「秀と母」 第三章
第54話 気をつけること
2010年12月23日
ついつい買ってしまった石油ストーブ風のファンヒーター
母が家で生活する上で、特に気をつけることが二つあった。
一つ目は、母は薬で免疫力が落ちているので、風邪を引かないように家の中を温かくすること。玄関近くの仏間には石油ストーブ、テレビのある茶の間には電気こたつ、母が寝る部屋には暖房、台所には電気ストーブ。風呂場には父が用意した浴室内マットを敷いた。風呂に入る時はまず先に僕や父が入る。お湯を使って風呂場を温かくした状態で母に入ってもらう。風呂から出ても寒くならないように脱衣所にはファンヒーターを用意した。
家の中で高齢者が注意する場所は風呂場とトイレ。室内との温度差で体調を崩しやすい。トイレにもファンヒーターを、と思って地元の雑貨店で石油ストーブ風のミニファンヒーターを買ったら、サイズが思ったより大きくてトイレ内の置き場所に困った。母から反対される。
「トイレで温風が来るのは何か嫌だから、これやめた方がいいよ」
母の言う通り、使うのを止めた。
次兄が部屋で使っていたミニ電気ストーブがあったので、それをトイレに置いた。石油ストーブ風のミニファンヒーターは買ってすぐ故障したので返品した。
以前に母から注意されたことを思いだす。
「秀郎はこうと決めたら何でも揃えてしまうから」
母を思うあまり、つい先走り買ってしまった。なんでも買いそろえると母を心配させてしまうので気をつけないといけない。
そんなこんなあったが、ひとまずはこれで家の中すべての温度差対策は万全だ。
気をつけること二つ目は、母がゆっくりと眠れる環境を作ること。わが家の一番奥にある次兄の部屋に、母が寝起きするベッドを置くことが出来た。想定通り、静かな部屋で良かった。
以前は玄関先の仏間で父と寝ていた母。玄関は人の出入りが多いので気が休まらない。母を心配して訪ねて来てくれる人たちの気持ちはありがたいが、母も自分の病状を話したくなかった。近所の仲の良い人たちとでさえも、顔を合わせたくない様子だった。弱っている自分を見られるのは嫌だったのだと思う。
しかも、隣の家の犬がよく鳴いてうるさいので、玄関先の仏間で寝るとそれだけでストレスが溜まってしまう。精神的によくない。やはり奥の部屋で静かに休めて良かった。ベッドは寝たり起きたりが楽だし、体が疲れた時は気軽に横になって休める。これで母がゆっくり休める対策も万全だ。
どこかへ出かける時は奥の部屋へ行き、母に声をかけてから出かける。
「お母さん、ちょっと生協へ買い物に行ってくるね」
「いってらっしゃい」
「ゆっくり休んでね」
「ありがとう」
母とこうして普通に話せることが嬉しい。
どこへ出かけるにしても、早く帰って母と一緒にいよう。父も兄たちもみんな同じ気持ちだった。
これからも父や兄たちと相談して、出来ることは何でもどんどんやっていこう。限られた時間の中で。すべては母のために。


