NHK BSプレミアムの番組「新日本風土記」で南アルプスを取り上げていて、農鳥小屋の小屋番をしている名物?オヤジさんを紹介していたので興味深く観た。
番組ナレーターがオヤジさんの評判があまりよろしくないと言ってたのには苦笑したが、私が泊まった時も確かに無愛想で面食らった事を覚えている。
当時の山行記録の1部を抜き出してみよう。
***
農鳥小屋の宿泊者は私と初老の単独男性の2人だけだった。
小屋にはオヤジさんが1人で管理しているが、言葉遣いがぶっきらぼうだった。
夕食を頼んだが、ご飯に味噌汁まではまあ良い。
唖然としたのはおかずで、マグロの佃煮を適当にあえたものだけだった。
これにはさすがに閉口した。
言葉は悪いが、質素を通り越してお粗末としか言いようがない。
下界の旅館やホテルと違い、立地条件等の制約が多い山小屋事情はある程度理解している。
しかし、そんな中でもできるだけ良い食事を提供しようと頑張っている山小屋もあるのだ。
しかし、この食事内容ではできる限りのことをしたという感じはなく、おざなりな印象しか受けない。
残念だが、食べられるだけありがたいと割り切るしかない。
山小屋では快適性や食事等の物理的なサービスが十分でないのは仕方ない。
しかし、山小屋の良し悪しは、その小屋の人間的な対によって印象が変わってしまう。
その極めつけとも言える事件が起きた。
夕食を終えて部屋でコーヒーでも飲もうとガスストーブでお湯を沸かしていた時である。
部屋の入口でオヤジさんが、「そんなところで火を使ってるんじゃねぇ!」と突然怒鳴ったのだ。
慌ててストーブの火を消して謝った。
山小屋は火事には細心の注意を払っているので、指定場所以外で火を使うことはルール違反である。
それを確認せずに火を使った私に非があるのはもっともである。
しかし、他に言い方はなかったのだろうか。
せっかく山に来て楽しい時間を過ごし、疲れた体をゆっくり休めたいと思ったのにこれでは台無しである。
同宿の男性と部屋でヒソヒソと山小屋の応対の悪さについて批判した(中略)。
間ノ岳と北岳(右奥)をバックに農鳥岳山頂にて
翌朝、願いが通じたかのような快晴となった。
先に出発した単独男性に遅れて私も小屋を出る。
あの無愛想な小屋のオヤジさんが私が出発する際、「気をつけて」と声をかけてくれた。
これまであまりいい印象のなかった農鳥小屋だが、最後のそのひと言でちょっと救われたような気がする。
後日、山岳雑誌等で農鳥小屋についてさんざん酷評されているのを知った。
しかし、あのオヤジさんは本当は登山者思いの根は優しい人に違いない。
現代社会から隔絶された山の世界で、昔ながらの頑固な山小屋気質を守っている「山小屋のオヤジ像」を絵に描いたような人なのだろう。
***
ちなみに私が農鳥小屋に宿泊したのは1995年の9月、夏山シーズが終わった静かな白根三山を縦走した時だった。
番組は2014年の再放送で、あれから19年も経つのか…。
番組内のオヤジさんは当時の無骨な印象はありながらも、だいぶ丸くなった気がする。
しかし、高齢になっても相変わらず現役で小屋を切り盛りしている姿には頭が下がった。
とにかく、元気そうで何よりである。
また、訪ねてみようかな…。
