2026年9月1日、新発10年国債利回りが一時3.00%を記録した。1996年9月以来、実に30年ぶりの水準である。バブル崩壊後のデフレ低迷、異次元緩和、イールドカーブ・コントロール—あらゆる政策で「低金利の壁」に張り付いてきた日本経済が、ようやくその壁を乗り越えた瞬間だ。
では、なぜ今なのか。金融政策、海外要因、財政—三つの重しが同時に金利を押し上げた。
第一に日銀の追加利上げ観測が9割を超えた。 市場が予想するターミナルレート(利上げ最終到達点)の指標となる2年先1年物フォワード金利は2.4%付近に上昇している。市場が問うているのは「利上げをするか」ではなく「どのくらいの速さで、どこまで上げるか」だ。
第二に米国のタカ派姿勢が色濃くなった。 ウォーシュFRB議長がジャクソンホールで「インフレ減速に確信が持てなければやるべき仕事がある」と発言し、9月の利上げ観測が強まった。中東情勢の不透明感を背景にした原油高も世界的なインフレ懸念につながっている。
第三に、そして最も根が深いのが財政拡大への警戒である。 2027年度一般会計予算の概算要求総額が143兆円前後に膨らむと報じられたことが直接の引き金だ。高市早苗政権の積極財政政策への懸念が根強く、国債増発への警戒感が広がっている。この日実施された10年債入札も弱い結果と受け止められた。
金利3%の影響は、金融機関ごとに明暗がくっきり分かれる。
メガバンクは利ざや拡大の追い風が吹く。4〜6月期の国内利ざや平均は1.23%と14年ぶりの高水準。長期プライムレートは8月に3.25%となり、2年前の2倍だ。証券会社も個人向け国債の販売拡大で恩恵を受けている。
一方、信用金庫は有価証券の含み損が2.6兆円に達し、9割超の信金が含み損を抱える。生命保険は国内債の含み損が30.9兆円と前年比6割増。保険商品の利率改善というプラス面はあるものの、保有債券の評価損が重くのしかかる。ネット銀行は住宅ローン金利が大手行を上回り、預貸率の高さもあって資金調達面で苦戦が続く。
市場関係者の見方は総じて3%を「通過点」と捉えている。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの稲留克俊氏は「直接の引き金は143兆円の概算要求だ。金利低下材料は今のところ見当たらず、年内に3.25%への上昇がありそうだ」と述べる。同氏は金利上昇を落ち着かせるにはGPIFの存在をちらつかせるか、財政政策を絞るメッセージが必要だと指摘する。
SBI証券の道家映二氏も「3%は通過点だろう。根本には高市政権の財政政策への懸念が強い」と断じる。同氏は長期金利のレンジが「3〜3.25%に引き上がる可能性はそれなりにある」と予想する。
BNPパリバ・アセットマネジメントの木村龍太郎氏は、債券市場の心理をより辛辣に描写する。「債券市場がこれまでの金利上昇を通じて財政拡張に対して警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、概算要求額が大きく膨れ上がった。債券市場からすると、やや無力感を伴いながら、金利上昇については諦めムードになっている」。その上で「3%という心理的節目では一定の需要が喚起されるが、その需要が埋まった後は金利上昇圧力がもう一段強まる」と警告する。
債券市場と株式市場の温度差も興味深い。コモンズ投信の伊井哲朗社長は「債券は政治情勢や財政拡大を不安視しているが、株式はまだそこまで警戒していない。金利3%はまだ中立水準であり、株式の売り材料にはなりにくい」と指摘する。むしろ株式市場は財政拡大による景気刺激効果を評価しているという。ただし同氏は「金利が3.5〜4%まで上がったときには株式の重荷になる」とも付け加える。
債券市場が今、最も注視しているのは金融政策の行方ではない。財政規律の緩みに対する不信感が、金利上昇の根底に横たわる最大の要因だ。「成長第一」の旗印の下で膨らみ続ける財政のツケ—市場はその行方を冷静に見極めようとしている。日銀の利上げが適切に進み、政策金利が到達点に落ち着けば、GPIFなどの年金勢が日本国債への回帰を始める可能性はある。だがそれ以前に、市場が求める「財政規律」のメッセージが政府から発せられるかどうか。そこが当面の最大の焦点であり、金利の落ち着き先を左右する分水嶺でもある。


