ひでごんの独り言&小説みたいなもの -11ページ目

ひでごんの独り言&小説みたいなもの

何か気ままに
書いていこうと思います。

 「ちょっと、涼。どこ行くつもりなの。」

 里香子が、なんとも優しい声で、俺の背中に声をかけてきた。

 「バカンス。」

 「へー。仕事を、ホッポリだして?。」

 里香子が、少しずつ近づいて来るのがわかる。

手に、武器を持ってなければいいが。以前に同じ様な事があったとき、刃渡り20センチほどのナイフを握りしめていたことがあった。

 本当に刺しかねない女である。

まぁ、刺されない自信はあるが。

 「島の別荘で、一人のんびりしてくる。」

 俺は、そそくさとバックに色々詰め込みながら、素っ気なく言ってみた。

諦めるような、女でない。次の手を考えないと。

俺がそう思った瞬間、事務所のドアが静かに開いた。

 とっさに振り返ると、入り口に女が一人立っていた。里香子も、ドアへと向いていた。

腰にまわされた手には、サバイバル・ナイフが握られている。

いったい、どこから出してきたのか。

 この事務所の物では無い。

 本当に、何考えてるんだこの女は。

 俺は、里香子を睨みつけながら、ドアの所にたたずむ女のもとへと歩み寄った。

里香子は、いかにも残念と言わんばかりの表情を浮かべて、自分のデスクへと向かった。

 本気で、脅す気だったようである。

 「ご依頼ですか?。」

 俺は、精一杯の営業スマイルで彼女に尋ねた。

女は、コクリとうなずいた。俺は、ソファーに案内して、向かい側に腰を下ろした。

 線の細い印象の、女であった。しかしながら、その容姿は里香子顔負けである。

里香子が一瞬、「へー」と、言わんばかりの表情を作ったほどだ。

こいつは基本、自分が一番でないと気が済まない方である。

思わず、見とれてしまう。

 いかんいかん。仕事をしないと。

 「えーと。どのような、ご用件でしょうか?。」

 「姉を、探して欲しいんです。」

 消え入るような、か細い声であった。

だがその表情は、真剣そのものである。

 「?」

 この女、どっかで逢ってるな。どこだったか。

顔の、覚えがある。

仕事で逢っているなら、忘れるわけがない。

 プライベートな時間に逢っているのか。それとも、見たことがあるのか。

 「家出人の、捜索ですね。」

 「違うんです。お姉ちゃんが、家出なんてするはず無い。」

 女が、独り言の様につぶやいた。

 「お願いです。警察には父から行くなと言われてしまって。知人に相談したら、こちらを紹介されて。」

 「お父様が、騒ぎになるのを嫌ったんですね。」

 コクリと、返事があった。

娘がいなくなって、世間体でもあるまいに。

そう思った瞬間、思い出した。

 確かこの女、もとい、この女性、国原グループの会長の孫だ。そして、国原製薬の社長令嬢である。

世間体を、気にするわけだ。

 「確か、国原 響子さんですよね。」

 彼女は、驚きもしないで「はい」と、返事をした。一度逢っている。

それを、憶えているのであろう。

逢った場所は、俺の知人の家であった。

 響子は、バックの中から写真と資料らしき物を取りだして、俺に差し出してきた。

 「それが、姉の写真です。それと、私の知る限りの情報が書いてあります。」

 俺は、写真に目をやって、めまいがした。そして、その写真を後ろの方で黙っていた里香子に見える様に上に上げて見せた。

 里香子の表情が、一変した。

それまで、ふてくされたような表情だったのに、満面の笑みになってやがる。

 写真に写っていたのは、先ほど田辺が持ってきた写真に写っていた女であった。

 結局俺は、「ブルーベリー」に、関わる羽目になったようだ。
 ほどなく依頼人が、事務所にやってきた。
少々くたびれた背広を着た、50代後半とおぼしき男であった。
 男は事務所に入ってくるなり、内部をいちべつしてから俺がすすめたソファーに腰を下ろした。眼孔が鋭い。しがないサラリーマンではなさそうであった。
里香子は、どこか憮然とした様子で、椅子にふんぞりあえっている。
なにか酷く、ご機嫌斜めである。
 「久しぶりですね。里香子くん。」
 男が、里香子に対して挨拶をした。
これで解った。男は、里香子のもと同僚だろう。もしかすると、上司か。
里香子は、そっぽを向いている。
 そんな様子を見て男は、苦笑いを浮かべて俺の方へと顔を向けた。
 「申し遅れました。私、田辺 純一といいます。」
 男・田辺がペコリと頭をさげた。すでに目の鋭さは消えていて、どこか人なつっこい表情へと変貌していた。
 「警察の方と、おみうけしましたけど、今日はどのような用件でしょうか。」
 俺は、単刀直入に切り出した。
だいたいに、警察がこんな探偵事務所に仕事を依頼しに来るのである。絶対に、ろくな話でないにきまっている。それでなかったら、自分の女房の浮気調査ぐらいだ。
 田辺は、やおら鞄の中から数枚の写真と綺麗にタイプされた数枚の書類をテーブルの上に広げた。
 俺は、置かれた写真に目を通した。写真には、20代とおぼしき男と女が写っている。
見覚えは、無い。
 「この二人を、探し出してもらいたのですが。二人の資料は、こちらにできうるだけ詳しく書いてあります。」
 俺は置かれた紙を、手にとって内用に目を通した。なるほど、詳しく色々と書いてある。
いや、詳しすぎる。これだけ解っているなら、自分で探せるだろう。
それをしないで、わざわざ俺の所に来た。
 どちらかが、自分の子供か?。それにしても、身内の恥をさらすようなことをするか?。
どう考えても、家出人捜索だ。
 「あのぅ・・・。これだけ解ってるなら、ご自分で探した方がはやくないですか。」
 田辺が、目を光らせた。
 「これは、警察で動けない事案なのです。理由は、言えませんが。まぁ、二人を捜せばその理由は解ると思いますが。」
 田辺は、もったいづけるように一呼吸置いた。
 俺はチラリと里香子の様子を見た。相変わらず、そっぽを見ている。しかしながら、聞き耳をたてているのは解る。微動だにしていない。
 「若者の間で、『ブルーベリー』と、言われている物を知っていますよね。」
 俺は、少しドキリとした。
 『ブルーベリー』とは、ここ数年巷に出回っている合成麻薬の事だ。別名『青の死に神』。
俺は数年前にこれの絡む事件に首を突っ込んで、殺されかけている。そして、里香子と知り合ったのであった。
 「この二人は、『ブルーベリー』に、深く関わっているようなのです。」
 「それなら、なおさら自分で捜査した方がいいんじゃないですか。それとも、どちらかがお身内ですか?。」
 「それは、ありません。」
 田辺は、大きく手を振って見せた。
 警察が動けない理由って何だ?。
探偵に依頼してまで探そうというのに、自分たちでは動けないときたもんだ。
相当やばい話にちがいない。ことわっちまおうかと思っていると「引き受けますわ。」と、突然里香子が声をあげた。
 里香子は立ち上がり、こちらに歩き出していた。
 「おい!。」
 「いいから、黙ってなさい。」
 里香子が、俺の横に腕組みしながら仁王立ちした。
田辺は、ニコリとしながら見上げている。
 「でも、高いですよ。」
 「わかってますよ。」
 田辺はそう言うと、おもむろに鞄から札束をテーブルの上に無造作に置いた。
大きな束が、二つ。二千万だ。これは、いよいよもってやばい。
 「これは、依頼費です。そして、成功報酬として一億用意してあります。」
 これではっきりした。これは、警察からの依頼だ。個人で用意出来る金額でない。
里香子の野郎、かってに返事しやがって。
 俺はまた、殺されかけるのはごめんだぞ。よし。決めた。
この件は里香子に押しつけて、俺は休暇をとろう。そうだ。俺は、今日から休みだ。
 俺は、田辺を見送ってから自分の旅行鞄を取りだした。