ゆっくりゆっくり青い果実をかじるみたいにまだ熟していない貴方を味わいたかった。
『座ってて』
リビングに通した相手はソファの横で棒立ちになっている。
まるで取って喰われに来た赤ずきんちゃんみたいで可笑しかった。
俺は悪い狼なんだ?
半分は当たっているかもしれないけれど。
『コーヒーでいい?』
声が弾んでいたかもしれない、心の中で浮かれている自分を落ち着かせようとしたくらいには。
『・・いらなぃ・・やりに・・来ただけだし・・』
返事も出来ないくらい固まってるのかと思えば、いきなり大胆な事を言う。
この人、天然で男を振り回すタイプかもしれない。
一から教えておかないとすごい男殺しになりそうでやばい。
『いいの?俺、途中で気が変わったとか言われても聞けないよ?』
『・・わかってる』
『優しいんだ、妹思いのお兄ちゃんは』
---だから俺みたいな男に捕まるんだ。
少しだけ憐れになって俯いた顔と視線を合わせようとしたけれど、下を向いたまま何処か遠い所に心があるみた
いな彼の横顔に目を奪われただけだった。
『じゃあ、こっちへ来て』
差し出した手を拒む事も思いつかないように素直に手を乗せて来た。
緊張で冷たくなった手をそれから暫くの間、忘れる事が出来なかった。
あの時もこんな風に冷たい手だった、といつか笑いながら教えてあげられたら貴方はずっと俺のものになるんだ。
『キスの時には目をつぶるんだよ』
青白い顔を上向かせたらピンク色の唇が誘っているように震えていた。
言われるままにギュッと目を閉じた顔も忘れない。
今からどれだけ初めての顔を見せてくれるんだろう。
きっと全部覚えてるから隠さないで全てを見せて欲しい。
そっと触れ合うだけのキスをして柔らかな感触だけを奪い取った。
『キスしたことある?』
唇が離れた後に、こんなこと聞くなんて我ながらガキみたいだと思ったけれど聞いておきたかった。
目を開けた貴方が不思議そうに首を振った。
『ホントに?キスしたこと無いの?』
思わず問い返すとからかわれてるとでも思ったのか、赤い顔をして俯いてしまった。
『貴方・・・きっと忘れてるんだよ』
だってこの唇は初めての唇じゃないから。
しっとりと吸い付くような感触が残ってる。
どうしてそんな事に拘るのか、といった顔で見詰め返して来た貴方と初めて視線が合った。
・・・・・・案外、忘れっぽいんだね。
『じゃあ、これだけは忘れないようにちゃんと覚えておくんだよ』
この唇を他の奴に渡すつもりはないから。
『これからは俺以外にキスさせないこと』