精一杯のセミたちがうるさい暑い日の午後のことでした。
僕は日影を探しながら歩いていました。
ちょうど、今はもうやっていない商店の軒先を通りかかったとき、道端に一羽のスズメがいました。
そのスズメは、産毛が抜け落ち、やっと一人前のスズメになったばかりのようでした。
まだ、小さな身体のそのスズメは、焼けたアスファルトが熱いのか、飛び上がろうとするのですが、上手く飛べません。
よく、そのスズメを観察してみると、まだ翼が未熟のようでした。
かわいそうに…巣から落ちてしまったんだね。
体力を消耗し、その小さな身体でさえ、自分の足で支えきれなくなったスズメは、焼けた道路に、おなかを付けてへたり込んでしまいました。
僕はどうしても、そのスズメをほってはおけず、近くにあるであろう¨巣¨を探してあげることにしました。
簡単に僕の手の平に乗った小さなスズメは、逃げる気力も体力もないのでしょう、小さなマブタをパチパチさせているだけでした。
なんとか助けてあげたい…
小さな¨彼¨を手の平に乗せ、商店の周り、隣りの民家の屋根、食堂の看板の上など、一生懸命探しました。
なぁ、おまえどっから落っこちてきたんだよ。
弱く震える小さな¨彼¨が答えるはずもありません。
その時、商店から二軒隣りの民家の雨樋の上から、¨チュンチュン¨と元気な声が聞こえてきました。
見上げると、薄汚れてはいますが元気な大人のスズメがいました。
もしかしたら、¨彼¨の親なのかもしれない。
僕は、¨彼¨を目線より高くあげ、親であるかもしれないスズメに見えるように近づきました。
するとそのスズメは、ちょいと身をひるがえして、雨樋の下の小さなくぼみに入っていきました。
ありました。そこにはスズメの巣がありました。
よかった、¨彼¨もこれで助かる。
商店のシャッターの前に置いてあったブロックを一つ拝借し、踏み台にして、くぼみの中の巣を覗き込みました。
ああ…ダメだ…
小さな巣の中には、まだ産毛におおわれたヒナが二羽、身を重ねるようにしながら、大きくパクパクと口を広げ、親からの餌を待っていました。
ここは¨彼¨の巣ではありませんでした。
先を急いでいた僕は、これ以上¨彼¨に付き合ってはいられませんでした。
苦しいよ… どうにもしてあげられない…
せめて… 水だけでも飲ませてあげたい…
民家のクーラーから流れる水を指先につけ¨彼¨の口もとに近づけました。
しかし、¨彼¨はもう、その小さなマブタさえ開けようとしませんでした。
ごめんね…ごめんよ…
僕は、小さな¨彼¨をせめてもの慰みにと日影の涼しい場所にそっと放しました。
何度もごめんねと呟きながら、その場を離れました。
精一杯のセミたちがうるさい暑い日の午後のことでした。
