百合子の話から、数日がたった。
竜二は、満開の桜を見上げている。
傍らには、冨美子がちょこんと立っていた。
「綺麗だね。」
竜二は、とくに返事もしないまま歩き出した。その後を追う、冨美子。
そして、いつもと違う家路であった。冨美子は、黙ってついて歩いている。やや、うつむきかげんで。
竜二も、同様であった。
どことなく、ぎこちない二人であった。
二人とも、先日の百合子の話のせいで、へんに意識しているのであった。
「ねぇ。どこ行くの?。」
冨美子が、たまりかねて声をかけた。
「公園。」
ぼそりと、返事が返ってきた。
二人のいつもの家路から少し外れた所に、小さな公園がある。竜二は、そこを目指しているようであった。
ほどなく、二人は公園のベンチに座っていた。
「まぁ、こないだのバーの話、どう思う?。」
「え?。なに、急に。」
冨美子は、竜二の顔を覗き込んだ。
「大変だとは思うんだけど、俺、やってみたいんだ。夢みたいなもんかな。」
ここで竜二が、冨美子の方を見た。
ジッと見つめ合う二人。
「でもやるとなると、しばらく東京に修行に行かないとならない。」
「うん。」
胸が締め付けられる、冨美子。
そうである。やるとなれば、お酒の事とかを、どこかで学ばなければならない。
それは、1年ぐらいかそれとも、数年か。それを思うと、胸が苦しかった。
そんなことは、イヤであった。離れたくない。
これからもっと、楽しい思い出を作りたいと、思う冨美子であった。
でも、夢と言われてしまった。
好きな人の、夢。それは、かなえてやりたかった。
自然と、涙があふれ出した。
「おい、何で泣くんだよ。」
冨美子が泣き出した理由が解らず、あたふたする竜二。
そして、ポケットにあったハンカチを取りだし、冨美子に渡した。それを受け取った冨美子は、何度も涙を拭った。
でも、涙は止まらない。
「だって、東京行っちゃうんでしょ。そうなったら、何年も逢えないじゃない。」
やっと、涙の理由を理解した竜二であった。そして、なんともいえない表情になった。
「なぁ、それで、えーと・・・。」
竜二が、口ごもりだした。
冨美子が、涙を拭きながらその様子を見つめた。
「えーとさ。・・・・・・。待っていて、ほしいんだ。帰ってくるの。」
真剣な眼差しで、冨美子を見つめる竜二。それを、真正面から受け止めている、冨美子であった。
「そして、二人で・・・。」
それは、竜二の精一杯の愛の告白だったのかもしれない。
ハッとして、冨美子が立ち上がった。
「ダメ!。」
「ダメって。・・・」
「違う。それ以上、今は言わないで。」
涙は、なんとか止まっていた。
そして、照れくさそうに振り返った。その頬は、紅く染まっていた。
「その続きは、明日聞きたい。ある場所で。」
照れくさそうに、うつむいた。
竜二が一つ、ため息をついた。
そして、「それって、学校の桜の下か?。」と、聞こうと思ってやめた。
冨美子が、百合子から吹き込まれているのは明白である。しかし、竜二は言葉をのんだ。
冨美子がそうしたいと言ってるのだから、そうしてやればいい。
そしてそこで、永遠の愛を告げよう。
そして百合子の思惑通り、伝説になってやろうと竜二は、考えていた。
”それも、良いか。”
「じゃぁ、今日は、帰ろう。」
竜二はそう言うと、すくっと立ち上がり冨美子の傍らに立った。
二人とも、これ以上ないような笑顔であった。
そして、次の日竜二は朝からあくびの連続であった。今日の事を考えると、ほとんど寝られないで朝をむかえていた。
眠気となんとか戦いながら、2時間目をクリアーしたとき、無表情の百合子が、教室に入ってきた。
そして、竜二の席の前に立ち止まった。その顔は、蒼白と化している。
そしてその口から、信じられない言葉が発せられた。
冨美子が、死んだと。