
「産婆のタネ」中島要 双葉社
好きな作家のひとり、中島要の昨年9月発行の作品
新刊チェックしていたはずなのに見落としてたわ
浅草の札差の娘、お亀久が主人公の人情物(成長物語)
男勝りでお転婆娘のお亀久が十歳の時に食詰め浪人に拐かされる
その場に居合わせた棒手振りの男に助けられ命拾いをしたお亀久だったが、その際男は浪人に斬られ命を落とす
これ以降、見知らぬ男と血を異様なまで恐れ一歩も外へ出られなくなってしまったお亀久
両親は、お亀久の幼馴染で材木問屋の跡取りを娘の婿に貰う話をまとめた
亀久もこの人が許嫁なら物腰も優しく安心できると嫁ぐ日を心待ちにしていたのだが、取引先の紀州で山崩れに遭い許嫁は行方不明に
「自分と関わる人は皆、不幸になってしまう」とまた引きこもったお亀久
尼になる、いや私なんか死んだ方が良いのだと身投げを図ろうとした
これに怒った母親が命の尊さを教えるために「産婆の神様」と呼ばれる「タネ様」の所へお亀久を連れて行く
「血が怖い」お亀久は怯えるが、女が1人で生きて行くことが難しい世の中に希望を見出せずにいたお亀久は、タネ様の「産婆は女の仕事、男の出る幕はない」の言葉に思い切って産婆の住み込み見習いに挑戦する(最初は実家からのお米の援助付きの預かり者)
産婆の仕事やお産を迎える女たちのそれぞれの境遇を知る事で世の中を少しずつ知り成長していくお亀久
世間知らずの娘の目を通して様々な形で訪れる生と死について、産まれること、年老いてゆくことを描いている
中島要作品の主人公は、ぱっとしない十人並みの器量の娘が多い
お亀久も札差のお嬢さんだが、器量の方はぱっとしない
そういう娘が、金持ちの実家という鎧を纏わず生きて行くことを「緩く描いている😝」のでどんでん返し(無いわけではないけど)も無く、人間として少し大人になったお亀久だが、産婆の仕事は見習いのままに話は終わる
産婆の神様のタネと次世代へと引き継ぐ意味のタネを撒くのタネ
中島要作品のこういう終わり方が好きです