江戸通りを南へ進む、銀座まで同じコースを戻る
反対車線から、波のようにまだまだランナーが来る。
この辺から歩道側や中央分離帯でストレッチや屈伸をする人が増えてきている。
沿道の人から「冷却スプレーあるわよ~」の声。
それを吹き付けるランナー、安堵の表情でまた走り出す姿…
みんな、まだまだ頑張っている。
「今の痛みは一瞬、ゴールは一生の喜び」
ボードに書かれた文字が目に飛び込んできた。
「うんうん」と頷きつつGoodのポーズで応えた
30kmを超えた!

練習でも30kmしか走っていない。
…独りぼっちの長距離練習は、いつも心が折れる。
ハイペースが原因なのも分っている。今回は抑えている…つもり。
それでも今はカラダが動いている。
ここでエナジージェルを補給!気温の上昇もあり温まっていた…
「うっ!不味いっ!」
味は美味しいけど、温かいゼリーは苦手だった。
この時、眉間にシワを寄せ半泣き顔で走っていたと思う
…2km先の給水所で口の中を濯ぐように水分補給。
32kmの看板通過。残り10km…まだまだカラダは動いている。
銀座中央通りに戻ってきた時
以前、会員だった方のことを思い出した。
その方は2008年の夏、乳がんであることが発覚
術後の経過も良かったのに翌年の7月に急変
リンパから骨まで転移して、最後は苦しまずに亡くなりました。
術後…
『私、ランニング頑張るから…』
「じゃぁ東京マラソンを目標にしましょうよ!僕も出るし!」
『そうね出る!頑張るから指導してよ』
「分りました!けど当たったらの話ですから(笑)」
そんな遣り取りがあったけど叶わなかったEさん。
Eさんが亡くなったのが45歳。今の自分が45歳。
これも何かの巡りあわせかな?
Eさんが沿道にいるんじゃないかと思い歩道ギリギリを走ってみた…
もちろんいない…でも来ているはず!
内気な人だから前にはいないだろうと思いながら沿道を見ていた。
そうこうしていうちに銀座中央通りが終わる。
銀座三越前を左折し築地へ向かう、残り7km。
35km地点の給水所でサプリメントを補給。
練習では30kmを超えるたびに脚が攣りかかったが今日は大丈夫!
作戦は、今のところ成功している。
入船橋を右折する
東京マラソンの醍醐味でもある佃大橋が見えてきた。

35.6km「よしっ!」と気合を入れて駆け上がる。
7~8割方のランナーは歩いているが
「俺は、絶対に歩かない!歩くもんか!」
こんなところで“頑固さ”が出たのは親父の影響かな?
ここではリズムを変えながら腕を大きく振りながら上っていく…
坂が少ない越谷では、陸橋や小さな橋のアップダウンで練習。
これが活かされている。
この坂は唯一沿道の声援が無くなる場所。
上りきるまでは歩道が無い。
そのとき上空から「頑張って~」の声援。
見上げるとマンションのベランダから応援してくれてる。目が合った。
「ありがとうございまーす!」と手を振ると振り返してくれた。
そしてまた「頑張れ~」の声援。嬉しい!
佃大橋を上ると歩道が現れる!左側の歩道から
「頑張れ~」「ラストだ~」「まだまだ行けるぞ~」の声が…。
穏やかだった浅草とは違う大声援!だからって浅草が悪いとは思わない。
その町、その場所、年齢層…色々な応援が心を和ませてくれるから。
ここまで来ると周りの脚が動いていないのが見えてくる。
表情も苦しそう、骨盤が後傾して“もがいて”いる人も…。
そんな自分も明らかに脚が重い、外見では分らないだろう
でも明らかに重くなってきている。
「これがよく言う30kmの壁なのか?」
「でも30km過ぎてるし~呼吸も苦しくないし~まだ行ける!」
こんな時、スーパーポジティブな性格が顔を出す。
佃大橋を下り左折すると晴海通りに入る。
東雲に向かって走る。
真正面から日差しが眩しい、暑くて手袋を外した。
ここは片側5車線の道路…
スタート直後はランナーが多くいる。
銀座周辺は道幅が狭かったのでランナーの足音も聞こえる。
ここからは“ひとり”になった気がした、そう思ったら手が痺れ始めた…
これは想定外!
水分が足りなくなっているのか、肩や首の緊張なのか?
大きく息を吸い込み両肩を上げてストンと落とす。
肩甲骨を寄せてみる。腕を回す色々と試してみた。変化なし。
今日、初めて「ヤバい!」と思った。
そして39km手前の東雲橋
なだらかな坂はであるがちょっと嫌になった。
イオン東雲店を左手に見ながら緩やかな右カーブ
気持ちを切り替えるために青いハチマキ外し、左手に巻き付けた。
「もう一踏ん張り!」
東雲一丁目を右折
中越運送敷地内で女の子達がキレのあるダンスをしている
今の自分にキレはない。
あるのは引きつった笑顔だけ…。
今度は緩やかな左カーブ…「また坂だ!」
なだらかではあるが今の自分の脚には堪える
「上れば、下るんだから…」
ここで、アシックの池田コーチの言葉を思い出した…
「脚が重くなったら一歩一歩スタンプを押すように進むこと」
この時、頭の中で両足が“シャチハタ”になっていた(笑)
この“スタンプ走り”でカラダが少し楽になった!
そして40kmの看板が見えてきた!

これを越えたら最後の給水。
スポーツドリンクを飲み、水で手を濡らし顔を洗う
顔の水滴が口に入る…しょっぱい!
「ラスト~」「もうひと踏ん張り~」「行け~」の声に気合が入る
そんな中「終わっちゃうぞ~良いのか~」の声援?
確かに後2.195kmで終わってしまう…
1秒でも早くゴールしたい気持ちはあるけど
終わってしまうのは悲しい…これも初めての思い。
遠くに有明コロシアムが見えてきた!
徐々に近づく…有明コロシアム東の交差点を左折すると41km
ラストの坂!!
上空には、りんかい線が走っていて道路は日陰になっている…
それでいて向かい風!なんたる仕打ち!
カラダを前傾にし道路しか見なかった。
「だって、この坂長いし…」
そろそろだろうと顔を上げたら半分も上っていない!
「まだ、あるのか!」
もう一度、顎を引いて走りに集中
今度は、平坦になるまで顔は上げない
ここでもスタンプ走りを継続中~
やっと上りきったところで
「都築さ~ん頑張って~」の黄色い声援。
10km地点で応援してくれたスポーツクラブの会員さん達が手を振っている。
「メチャクチャ嬉しかった!!」
後で聞いたが、
「ゴール地点に行こうと思ったけど混雑してそうだから有明にした」
まさにサプライズ!最後のパワーをもらった!

ここから一気に下る。ラスト1km。
もちろんゴールであるビックサイトが見えている。
ゴールへ向かう人の流れも見えている。
東京ビックサイト前の交差点を左折
最後の直線…
沿道の声援が聞こえていない…
声援があるのだが耳に入ってこない
ただただゴールに向かう「4時間切れるのか?」目標でもあったタイムを1秒でも縮めるために。
走っているのに競歩をやっているようなカラダの動き
気持ちは「もっと速く!」なのに最後になってカラダが重い
呼吸が苦しくなったら吐く ことも
腕を大きく振る ことも
何もしない…いや出来ない状態、まさに我武者羅!
【ゴールまで100m】地面に描かれた文字が見えた。
その文字を思いっ切り踏んずけた!
ゴールゲートが右手に見えてきた!
今あるすべての力で走る!
最初に見えたタイムの表示は【4:06:40】
「えっ!?4時間過ぎてる…」力が抜けた。
1秒1秒過ぎていくタイムを見ながら
ゴールゲートが近付く、両手を上げてゴール
【4:07:13】
「あぁ~4時間切れなかった」…この時はそう思っていた。

つづく