ちょっとだけ“秀でた世界” -37ページ目

ちょっとだけ“秀でた世界”

マニアックでちょっぴりディープな世界をジョジョに奇妙なお届け♪

「秀と母」 

第二章 第52話 お母さん、お帰り

 

 母の退院の日までに、家での生活を想定して準備を進めて来た。大事なのは母がゆっくりと休める場所を確保すること。静かに眠れる場所は、母が今まで寝ていた玄関先の仏間の部屋よりも、家の奥にある次兄の部屋が良い。

 

 母と次兄が一緒の部屋で寝る案を次兄に相談すると、二つ返事で気分良く了承してくれた。

 

 

 次に考えたことは、母は今まで布団を敷いて寝ていたが、寝たり起きたりする時に負担がかかる。疲れた時にすぐ横になれるように、ベッドの購入を決めて母にも了承を得た。

 

 

 その次は部屋にベッドを置く場所をどう作るか。みんなで話し合った結果、本棚を処分して、さらに次兄が長年使って来た机を処分する必要があった。

 予想以上の短期間に、次兄は一生懸命に部屋の片づけをしてくれた。そして次兄と一緒に本棚を運び、洋服ダンスを移動して、机を運んで、これでベッドの置き場所を確保できた。あとは母の退院までにベッドが届くのを待つだけ。

 

 

 次兄が長年使って来た机を処分することに申し訳ない思いでいた。

「ごめんね。机を処分することになって・・・」

「いいんだよ。もうどうせ使ってないし。今は物置場所になっているようなもんだから。それにお母さんのためなら机なんてどうでもいいよ」

 母のためならどんなことでも。みんなが同じ気持ちで嬉しい。それだけに次兄の言葉に感動して感謝した。

 

 

 しかし、母は自分のために次兄が部屋の机や物を捨てることに胸を痛めて、ベッド導入をためらっていた。

「お母さんのために机を処分したり、あれだけの物の片付けをするのは大変だよ。そのことを考えたら胸が苦しくなってきちゃったから・・・。悪いから、やっぱりベッドは辞めるよ。キャンセルしてもらえる?」

 僕は次兄の母への思いと父や長兄みんなの気持ちを伝えた。

「お母さんにゆっくりと休んでもらえるよう、みんなで相談して決めたことだからさ。心配しないで大丈夫だよ」

「でも、悪いよ」

「大丈夫だよ。とにかくまずは家でゆっくり休んで、体調良くなってほしいから」

 何とか母に納得してもらえるよう話を続けるうちに、ようやく受け入れてくれた。

「みんなに迷惑かけて悪いね」

「全然大丈夫。みんなお母さんのことを思っているんだから。安心して」

 すると、母から前向きな言葉も出て来た。

「体調が安定したらベッド使わなくなるし。そのまま(次兄に)使ってもらえば良いよね?」

「そうだよ、お母さん。(次兄が)酔ったり遅く帰って来ても、布団を敷かずにベッドにすぐゴロンと寝られるし。お母さん、それ良いね。それで行こう!」

 母に分かってもらえてホッとした。

 12月27日にベッドが届いた。大きさも高さもちょうど良い。

――これなら安心だ。

 

 

2010年12月29日

 母の退院の日が来た。長兄も群馬から車で駆けつけてくれた。

――みんなでお母さんを迎えに行こう。

 朝一番で病室へ着くと、母は既に着替えを済ませ、荷物をまとめて準備完了。

「お母さん、準備早いね」

 思わず笑う母と僕たち。そこへ主治医のI先生、H先生、F先生が来てくれた。お礼のご挨拶をして病院を出る。

 

 

 病院の温かい部屋にずっといた母。久々に当たる外の空気が冷たくないか心配だったので、長兄に病院の玄関先まで車を回してもらった。

 母を北風から守るようにみんなで壁になり、大事に誘導して車に乗せた。

 長兄が母にひざ掛けを渡した。母の足が冷えないように用意してくれたのだ。そんな長兄の優しさが嬉しい。

「ありがとう」

 母も笑顔で喜んだ。

 

 

 病院を後にして、ゆっくりと走り出す。

 晴れやかな日差しの中、家族五人がそろった車内は嬉しさに満ちていた。ようやく母を家に連れて帰れる。

――こんなに嬉しいことはない。

 母もとても嬉しそうだ。

 

 

 わが家へ到着すると、次兄が先に降りて玄関を開ける。僕は母を連れて玄関までゆっくり歩く。

「お母さん、大丈夫?」

「大丈夫だよ」

 ゆっくりながらも一歩ずつ着実に歩ける。退院前に頑張ってリハビリを行ってきた成果が出て良かった。

 

 

 玄関に入って家に上がるとホッと安堵の表情の母。すぐに父が石油ストーブをつけてくれる。早速、母に奥の部屋のベッドを見せると、座って高さや感触を確かめた。

「お母さん、疲れたらすぐ横になれるから良いでしょ?いつでも休んでね」

「ありがとう」

 

 

 母は茶の間へ移り、低い椅子に座り、足をこたつに入れる。家に帰ることができて嬉しい母の笑顔。僕らもとても嬉しい。

「お母さん、お昼はサンドイッチで良い?」

 買い出しに行く次兄。

「お母さん、お茶を飲みますか?」

 お湯を沸かす父。

 

 母が帰って来たら家の中が明るく活気づいた。みんな母のために何でもしてあげたいという気持ちが伝わって来る。

――お母さん、お帰り。みんながお母さんの帰りを待っていたよ。ほんと嬉しいよ。みんなでゆっくり過ごそうね。

 

 

 

 

 

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「秀と母」は下記の「カクヨム」にて

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どうぞよろしくお願いいたします

 

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「秀と母」 

第二章 第51話 良かった

 

 

 母の退院の日が決まった。12月28日か29日どちらでも選べる。

 一日も早く帰って来てほしかったが、母は29日を選んだ。それはもしもの体調不良に備え、年明けの通院日までの間を短くして、年内ぎりぎりまで病院で体調を安定させてから、年末年始を家で良好に過ごせるようにという母の考えだった。いずれにせよ母の退院が決まって本当に嬉しい。

「お母さん、大晦日は家でゆっくり過ごせるね」

「でも、秀郎(ひでお)たちは年末に出かけちゃうでしょ?」

 母は寂しそうに言った。

 

 

 ここ数年、毎年大晦日は次兄と一緒に埼玉へ格闘技イベントを観に出かけていたので、年越しは家にいない年が続いていた。

「大晦日の格闘技?行かないよ。行くわけないよ~!お母さんが帰って来るのに。大晦日はみんなで家にいるから安心して」

「良かった」

 母の安堵の表情。

 

 

 最後になるかもしれない年末年始を、家族みんなで過ごしたいと思っているのは母も僕らも一緒。もちろん、出かけるわけがない。母と一緒に大切な時間をゆっくりと過ごしたい。

 

 ここ数年は家族がそろわない大晦日が続いていたが、今年は母の病のこともあって、久々に家族そろっての年越しになる。母と過ごせる大晦日を、お正月を想像しただけで気分がわくわく嬉しくなってくる。

 

 

 母と家で過ごせるということがこんなに嬉しいとは、一年前までなら想像もできなかった。当たり前のように何気なく過ごして来た家族そろっての日々が、実はこんなにも幸せなことだったのだとあらためて気づく。

――お母さん、あとほんの数日で退院だよ。良かったね。嬉しいね。

 

 

 今でも「良かった」と言った母の安堵の顔が忘れられない。

 

 

 

 

 

 

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「秀と母」 

第二章 第50話 クリスマス

 

東急ハンズ池袋店で買ったクリスマスリースとミニサンタ3体。

病院のベッドへ飾り付けた。

 

 

 

 毎年クリスマスになると近所のお気に入りの鳥屋さんで鶏もも肉を買い、母が唐揚げやチューリップを揚げて、肉団子まで作ってくれた。お寿司を握ってくれたり、時にちらし寿司を作ってくれたり。母の料理はとても美味しくて大好きだった。

 

 

 子供の頃は、生協で買ったシャンメリー(ノンアルコール)をグラスに注いで大人の気分で乾杯。母の作る特製ポテトサラダは濃厚で美味しく、みんなでモリモリ食べた。そして焼いた鶏もも肉の登場。鳥屋さん特製のタレをかけて食べる。お肉やわらかくタレが絡んで大好きな美味しさ。母がクリスマス準備に忙しいので、代わりに鳥屋さんへお使いに行くと、お駄賃代わりに鶏もも肉をもう一本買って帰る。毎年、僕は二本食べられた。

 

 

 デザートはゼリーにみかんの缶詰とバナナやサクランボを乗せ、綺麗なピンクのガラス容器に入れて冷蔵庫で冷やして食べた。これまた美味しい。誕生日やクリスマスの時に作ってくれるデザートだった。

 

 食後はクリスマスケーキをみんなで食べる。ささやかでも家族そろってのクリスマスは楽しく美味しくお腹いっぱいで幸せだった。

「お母さん、ごちそうさま。凄く美味しかったよ」

「そう?良かった」

 照れて喜ぶ母。

「みんなが『美味しい、美味しい』って言ってくれるのが一番嬉しいんですよ」

 母は照れると敬語になる。

「だって本当に美味しいよ」

「ありがとうございます。良かった」

 照れながら笑顔で喜ぶ母。

 次兄が言う。

「お母さんの料理は本当に美味しいから、お店でもやれば良いのに」

「それはないない」

 笑って謙遜する。でも本当に母の料理は美味しい。まさに母の味は自分の舌に合う。父の話によると、母は結婚当初は料理ができなくて、一生懸命に料理の勉強をしてかなり努力して頑張っていたという。家族みんなのために。僕らがテレビに夢中になっている時も、母は食後の後片付けに大忙しだった。感謝の気持ちでいっぱいになる。

 

 

 毎年クリスマスが近づくと、子供時代のプレゼント話で母と盛り上がる。欲しい物を紙に書いて枕元に置く。夜中に目が覚めると既にプレゼントが置いてある。欲しかった超合金の合体ロボおもちゃに大興奮して、朝までよく眠れなかったことを思い出す。父と母は子供たちにプレゼントが見つからないように、あの手この手で家の中のどこかに「隠すのが大変だった」と笑う母。そういう親の優しさが嬉しかった。

 

 たくさんの楽しみがあった家族のクリスマス。大人になってプレゼントをもらう楽しみはなくなったが、母の手料理を食べるのがとても楽しみだった。

 

 

 今まで僕らにしてくれたことを思うと、病院でクリスマスを過ごす母に、せめてケーキを食べさせてあげたいと思っていたら、25日のお昼にイチゴのショートケーキが出ると休憩室の献立メニューで知った。病院の配慮がとてもありがたい。

――お母さん、喜ぶだろうなぁ。

 嬉しくて母に言ってあげたかったが、サプライズで喜んでもらいたいということで内緒にした。母の喜ぶ顔を思い浮かべると嬉しくなってくる。

 僕ら家族も母に何かクリスマスプレゼントをしてあげたかった。

「ベッドの周りに飾り付けをしよう」

 次兄と池袋の東急ハンズへ向かった。

 

 

 東急ハンズのクリスマスコーナーには、たくさんのキラキラした飾りが売られていた。病室に飾ってもあまり派手すぎず大きすぎず、それでいてちゃんとクリスマス気分を味わえる飾りを探す。ツリーは鉢植えで「根付く(寝付く)」という意味になってしまうので買わず、ミニサイズのリースを見つけた。小さいミニサンタ三体セットも購入。ちょうど僕ら三兄弟と同じ数で良い。早速、病院の母の元へ。

 

 

「お母さん、クリスマスの飾り付け持って来たよ」

「え~?飾りは目立つから、やらないでいいのに・・・」

 母は恥ずかしがった。

「まぁまぁまぁ、せっかくのクリスマスだしさ」

 そう言いながら次兄と飾り付け始める。枕元にミニリースを飾り、ベッドの両サイドにミニサンタ三体を飾ると、

「他の人は飾ってないから、いいのに」

 どうにも恥ずかしがる母。

「25日過ぎたら取るからさ。ね、それまで」

 半ば強引に飾り付けすると、仕方ないという感じで微笑む母。

 

 

 2010年12月25日

 夕方、病院へ行くと母が笑いながら嬉しそうに話す。

「看護婦さんが『素敵な飾りですね。優しい息子さんですね』と言っていたよ」

「そっか。良かった」

「今日はお昼にクリスマスケーキが出たよ」

「ケーキ出たんだ?凄いね!美味しかった?」

「美味しかったよ」

「完食?」

「うん」

「良かったね」

 

 

 母がケーキを食べられてとても嬉しかった。母の喜ぶ顔を見てまた嬉しくなる。あらためて病院の優しい配慮に感謝。

 帰る時はいつもの「イェーイ!」に「メリークリスマス♪」をプラスして、いつものピースから親指グーとハグのスキンシップ。

――これが母と最期のクリスマスになるかもしれない。

 それでも母と一緒に過ごせて嬉しかった。

 

 

 幼い頃のクリスマスを思い出す。母がクリスマスツリーに電飾を付けて、雪のイメージで綿を薄くちぎってツリーに乗せていく。狭い玄関の靴棚の上にツリーを乗せる母を見上げる。

 コンセントを挿すと電飾が赤青黄とピッカピッカとゆっくり光る。ワクワクした。母は夜の料理の準備を始める。唐揚げの仕込み、お酢のご飯を混ぜ、ポテサラを作り、肉団子を作り、デザートのゼリーを冷やす。母が一生懸命に作ってくれた姿を覚えている。こういう何気ない出来事が、実はとても大切な思い出だったりする。

 

 

 今まで、母が頑張ってくれたおかげで、家族みんなが美味しく楽しいクリスマスを過ごせて来た。家族を大切に想う母の思いやりが何よりのクリスマスプレゼントだった。母に心から感謝。

 

 

 母とのクリスマスの思い出を大切に。

 

 

 

 

 

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