落とし穴の落とし穴 | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

日経マネーのサイト を見ていたら、「変動金利の3つの落とし穴」という記事がありました。読んでみたところ、その記事には10個の落とし穴があったので、以下に解説します(今日は最初の5つ)。

■落とし穴・その1~3
金利が低いときには固定金利を、金利がピークと思われる時期には変動金利を利用して金利が下がるのを待つ」というのが住宅ローンの基本的な約束事。

⇒ここでの落とし穴は、勝手に約束にしているという点です。そんな約束は誰もしていません。下表は過去の金利推移ですが、金利がピークの1990年に8%台の変動金利を借りることが基本的な約束事になります。そんな約束を誰がしたのでしょうか?理解に苦しみます。この解釈には実際に存在する「長短金利差」が欠落しています。kinri





それに、そもそも「今がピークだ!」と分かる人がいるのでしょうか?これも落とし穴ですし、それが仮に分かったとしても、その後の下降の仕方(急降下するのか、ゆったりと下がるのか)によって返済は大きく変化します。これを一緒くたに考えるのは乱暴です。この点にも触れていませんから、これも落とし穴です。

■落とし穴・その4~5
例えば、3000万円を返済期間は35年・変動金利0.975%で借りると、毎月返済額は約8万4000円で、金利が低いため初回の利息は返済額のうち約3割である。
仮にこのローンの金利が半年ごとに0.25%ずつアップすると、5年経過時、利息は返済額の約8割を占めるようになる。

⇒「半年ごとに0.25%ずつアップ」これは言い換えれば、「今すぐ日本が景気回復し、右肩上がりで日銀が利上げをする」ということです。その根拠は何なのでしょうか?これを主張するならばその根拠を示すべきですが一切その記述はありませんし、今、日経新聞を毎日読んでいてもそういった印象はありません。つまりここでの落とし穴は、「半年ごとに0.25%ずつアップすると、5年経過時、利息は返済額の約8割を占めるようになる」が問題の本質と思っている点です。本当の問題は「半年毎に0.25%ずつアップするか否か」つまり、「金利は上がりっぱなしか否か」です。論点を見誤っています

あくまでも過去の話ですが低金利期から5年間右肩上がりになったことは一度もありませんし、細かくみれば金利は上がったり下がったりしています(その1の表参照)。ちなみに、麻生総理は「景気回復には全治3年。あと2年かかる」とCMで発言しています。同じような感覚の方もいらっしゃるでしょうし、そうでない方もいらっしゃるでしょう。景気回復をもう少し先と考えている人に対しても未来は不確定だからといって、こういう前提条件を押し付けるのはどうかと思います。もちろん、この前提以上に金利が上がる可能性もあります。結局は「各個人がどう考えるか?」です。そして、その借入に対するの責任(利払い)は借主に帰属するのですから、金利(景気)がどうなるかはFPが誘導するものではなく、借主本人が自己責任で判断するものでしょう。ここを勘違いしているFPが多過ぎます。まさに無責任な無法地帯です。

ちなみに、こういった「変動はダメ」という記事では、その対極にある長期固定を借りた場合の具体的数値は掲載されません。これも落とし穴です。長期固定金利を3.3%とした場合、返済額は120,536円。初回の利息は82,500円(変動金利0.975%の場合は返済額84,337円。初回の利息24,375円)。長期固定の利息の割合は最初から約7割、変動金利の返済額に近い額の利息をしばらく支払います。これも大切な数値ですが、こういう数値は一切拝見しません。その理由が分かる方がいたら、ご一報ください。コーヒーご馳走します(笑)

残り5つの落とし穴は次回です。