(日経新聞作成)


日経新聞が報じた「都心3区中古マンション、買いの勢いが鈍化か」というタイトルを見たとき、「え、まだまだ上がってるんじゃないの?」と首をかしげる人がほとんどでしょう。実際、東京23区の中古マンション平均価格は3月時点で1億2425万円。前年同月比なんと30.8%の上昇です。都心6区に限れば平均1億8732万円と、もはや庶民の手が届く領域ではありません。

しかし、こうした平均価格の裏側で、市場の命運を左右する大きな異変が水面下で進行しています。今回はその「ズレ」を徹底的に可視化してみましょう。

とにかくゾッとする「ワニの口」

まず押さえておきたいのが、「売り出し価格(売主の希望)」と「成約価格(実際に決まった値段)」の間にある圧倒的な開きです。これがあまりにも大きくなったため、まるでワニが大きく口を開けたようなグラフになります。だから「ワニの口」と呼ばれているんです。
理屈からすると、「価格の伸びが実需の限界を超えれば、この口は必ず閉じられる」筈ですが、今、その局面に突入したと見て間違いありません。

数字で見てみましょう。都心3区(千代田・中央・港)では、2026年3月時点で新規売り出し価格が成約価格のなんと1.34倍です。具体的な金額ベースでは、売り出し価格が2億1071万円なのに対し、成約価格は1億3829万円。差は約7000万円まで拡大しています。7000万円ですよ。このお金があれば、郊外なら中古マンションがもう1戸買えちゃいます。

成約価格の前年比は+13.3%なので、価格自体はまだ上がっています。しかし問題は、売り手の強気な価格設定がそれを大きく上回ってしまい、買い手が追いつけなくなっていることです。

都市伝説じゃない「売れ残り」のリアル

さらに不気味なのが在庫の動きです。

都心3区の在庫件数は4205件で、前年比+44.9%。つまり1年で1300件以上も「売れない物件」が積み上がっている計算になります。成約件数が前年比で-21.3%も落ち込んでいる現状と合わせると、ここにはっきりとした「需給のミスマッチ」が可視化されます。

不動産は「売りたい人が多すぎて買いたい人が足りていない」状態になると、最終的には価格調整が入ります。とはいえ、この在庫のうち築年数が若く㎡単価が高い物件はしっかり成約しているため、すべての物件が売れないわけではありません。同じ都心3区の中でも「売れる物件」と「売れない物件」の二極化がすでに本格化しているのです。

なぜここまでズレたのか—複合的な「過熱感」

これほどまでの価格乖離が生まれた背景には、いくつかの要因が絡み合っています。

まず、過去数年続いた海外マネーと投資需要です。金利の低い日本は、グローバルな投資家にとって「金を預けておくだけでも価値がある場所」でした。その動きが売り手の強気な価格設定を後押ししてきたのは間違いありません。

次に、建設コストの高騰と新築供給の抑制。これは売り手にとって「これからも値段は簡単には下がらない」という確信を与え続けています。

そしてもう一つ、日銀の金利政策も無視できません。2025年1月と12月の2度にわたる引き上げを受け、政策金利は0.75%という30年ぶりの水準に到達しています。変動金利型住宅ローン利用者は今後さらなる負担増を覚悟しなければならないでしょう。

しかし一点、はっきりさせておきたいのは「バブル崩壊がすぐそこまで来ている」と決めつけるのは早計だということです。東京カンテイの高橋雅之上席主任研究員も「26年半ばまでは高止まりの状態が続くだろう」と予想しています。つまり「急落」ではなく「踊り場」もしくは「高値での膠着(こうちゃく)」と捉えるのが妥当でしょう。

気になる賃料市場はどうなるのか

ここで視点を、「買う」から「借りる」に切り替えてみましょう。

都心の賃貸市場は、短期的には賃料の上昇基調が続く見込みです。東京23区の賃貸市場は2026年に入っても緩やかな家賃上昇トレンドが続いており、その背景には「都心回帰」や「共働き世帯・単身高所得層の需要」があります。住宅価格が高騰する中で「買えないから借りる」という実需も賃料を下支えする構図です。

ただし中長期的には、投資サイドから見ると注意が必要です。

ここで期待投資利回りという考え方を簡単に説明すると、「物件を買って貸したとき、どのくらいの儲けが見込めるか」の目安です。この利回りが国債利回り+リスクプレミアムで計算される以上、国債利回りの上昇は投資家に「より高い賃料」を要求させる方向に働きます。

つまり、もし賃料上昇が投資家の期待に追いつかなければ、都心マンションへの投資マネーはじわじわと失速する可能性があります。この問題の厄介なところは、「貸す側」の期待値が上がれば上がるほど、「借りる側」の負担も増える一方で、それが賃貸物件の回転率や空室リスクにどんな影響を与えるかがまだ不透明な点です。

現在のところ明確なデータはありませんが、この「期待利回りの上昇圧力」と「実質賃金の伸び悩み」のせめぎ合いが、今後の賃料市場の最大の分かれ道になるでしょう。

まとめ:踊る売り手、冷める買い手—そして投資家は

都心3区の中古マンション市場は、一言で言えば 「踊る売り手」と「冷め始めた買い手」の対峙 です。価格が下がっているわけではありません。むしろ全体の平均は上がっています。しかし、その中身は極めて二極化しており、売り手の強気な期待値と買い手の現実的な支払い能力の間に「ワニの口」が大きく開き始めています。

賃料市場については、短期的な堅調は続くものの、投資サイドで求められるリターンの水準が引き上げられていくため「貸して儲ける」ゲームのルールがこの数年で大きく書き換わる可能性があります。

不動産の世界で「買い時」「売り時」を議論するとき、いつも言えることは「タイミングよりポジション」だということです。現金を握りしめて今この瞬間に飛び込むか、もう少し潮目を観察するか。少なくとも、「何も考えずに都心マンションを買っておけば儲かる」という幻想だけは、きっぱり捨てたほうがいい。市場はそのことを、この「ワニの口」で静かに、しかし容赦なく教えてくれています。


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