「メグ。こいつ、変だよ。」
エリンが、先ほどとはうってかわり、緊張したような表情をつくった。
「こいつ、人間じゃない。でも、私達とも違う。」
「じゃぁ、何者?。」
メグの目が、氷のような冷たい光を発した。
「わかんない。・・・、嗅いだことの無い臭いがする。」
エリンの表情に、焦りと不安の色がわいてきていた。
3人は、ただにらみ合っていた。お互い、出方をうかがっているのだろう。
夜響も、これ以上ちかずこうとしない。
恵美は、重苦しさを感じていた。もう、どのくらい経ったのだろうか。数分か・・・。
それとも、数時間か。恵美には、解らないでいた。
”私の、前に来い。”
突然、声が聞こえた。聞こえたというより、頭の中に響いた。
あの、幻聴の声だった。
恵美は、かたわらの大木を見た。そこから、聞こえたような気がしていた。
だれかが、いるわけもなかった。
”お前に、力をやろう。その代わり、二度と帰れないぞ。”
恵美は、確信した。木が、しゃべっていると。
普通なら、信じられない事である。木が、喋るなど。しかし恵美は、すんなり受け入れた。
姉の日記を、思い出したからであった。
日記には、こうあった。
『あの木には、心がある。いつも、私に話しをしてくれる。人間の、歴史と愚かさの事を。』
”お前の姉は、わしを受け入れたぞ。”
「やめろ!。」
夜響が、木の言葉をさえぎった。
同時に、その場のパワーバランスが崩れた。いままでにらみ合いが続いていたが、夜響が一瞬目をはなした。
その瞬間、エリンが夜響めがけて一足飛びに間合いをつめてきた。
その右手の指先が、夜響の顔面めがけて、突き立ててきた。
夜響は、それを後ろに跳んでかわす。同時に、メグがエリンの後ろから夜響めがけて、跳んできた。
そして、夜響めがけて横殴りの蹴りをくりだしてきた。
夜響は、それを腕で受け止めたが、鈍い音とともにとばされてしまった。
地面に、頭から転ぶのを防ぎながら夜響は2撃目にそなえた。
ところが、二人は夜響から遠ざかっていった。そしてそのまま、丘から去っていった。
夜響は、追おうともしない。無駄だと、解っているようである。
恵美は、突然の出来事に、呆然としていた。正しくは、何が起こったのか、まるで見えなかったのである。
3人の動きは、それ程のスピードであったのである。
恵美が、夜響の方を見て驚いた。彼の顔からは、血が滴り落ちていた。
エリンの最初の一撃が、当たっていたのである。恵美には、当然そんなことは解らないが。
「血が出てる。」
恵美が、ハンカチを取り出しながら、夜響へと駆け寄っていった。
そして傷口に、そっとあてた。みるみるうちに、ハンカチは紅く染まっていく。
傷口は、意外と深いようであった。
しかし夜響は、けがを気にせずに、ただかたわらの大木を睨み付けていた。
それは、あの二人を睨んでいたときよりも、鋭く冷たい目であった。