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そろソロ一歩

ブログタイトルの“そろソロ一歩”とは、遅ればせながら人生の再スタートで一歩を踏み出そうという気持ちを込めました。
そして、日頃単独行動が多いため「単独=ソロ」という意味合いもあります。

 西表島には林野庁の森の巨人たち百選に選定された巨木が2つある。

 1つは島の南部にある「仲間川上流のサキシマスオウノキ」であり、こちらは観光クルーズ船で誰でも容易に見に行くことができる。

 そして、もう1つの「ウダラ川上流のオヒルギ」と呼ばれるオヒルギの巨木は、島の北部を流れる浦内川支流の宇多良川上流にあるらしいが、こちらは観光気分で簡単に訪れることはできないようだ。

 

 実はこの2つの巨木を訪れる計画を立てていた時、後者のオヒルギも容易に見れるものと思っていた。

 しかし、ネットで調べてもこの巨木を訪れた記録はほとんどなく、ただ1つ九州森林管理局のサイトに調査目的で訪れた記事があった。 

 それによると、かなりの老木で保全措置が必要なようで、枝折れ防止のための添え木を施された痛々しい姿の写真が載っていた。

 

 もしかして、物見遊山みたいな安易な目的で立ち入る事はできないのではないか…。

 少々不安になったが、取りあえず関係各所に問い合わせてみた。

 ある現地のガイドツアー業者の回答によると、過去に陸路で行けたが現在は廃同で、ガイドは行っていないとのことだった。

 また、竹富町観光協会によると、宇多良川をカヌーで遡れば比較的容易にアプローチできるが、歩いて行く場合は詳しい人にガイドしてもらわないと難しいという回答だった。

 そして、沖縄森林管理署の回答も植生の繁茂がひどいため徒歩で行くのは困難だが、カヌーなら約30分ほどで行けるということで、巨木の位置が記された大まかな地図とともに、この付近に詳しい現地のガイドツアー業者も紹介していただいた。

 

 回答を頂いた関係各所に感謝しつつ、しばし悩んだ。

 まとめると、徒歩で行くのはほぼ不可能だが、カヌーなら容易に行けるということらしい。

 山ヤの私としては道が不明瞭でも陸路の方が得意なのだが、カヌーとなると全く経験がない超初心者(かなり昔、手漕ぎボートを漕いだことはあるが…)。

 そんなど素人が果たしてカヌーを操ることができるのか?

 

 不安に思いつつ、紹介された「浦内川観光」さんに電話で問い合わせてみた。

 すると、ガイドツアーの客のほとんどはカヌー未経験者で、簡単なレクチャーを受ければ操船できるらしい。

 これで少し不安は和らいだため、早速「宇多良川 半日カヌー体験」に申し込んだ。

 

   ***

 

 2月1日、投宿した「西表島モンスーン」を車で出発するが、どうも空模様が怪しい。

 天気予報は概ね曇りとのことだが、海は若干荒れているようだ。

 途中、星砂の浜に寄って海の様子を見てみる。沖の方で白波が立っていて風がやや強い。

 これは中止か…。

 心配しつつ浦内橋に行ってみると、川は穏やかで波も風もなかった。

 浦内川は島の内陸に深く切り込んだ入江状になっているため、外海の影響を受けにくいのだろう。

 これならカヌーは大丈夫そうだ。

 集合時間まで時間があるので、干立集落までドライブして時間を潰した。

 

浦内橋付近で拾ったオヒルギの胎生種子


干立集落付近の海岸


干立集落付近の海岸に咲くグンバイヒルガオ

 

 集合時間の9時30分に浦内川遊覧船乗り場に行く。

 今日のカヌーツアーをガイドしてくれるのは昨日、マリュドゥ・カンピレーの滝トレッキングで遊覧船の船長とガイドをしていただいたYさん。

 昨日、下船後に行程の打合せはしておいたので、装備の確認と装着、そしてカヌーの基本的な操船方法をレクチャーしてもらう。

 使用するカヌーは1人乗りのシーカヤックというタイプで、パドルは両端にブレード(水かき)が付いたダブルブレードパドルを使用する。

 

 レンタルのライフジャケットとマリンブーツを装着し、基本的なパドリングを教えてもらう。

 乗り物を操る基本といえば、“直進・旋回・バック・停止”である。

 そして、最も重要なのが「転覆(沈)しないこと」だ。

 夏なら濡れても冷たくて気持ちいいだろうが、今は真冬である。

 いくら南国の西表島とはいえ、今日は曇り空で気温・水温も低めのため、濡れたら悲惨な事になるのは目に見えている。

 

 ところで、オヒルギの巨木にカヤックで行く場合、潮の満ち引きの影響を考えないといけない。

 宇多良川は川幅が狭くて水深も浅いため、潮汐の影響が大きいのだ。

 今回のツアーでは巨木に到着する時間が干潮時に当たるため、そこまでカヤックで行けない場合も考えられる。

 その場合は上陸地点から歩いて行けないのかと思ったが、足が抜けないほどのぬかるみなので不可能と言う。

 つまり、カヤックで直接行けなければ断念せざるを得ない。

 干潮時を外せば良いのだが、今日の午後には石垣島に戻らなければならないので午前中しか時間が空いてない。

 ただ、Yさんの判断ではギリギリ行けるだろうというので、その言葉に望みをかけることにした。

 

 10時00分、いよいよ出発。

 まず、カヤックに乗り込むのがひと苦労だった。

 Yさんに船体を押さえてもららい、転覆しないようバランスを取りつつ腰からコックピットに入る。

 続いて両足を入れるのだが、体の硬い私には難儀だった(笑)。

 何とか乗り込みに成功し、期待と不安を胸に抱きながら浦内川へと漕ぎ出した。

 

 先行するYさんの後に続き、教わった通りにパドルを漕ぐ。

 浦内川は川幅がとても広いためか、川の中央部まで進むと風か潮の流れか分からないが、どんどん下流方向に流されていく。

 焦って必死にパドルを漕ぐが、あまり上半身を使った生活をしていないせいか、すでに腕が疲れてきた(情けなぁ~)。

 幸い、しばらくすると重力圏から脱したようにカヤックは上流に進み始めた。

 とにかく風(或いは潮)の影響を受けやすい浦内川を脱して、支流の宇多良川に入ってしまいたい。

 

宇多良川に向けて浦内川をカヤックで進む

 

 10時10分、遊覧船乗り場から500mほど浦内川を遡り、宇多良川との合流点に着いた。

 初心者にしてはいいペースか?

 昨日、遊覧船から見た通り入口は狭い。

 目測では10m近くありそうだが、本流の浦内川の川幅があまりにも広いため、余計に狭く感じるのかもしれない。

 しかし、この奥に目指すオヒルギの巨木があると思うと胸が高鳴る。

 Yさんに続いてカヤックで静かに進入していく。


 宇多良川はカヤックで進んで大丈夫なのかと不安になるほど細く曲がりくねっている。

 周囲はマングローブ林に覆われていて、Yさんによるとほとんどオヒルギだという。

 

 ここで、Yさんの説明を元に少しく解説すると、マングローブとは淡水と海水が混ざり合う汽水域に生える植物の総称で、日本ではオヒルギをはじめメヒルギやヤエヤマヒルギ等7種類が確認されているらしい。

 他の樹木に比べて特徴的なのは根の形で、オヒルギでは「膝根」と呼ばれ、名の通り人の膝の形をしている。

 また、この根は「呼吸根」とも言われ、干潮時に露出して呼吸をしたり、水分を吸収する際に海水の塩分を取り除くフィルターの役目もあるらしい。

 しかし、完全に取り除けるわけではなく、余分な塩分は葉に蓄積され、落葉して排泄されるそうだ。

 確かに周囲の水面を見渡すと黄色い葉が幾つも浮かんでいるが、これは塩分の排泄という役目を終えた葉だったのだ。

 何とも不思議な植物である。

 

宇多良川入口付近をカヤックで進む


宇多良橋をカヤックでくぐる

 

 宇多良川に入って5分ほど進むと、古びた宇多良橋の橋の下をくぐる。

 1959年に造られたこの橋は旧県道になる予定だったが、使われる事なく廃墟になったらしい。

 橋の裏側を見上げるとコンクリートは朽ちて鉄筋がむき出しになっていた。


 宇多良橋を通過してやや進むと、左側に丸太の階段があるのが見えた。

 帰路に寄った宇多良炭坑跡の上陸ポイントで、通常のツアーではカヤックで入るのはここまでだそうだ。

 今回は特別にオヒルギの巨木がある上流へと進んでいく。

 

 周囲は相変わらず密度の濃いマングローブ林に覆われている。時折、鳥のさえずりが聞こえるが、それ以外は音のない、水を打ったような空間。

 そんな森閑とした空間に身を置いていると、進んでいるのは自分なのだが、あたかもマングローブの木々が動いているような錯覚に陥ってしまう。

 曇り空で陰鬱とした雰囲気がそうさせるのかもしれない。

 晴れて陽光が差す天気ならまた違った感覚になるのだろうか。

 

 時折、小雨がパラついたが、密集したマングローブの中ではほとんど気にならない。

 それよりも川幅の方がが気にかかった。

 場所によっては幅が3mほどしかなく、また水深が1mもない底が透けて見える所もある。

 マングローブの枝もすぐ頭上にあって、うまく避けながらでないと進めない所もあった。

 事前に教わっていたが、カヤックを旋回させて避けられない場合、体を前後に倒すか手で押し退けるようにとのこと。

 体を左右に倒すと重心がずれて転覆するおそれがあるというのが理由だが、体を前後に倒して避けるのは難しそうなので、手でそっと枝を押し上げながら進んだ。


 宇多良川入口からカヤックを漕ぐこと約30分。

 Yさんが指を差す方向に目をやると、そこにはネットで見た通り添え木で囲われたオヒルギの巨木がひっそりと立っていた。

 ついに「ウダラ川上流のオヒルギ」とご対面である。

 巨木は川岸からわずか数mほどの所にあるので、カヤックからでも十分に見ることができるが、Yさんはせっかくだから上陸して見た方がいいと言う。

 その言葉に甘えて、カヤックから下りて近くで見てみることにした。

 

「ウダラ川上流のオヒルギ」をバックに宇多良川にて

 

カヤックより見る「ウダラ川上流のオヒルギ」

 

 転覆しないよう注意してカヤックを下り、オヒルギの巨木に近づいてみる。

 地面のぬかるみはそれほどひどくなく、容易に近づくことができた。

 添え木の外側をぐるりと1周して根回りから樹上までじっくりと眺めてみる。

 推定樹齢は約350年で幹周り355cm・樹高12m。

 胸高直径が1mほどのオヒルギで確認されているのは現在この巨木だけだそうだ。

 黒褐色のゴツゴツした樹皮は松に似て、巨木のわりには根張りは大きくない。

 かなりの老木のため上部は枯死に近い状態で、枝は台風によって折れて垂れ下がったものもある。

 現在は九州森林管理局の尽力によって保護されているが、いずれ寿命が尽きる時を迎えるのだろうか…。

 少しでも生き長らえてほしいと願いつつ、心の中でオヒルギの巨木に別れを告げた。

 

森の巨人たち百選「ウダラ川上流のオヒルギ」

 

 

「ウダラ川上流のオヒルギ」の屈曲膝根

 

 

 オヒルギの巨木の周辺にも樹齢が100年ほどの木々があり、また、地面に落ちた胎生種子から若芽が出ているのが多く見られた。

 こうしてオヒルギ等のマングローブ林は長い時間を経て新しい世代へと引き継がれていくのだろう。

 大自然の営みをしみじみと思う。

 

 

宇多良炭鉱跡付近を進む

 

 往路で見た丸太階段の所で上陸し、宇多良炭坑跡を見学する。

 階段を上がると遊覧船乗り場から遊歩道に出合い、それをたどるとほどなく宇多良炭坑跡に着いた。

 見学用に木道が整備され、炭鉱についての解説板がある。

 それにしても、西表島に炭坑があったとは知らなかった。

 良質な石炭を産出する西表島には幾つか炭坑があり、その1つで最大規模なのがこの宇多良炭坑だそうだ。

 稼動時期は1935~1943年頃で森林を切り開いた炭坑村が形成され、坑夫の宿舎や売店、診療所、学校のほかに映画や芝居を鑑賞する娯楽施設まであったらしい。

 しかし、過酷な労働や風土病のマラリアのために、故郷に帰ることなくこの地で命を落とした坑夫が多かったという。

 

 採掘された石炭はトロッコで宇多良川まで運ばれ、さらに船で浦内川河口まで輸送されていた。

 その名残であるトロッコ軌道の支柱が残っていて、レンガ造りのものガジュマル(アコウ?)が絡み付いていた。

 足下には船のエンジンの残骸が残され、黒い石っぽく見えるものは石炭だという。

 木道の奥には犠牲になった坑夫を慰霊する萬骨碑があった。

 こうした遺構や遺物にかつての炭坑の賑わいを想像し、知られざる西表島の歴史を知って心が引き締まる思いだった。

 

宇多良炭坑跡のトロッコ軌道の支柱


宇多良炭坑跡の石炭運搬船のエンジンの残骸


宇多良炭坑跡の坑夫の生活についての解説板


宇多良炭坑跡(丸三炭坑宇多良鉱業所)の解説板

 

 再びカヤックで宇多良川を漕ぎ出す。

 マングローブ林の奥から「フィー、フィー」と鳥の鳴き声がする。

 Yさんが「カンムリワシが会話をしている」と言う。

 確かに両側の森から交互に聞こえてくる。

 求愛でもしているのだろうか。


 11時45分、浦内川へ戻ってきた。

 相変わらずの曇り空だが雨は止み、風もほとんどなかった。

 上流から船が来たが、我々を見つけるとエンジンを切ってスピードを落としてくれた。

 カヌー等の小型船の近くでは引き波を立てないようにするのがマナーだそうだ。


 パドリングにだいぶ慣れたためか、往路で苦戦?した浦内川も順調に下り、11時50分に遊覧船乗り場へ帰ってきた。

 乗り場には遊覧船を待つ人がいるので、転覆して恥をかかないようYさんの助けを借りて慎重にカヤックから下りた。

 まあ、夏場ならここで沈して笑いをとってもいいのだろうが(笑)。

 

浦内川と宇多良川との合流点を進む

 

 

 心配した干潮の影響も杞憂に終わり、無事に森の巨人たち百選「ウダラ川上流のオヒルギ」を見終えることができた。

 何より人生初のカヤックに乗り、豊かなマングローブ林の奥深くに分け入るという貴重な体験をさせてもらった。

 ガイドのYさんにはオヒルギや宇多良炭坑跡についていろいろレクチャーしていただき、西表島について見聞を深めることができた。

 ちなみに今までのツアー客でオヒルギの巨木まで案内した客は私が初めてだそうで、今回は特別に案内したとのこと。

 私のわがままなリクエストを叶えてくれたガイドのYさん、並びに「浦内川観光」の皆さんには本当にお世話になりました。