前回記事はこちら。

 

 

勤務医の過重労働を解決する方法・・・

 

それは「医者を増やす」しかないと思っている。

 

前回述べたように、某団体などは「医者を増やす」ことに大反対している。

理由は、「限られた医療費を医者の人数で分けると一人当たりの取り分が減るから」。

 

そしてもう一つの医者を増やす問題点、極端に「購買者」の自己負担が少ない医療という特殊業界ならではの問題点・・・

 

それは

「医者は自分の生活が苦しくなると病気を創り出す」ところであろう。

 

 

例えばメンタルクリニックに来た患者さんが、診察すると薬など飲む必要がないぐらい軽いノイローゼであったとする。その医者が「自分の売り上げが収入に直結しない、雇われ人(=勤務医)」あるいは現在十分に収益があり余裕がある開業医ならば、「この程度なら薬は要りませんよ」と正しく言うだろう。

 

が、もしその医者が自分の経営するクリニックの収益が少なくて生活が苦しかったとしたら・・不要な薬を無理に勧めるかもしれない。

ただの風邪の患者に血液検査を勧め、わずかに炎症反応が上がっているからと言って全く無意味な抗生物質を出したうえで(ウイルス性の風邪に抗生物質は無意味です、知ってました??)、3日後に念のためもう一度受診してください、と言うかもしれない。

学会の定めるガイドライン上は生活指導で済む程度の軽い高血圧や糖尿病であっても、薬を出すかもしれない。

患者が何か症状を訴えた時、どうみても要らないような軽い病状でも血液検査、レントゲン、CT検査を勧めるかもしれない。

 

もちろん「自己負担比率」の高い患者には断られる可能性が高い。なので悪い医者は、自己負担額ゼロの患者(主に「社会的弱者」)に狙いを定めてこれをやる・・・自分の懐が痛まない患者は「そうですか、では処方をお願いします、念のため検査してください」となる。(ん?もしかして自己負担額ゼロの患者様の方が大事にされている?まさか、ね笑)

 

1回だけ飲んで「なんだこの薬、効かねえじゃん」と言って残りを捨てたり、たまにこうやってタダでもらった睡眠薬やシップを転売して逮捕されるニュースを聞く。

 

さらに悪徳医師は、間違った薬を出しておいて、病気が悪くなったら正しい薬を出して、「2度美味しい」みたいな、もはや○○〇モーターみたいなことをするかもしれない。

 

 

「そんな医者、そうたくさん居ないでしょ?」と思われるかもしれない。前述の最後の方は極論として、一般的に「不要かもしれない薬や検査を念のため勧める」・・・そんなに間違ったことだろうか?悪いことだろうか?

 

そんなに間違ったことでも悪いことでもないでしょう。なので、仮に経営が危うくて潰れそうなクリニックでなくても、多くの医者は「不要かもしれない薬や検査を念のため勧める」のではないだろうか?

 

 

少し脱線するが、実はもう一つ、医者側に全く悪意がなくても薬や検査が過剰になってしまう理由がある。

 

例えば「最近ちょっと胃が痛いので胃の薬を下さい」と患者に言われると、当然医者は胃薬を処方するが、同時に「もしかしたら胃癌かもしれないから、念のため胃カメラを受けたらどうですか?」と勧める。患者は「いえ、この程度なら胃薬だけで大丈夫です、胃カメラまで受ける時間ないし、検査苦しいでしょ。」と答えるので、胃薬だけ受け取って帰宅する。

 

ところがなかなか胃痛が治らない。でも時間ないしもう少し我慢しようかな?と思っていつの間にか半年が経過・・・ようやく胃カメラを受けると「末期胃癌!」なんてこともある。

突然末期癌を宣告された患者は、怒りの矛先を最初の医者にぶつける可能性がある。「私が末期癌になったのは最初の医者が薬だけ出して病気を放置したからだ」などと(事実と違う)訴訟を起こすかもしれない。

このようなトンデモ裁判に敗訴しないためには、最初に胃薬を処方した際に「念のため胃カメラを勧めたが断られた」「胃痛が続くようなら胃カメラを勧めた」などカルテに記載していなければならない。

 

 

医者は、こういうリスクを考え、自分の身を守るために(勤務している病院も守るために)、さりげなく患者に検査を勧めて、その反応をカルテに記載する、という「条件反射」を研修医のうちに教えられる。「そんなモンスター患者、レアでしょ(笑)」と思われるかもしれないが、何十年と毎日外来で何十人と診ていると、どこかで地雷を踏むリスクは必ずある。

 

「医者は自分の生活が苦しくなると病気を創り出す」という理由が理解して頂けたかと思う。おまけに、分かっていても過剰に薬や検査を勧めなければならない、ジレンマに陥る医師側のマインドも理解して頂けたかと思う。

 

(続く)