日経新聞の経済観念 その3 | 池上秀司のブログ

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日経電子版で毎週火曜日に淡河範明さんという方の住宅ローンに関するコラムがありますが、今週は変動金利に関してでした。変動金利の誤解を学習するには大変役に立つので取り上げてみます。

家計破綻を防ぐ 住宅ローン変動金利との付き合い方

まず変動金利の特徴として以下を挙げておきます。
①変動金利の金利見直しは年2回
②変動金利の返済額の見直しは5年に1回
③変動金利は日銀の金融政策の影響を受ける
④現在日銀は大規模かつ無期限の金融緩和中
⑤日銀が金融政策を行う際は、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもってその理念とする」と日銀法によって規定されている
⑥将来金利は上がるかもしれないが、将来ならば残高は減っている

では、いくつか検証していきます。

筆者は何百人もの方に「住宅購入後、金利を毎月確認できますか?」という問いを投げ掛けてきましたが、「できる」と断言した方は1割程度でした。

これには上記①③④が関係します。変動金利の金利見直しは年に2回しかないので、毎月見る必要はありません。1月~6月返済分の金利は前年10月1日に、7月~12月返済分の金利は4月1日決まります。そして、その基になる日銀の金融政策ですが、現在は「物価上昇率2%を達成するまで金融緩和を継続する」「物価上昇率2%は2015年度中に達成したい」ということです。

日銀が「しばらく金利を上げない」といっているのですから、それをわかっていれば毎月の金利の確認など不要です。将来物価上昇率2%を達成し利上げということになれば、金利の上がる気配のない今ですらこれだけ無駄な騒ぎをしているのですから、普通に生活していれば誰でも気がつきます。現在変動金利で借入中の方は金利の確認の代わりに昼寝でも買い物でもしていればいいでしょう。将来変わっても毎月コロコロ変わるものでもありません。

変動金利を選択する人に多いのが、「変動金利が上がったら固定化すればよい」という考え方です。変動金利が上がった時には、金利を固定化したくなくなるほど固定金利が上昇している可能性が高いことを知っておきましょう。

これは⑥です。将来金利が上がることはあるでしょうが、将来ならば残高が減っています。「変動金利は危険です論者」にはこの観点が欠落しています。3,000万円3%と1,000万円9%では翌月の支払利息は同じ75,000円です。金利上昇の影響は返済が進むにつれて残高が少なくなるので小さくなります。金利だけ見るのではなく「利息・元金・残高」が大切ですが、メディアに登場する専門家(?)はこの話が全くできません。

将来変動金利より固定金利の方が高ければ変動金利のままにしておけばいいだけのことです。その後下がる可能性だってある訳ですし、変動金利が固定金利を越えたらば固定金利に変えればいいでしょう。

一方で、その将来の金利上昇を回避しようと最初から長期固定金利を選択すれば、残高の多い時期に高い金利を選ぶのですから、わざわざ自分から変動金利で将来金利が上がった状態にするということに他なりません。これに一切触れていませんが、世間ではむしろこの選択をした人達が(言葉は悪いですが)損をしているというのが現実です。なぜ、この点には言及しないのでしょうか。

5年特約という激変緩和装置があったとしても、3~4%の金利上昇で毎月返済額は数万円、ひどい時は10万円以上増える可能性があります。

一番ひどいのがここですが、これには②と⑤が関係します。まず、本人も書いている「5年特約」というのは②のこと。多くの変動金利は5年毎の返済額見直しの際、どんなに金利が上昇していても返済額はそれまでの返済額の1.25倍までという規程です。

つまり、毎月の返済額が10万円上昇ということは、前提条件としてそれまで5年間の毎月の返済額が40万円ということになります(40万円×1.25=50万円)。住宅ローン返済が毎月40万円という方は極めて希少。無用な不安を煽るだけです。なにより、そんな返済額の上昇が起こるような金利上昇の有無を考える必要があります。

ですから致命的なのが「3~4%の金利上昇」というところです。これは⑤が関係します。以下は「指標金利」(変動金利の基になる金利:1993年までは長期プライムレート、1994年以降は短期プライムレート)と変動金利の店頭金利です。指標が異なるので1993年までは赤字にしてあります。

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出展:総務省統計局

あくまで過去とはいえ、短期間で4%の金利上昇はありませんし、3%程度上昇したことはありますが極めて短い期間でした。その後金利は下がっています。なによりそれは「バブル絶頂期」の話で、低金利の今、3%、4%の金利上昇というのは、可能性はゼロではありませんが500%ありません。元の記事にはグラフ3というのがありますが「35年の間に1回だけいきなり金利が4%も上昇して、後はそのまま」という10000%あり得ない、なんの役にも立たないグラフです。この手の専門家(?)は変動金利が3%や4%も急上昇すると思っている節がありますが、そんなことはありません。ただの知識不足です。

変動金利はサブプライムローン問題が発生した2007年、2008年頃は今より0.4%しか高くありません。2008年リーマンショック前の日経平均株価は13,000円台でした。現在(2013年11月中旬)は15,000円台と、実はもう当時の日経平均株価を越えています。しかし、金利を上げることはありません。このことからも、過去よりも金利は上がりにくくなっているといえます。

返済額の目安などを出すときに、「3%上がったら」「4%上がったら」ということはあり得ますし、それ自体に問題があるとは思いませんが、それと実際の変動金利の動きは区別する必要があります。これには「日銀」が関わっていて、この記事にはこの観点が完璧に欠落しています(「過去なかったから将来もないとは限らない」という人は、永遠とやっていていください)。

これまで説明してきた通り、変動金利とは家計においてはかく乱要因となりうる存在なのです。

常識で考えればこれは⑤(日銀法第一章第二条)の「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもってその理念とする」という条文により制限されています。「かく乱要因となりうる」とはいい方を変えれば「日銀がコロコロ政策金利を上下させる」といっているようなもの。非常識です。日銀が短期間で金利を乱高下させるという根拠が全く記載されていない(そんなものある訳がない)ので、まともに取り扱うに至りません。

淡河さんは1頁目で

過去のデータを十分に分析せず、他人の意見を疑うことなく受け入れ、金利リスクを負う覚悟をもたないまま変動金利に決めるのは最悪です。

といっていますが、バブル絶頂期でも4%もの金利上昇はなかったというのに過去のデータのどこをどう見たら「変動金利が3%~4%も上がる」という思考になるのか、私には到底理解できません。まずは本人が日銀について理解し直してくるべきではないでしょうか。そもそも11月に入り、今年のゴールデンウィーク前の水準まで長期金利が下がったというのに、そんな大切な過去のデータを伝えず「変動金利の金利が急上昇したいら」などというのは大変的外れで、この記事を鵜呑みにする方がリスクが高く最悪です。

なにより、日経新聞は今年7月14日(日)の1面で「脱デフレ 生みの苦しみ」という見出しをつけ、デフレ克服が困難だという記事を載せておいて、住宅ローンの話になると「金利が3%~4%」も上昇すると平気でいえる経済観念を持っています。このままでは

日本経済(音痴)新聞

といわれても仕方がないでしょう。「家計破綻を防ぐ 住宅ローン変動金利との付き合い方」で大切なのは、「論理破綻をしている日経新聞とは付き合わない」ということになってしまいます。


【参考】
日経新聞の経済観念
日経新聞の経済観念 その2