東京地判平成22年(ワ)26341【油性液状クレンジング用組成物】事件<大須賀>
*当業者が配合割合を適宜変更して実施可能とした当てはめ例
(サポート要件も同様)
*「油性液状クレンジング用組成物」というクレーム文言解釈として、「透明性」という作用効果を構成要件とした
⇒結局、「透明性」を満たすとして充足
(透明度は、従属項の数値より低くても、充足とした。)
<判旨抜粋>
充足論
・独立項(請求項1)「…油性液状クレンジング用組成物」(透過率の規定なし)
・従属項(請求項2)「波長750nmの光の透過率が75%以上」
・従属項(請求項3)「粘度が・・・ 300~1,000mPa・s」
「請求項1の発明(本件発明1)は,手や顔が濡れた環境下で使用できる,透明であり,かつ,使用感に優れた粘性を有した油性液状クレンジング用組成物を提供することという,請求項1ないし5に共通の上記一般的作用効果を奏するものとして記載されているものであって,上記作用効果は,請求項2及び3により,具体的に数値によって特定される,より高い作用効果と同一のものではなく,これらに比して低い水準のもので足りるものと解される。・・・本件明細書には,本件発明1の作用効果に係る『透明』に関し具体的に言及する記載は見受けられないから,上記『透明』とは,油性液状クレンジング用組成物の実用上,『透明』であれば足りるというべきである。」⇒「透明性」充足。
(※所謂“クレームディファレンシエーション”が成立した。)
⇒従属項に数値を規定することにより、独立項は、仮に数値に係る作用効果が求められたとしても、その程度は、従属項に規定された数値よりも低い水準でOK、というロジックが成り立つ!!
特許法36条4項(実施可能要件)
…本件発明1は,手や顔が濡れた環境下で使用することができる,透明であり,かつ,適度な粘性を有する油性液状クレンジング用組成物を提供することをその作用効果とするものであり,当該作用効果は,本件特許発明の請求項1ないし5に係る各発明に共通の作用効果として示されたものであって,請求項2は,本件発明1に係る構成に加え,その作用効果のうち,透明性に関する点を,光の透過率により限定し,より高い作用効果を得られる場合があることを示したものである。
したがって,本件発明1は,請求項2に該当する場合を包含するものということができるところ,…本件明細書の実施例…の記載における「外観」及び「透過率」は,請求項2に係る作用効果を示すものであるから,本件明細書には,(A)ないし(D)成分からなる構成が示され,かつ,その場合に請求項2に係る作用効果が得られたことが記載されている…。そうすると,本件明細書には,本件発明1に係る構成のみの効果は記載されていないものの,本件発明1に係る構成を含む請求項2に係る作用効果は示されているものということができ,本件発明1がその作用効果を奏することを裏付ける記載がされている…。
また,本件明細書において,(A)ないし(D)成分の具体例…が示され,かつ,各成分の好適な配合量が開示されており…,実施例1ないし7において各成分の具体的組合せや配合量も示されているのであるから…,本件明細書の記載に接した当業者は,その記載内容を参考に,技術常識に従い,(A)ないし(D)成分として使用する各成分の具体的組合せ及び配合量を適宜決定することにより,本件発明1に係る作用効果を奏する油性液状クレンジング用組成物を得ることができるものと認められるのであり,これは,原告及び被告の行った各実験結果(甲25,27,29,30,乙2の8)において,本件発明1に係る作用効果を奏する油性液状クレンジング用組成物が得られていることからも明らかである。
この点に関し,被告は,(A)ないし(D)成分を含有し,かつ,本件明細書の実施例に従って配合割合を決定した組成物であっても,…安定性を欠くものがみられたから,本件各発明は実施可能性を欠くものであると主張する。しかし,……被告の実験結果は,本件明細書記載の実施例において(A)ないし(D)成分として使用されている物質のうち(C)成分を実施例とは異なる物質に,(D)成分について一部を実施例とは異なる物質に変更する一方,各成分の配合割合を本件明細書記載の実施例記載のものと同一としたもの(…)または本件明細書記載の実施例において,(E)成分として配合されているジイソステアリン酸デカグリセリンを配合せず,油剤の配合割合をその分だけ増やしたもの(…)である。被告実験では,安定性が認められないなどの実験結果が示されているものの,他方,原告からは,各成分について使用する物質を被告実験と変更することなく,その配合割合を変更したところ,本件発明1に係る作用効果を奏する油性液状クレンジング用組成物が得られた旨の実験結果(…)が示されている。そうすると,当業者は,(A)ないし(D)成分として用いる物質の変更や,(E)成分を配合しないものとしたことに従い,各物質の特性等を考慮し,(A)ないし(D)の各成分の配合割合を適宜変更することにより,本件発明1を実施することができるものと認められ,かつ,配合割合等の適宜の変更は,当業者の技術常識に従って可能なものであると認められる。
特許法36条6項1号(サポート要件)
…本件明細書には,(A)ないし(D)成分として使用することのできる物質の具体例,各成分の好適な配合割合が記載されている。また,本件明細書の…には,「…油剤の配合量は油性液状クレンジング用組成物の全量に対して,40~95質量%が望ましい。40質量%未満では,メイク化粧料を肌から浮き出させる効果が乏しくなり,95質量%を超えるとメイク化粧料をなじませた後の洗い流しが困難となる。」,…「…デキストリン脂肪酸エステルの配合量は0.5~5質量%が好ましい。0.5質量%未満では,十分な粘性が得られにくく,5質量%を超えると,透明に溶解することが困難となり,製剤が固くなりすぎる傾向にある。」,…「炭素数8~10の脂肪酸とポリグリセリンのエステルは,本発明のクレンジング用組成物の全組成に対し,1~40%,特に5~25%の範囲で配合するのが好ましい。1%より少ない場合には組成物の洗浄性,水洗性が不充分になり,40%より多い場合は,『流動性が悪く油性液状を保てない』『使用時の肌への刺激等の問題が生じる』などの可能性が考えられる。」,…「…陰イオン界面活性剤の配合量は0.1~1質量%が好ましい。0.1質量%未満では,デキストリン脂肪酸エステルを透明に分散させる効果が得られ難く,1質量%以上では,陰イオン界面活性剤が析出する恐れがある。」と記載されているのであり,これらの記載は,上記配合割合等が好適である理由につき,皮膚が濡れている場合のクレンジング力,透明性,安定性,粘度との関係において説明するものであるから,本件明細書に接した当業者は,本件明細書の上記各記載から,本件各発明における課題(手や顔が濡れた環境下で使用することができる,透明であり,かつ,適度な粘性を有する油性液状クレンジング用組成物を提供すること)が解決されるものと認識することが可能であるものと解される。
したがって,本件各発明は,いわゆるサポート要件を欠くものではな…い。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/335/082335_hanrei.pdf