「泣くなって・・・」
困ったように呟く少年の隣りで、いつの間にか手を引かれながら歩いていた。
楽しそうに遊ぶ子供達の声を聞きながら、自分だけが優しい時間から弾かれた異端者のように違う時間を過ごした場所
に帰る足取りはどうしようもなく重い。
それでも置きっ放しの鞄をそのままにしておくわけにはいかなかった。
先ほどまでいた大きな樹の下に辿り着いた途端、思わず身体が強張った。
それが短い時間だったのか長い時間だったのか判らなくなるくらい、卑劣な大人の暗い影は無力な子供の心に重く圧し
掛かっていた。
悪夢のような時間に再び引き戻されそうになって、涙が止まらなくなる。
嗚咽を堪えていると、ふいに少年が握った手を更に強く握り締めて来た。
痛みを覚えるくらいの強さで握られた手は、悲しい時間に連れ戻されようとした僕の心を掴んでくれるつもりだったのか
もしれない。
泣く事すら出来なかった僕に泣くきっかけを与えてくれたのもこの少年だった。
慰めの言葉をかけられたわけでもないのに、不思議なほど安らぎに近い感情が流れ込んでくる。
握られた手がすっかり汗ばむ頃には、吹く風に消し去られたみたいに頬を濡らしていた涙も乾いていた。
「・・・・・あっちで遊ばないの?」
並んで樹の陰に座った少年に思い切って聞いてみたのは、光の下で遊ぶ事が似合いそうな少年が自分に付き合って
この場所に留まっているようで申し訳ない気分にさせられたからだった。
ニッと悪戯そうな瞳を煌めかせた少年が「耳を貸せ」と、言いながら顔を寄せてくる。
「俺、追われてるんだ」
突然、聞かされた話に俯いていた顔を向けると、無理矢理作ったような真剣な瞳がそこにはあった。
ふざけているのか本気なのか判らない表情からは、その話が本当なのか知る事は出来そうもない。
「・・・どうして追われてるの・・?」
「それは秘密、でも見つかったらヤバイんだ」
好奇心に負けて尋ねた僕の言葉をはぐらかすように答えた少年の様子に、冒険にでも誘われた気分にさせられる。
そう----きっとこれは冒険だった。
少年が捕まってしまうまでの束の間の。
そして弱虫な僕は彼を助ける事も出来ずに同じ場所に立ち竦んでいた。