…とっても残念だけど…明日でおしまい…もう時間もそんなに残されてないの…」
ユカの揺るぎそうもない言葉に、
“そうか…”と呟くことしかできない俺はユカを抱き寄せ唇を重ねる…
「ユカ…俺は君を離したくない、君を忘れたくないんだ…」
「hid…ごめんね…あなたと一緒にはもういられないの…だけど今の私…“ユカという名の私”なら…全てをあなたに…」
そう答えたユカの精一杯に俺はまたキスをした…
ゆっくりとパジャマのボタンに手をかけていく…
次第に露になる肌は夏という季節を置き去りにしたように白く、俺の目に焼き付いた。
やがて…一糸纏わぬ姿になった二人が静かに静かに…。
ユカは恥ずかしさに目を逸らし、淡い膨らみを細い腕で隠していた。
「どうした?」
「…ううん、大丈夫……でも私こんなだから…」
自分の胸に視線を落とし小さくユカは呟いた。
「そんなことか…体なんて所詮は心の入れ物…ユカの心が入ったこの身体…おれは愛おしくてしかたがないよ…」
「…ありがとうhid、でも私とこんな事するのはポリシーに反するんじゃなかったの?」
「違うよユカ…あの時はお互い恋人でもなんでももなかったからね…でも、今は…」
「ありがとう…そんなあなただったから私は好きになったのかもしれない…いけないって知ってたのに…」
「君にとってはいけない事かもしれない…だけど俺は好きになることを止められなかったんだ…」
「…後悔、するかも…?」
「…後悔、するだろうな」
「分かってるなら、どうして?」
「理性で抑えられない感情もあるんだよ…」
「うん…私達…似たもの同士かもね…」
そう言ってユカは吹っ切れたような表情になり自ら唇を求め…
そして“最後のお願い”をする…。
“明日は海に連れてって…”
俺はそこが二人の終幕の場所と知りながら黙って頷いた。
そして激しくお互いを求め合う、想いと想いがぶつかり絡まり、溶けて一つになる…
俺達の最初で最後の愛のユニゾンだった。
やがて静まり返った部屋に囁くような声が響く…。
「…hid…あのね私―― 」
突然ユカが自分のことを語りだす…それは俺が想像していたとおりで、“出来れば違っていてほしい”という願いは無残にも崩れ去る。
…まるで悪い夢を見ているようだった―――
《重なる想い》後編終わり
次回《儚い誓い》へ続けますが…いいですか?
