欲望の突き進む先にあったのは、何だったんだろう。その果てには何かがあったのだろうか。
紙の月
角田光代 著
ハルキ文庫
主人公、梅沢梨花41才。
25才で結婚して専業主婦になったが、子どもに恵まれず、銀行にパートで働き出す。
真面目で、きっとキレイな梨花は、成績も優秀で、パートから契約社員にと。
真面目であることが、この悲劇を生んだように思う。
こうでなければならない。 と思いこむ真っ直ぐさ。
その真っ直ぐさで梨花は、疾走する。
大学生の光太との出会いが、
平凡だった、何か物足りない生活を一変させた。
光太が金持ちの旦那を持っている女性だと思っている節があれば、
その通りに梨花は振る舞う。
光太が望みそうな物を先読みして想像して、光太に買い与えて行く。
そうやって、勤めていた銀行で、数年の間に一億円の横領をしてしまう。
どんな罪もそうであるように、
最初は、軽い気持ちで顧客のお金を借りたのだった。
そして、それはエスカレートしていくことになる。ご多分に漏れず。
その行為は光太のため。
いや、果たしてそうだったのか、と思ってしまう。
きっと、梨花自身のためだったような気がする。
自分の居場所を確実なものにするために、虚構で現実を作ろうとする。
横領している顧客たちに対して、梨花には罪の意識は無い。
なぜなら、そのお金はいつか返せばいいと思っているから。
また、返せるとも思っているから。
これはきっと人間関係も同じなんだな、と読みながら思ったりした。
いつか説明すれば良いや、と思っているうちに、
周囲がすーっと引いてしまい、気付けばひとりぼっちだった。
というようなことが、時々ある。
これと同じだなと思った。
それって、感情の横領なんだな、きっと。
善意や誠意に対して、とても個人的かつ閉鎖的な都合で踏みにじる。
でも、仕方ないじゃん。とか思っちゃったりしてね。
たとえば、その前にイヤな事言ったじゃん、言おうと思ったんだけどタイミング逸しちゃって、云々。。。
難しいなぁ。
その話をいつ、誰から、どう聞いたか、前後関係はどうだったかで、
つまりボタンの掛け違いですべてが狂ってくるからなぁ。
まぁ、こういう時はごめんちゃいと、素直に謝るしかない。
でも、一億の金はごめんちゃいでは済まないよなぁ。
結局、この物語は、お金の話だ。
お金が恋愛を象り、人生の行く先を決めたのだ。
あるひとつの事柄に捕われた時に、
盲目的な愛情をもって人生のすべてを賭けてしまった梨花。
並んで歩きながら、彼女は昼の仕出し弁当についてずっと話し続ける。値段について、揚げ物の多い中身について、弁当を作ってこようかどうしようか迷っていることについて。相づちを打ちながら、しかし梨花は何も聞いていなかった。光太。光太。心のなかでずっと呼び続けていた。光太。もう大丈夫。私たちはまだ一緒にいられる。光太。光太。はやくあなたに会いたい。
夫、顧客、仕事関係と、すべてを騙して得たお金。
そこにある現実は仕出し弁当のようなものだったのだろう。
さして興味のあるものではない。
興味のあるのは、光太との時間。
話の中心はあくまでも梨花であるが、
それとは別に、梨花の高校の同級生たちの今も描かれて行くのだが、
ここもやはりお金が人生に深く絡んでいる。
浪費癖、節約への執着など。
これもまた、さもありなん。