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ちょっとだけ“秀でた世界”

マニアックでちょっぴりディープな世界をジョジョに奇妙なお届け♪

「秀と母」 第三章 

第66話 からたちの花

 

母に教えてもらった「からたちの花」

 

 

 母が家に帰って来てから、録画した「BS日本・こころの歌」を見せ、コーラスユニット「フォレスタ」の歌をよく聴いていた。母の好きな文部省唱歌や童謡をたくさん歌ってくれる。母はよく口ずさんだ。歌うと声が高くなるのが母の特徴。

 

 男性フォレスタが歌う「箱根八里」が大好きで何回も再生した。

 番組では花に関する歌もあった。女性フォレスタの中安千晶さんが歌った「からたちの花」である。作詞は北原白秋、作曲は山田耕作。数々の名曲を作った素晴らしいゴールデンコンビ。歌詞も曲も優しく温かく安心感を感じる良い歌。

 

 実際の「からたちの花」が、どんな花なのか知らなくて気になっていた。お花博士の母が入院中の時から聞いていた。

「お母さん、からたちの花って良い歌だね。どんな花なの?」

「家に本(花図鑑)があるから、退院したら見せてあげる」

 その約束を楽しみにしていた。

 

 2011年1月

 退院してから約一週間を過ぎたある日の午後。

秀郎ひでお、これがからたちの花だよ」

 母が花図鑑を開いて見せてくれた。約束を覚えていてくれて嬉しかった。白く可愛い品のある花。まさにあの歌「からたちの花」から感じる清潔感が溢れる可憐な花だ。

「お母さん、ありがとう。凄く可愛い花だね」

「そうでしょう。可愛いよね」

 母と並んでからたちの花の写真を眺める。久しぶりに母と花の話がゆっくりとできて嬉しかった。

 

「BS日本・こころの歌」2009年のコンサートのゲストは「安田姉妹」で、姉の安田祥子さん(妹は由紀さおりさん)が「からたちの花」を歌った。

 母は安田祥子さんの伸びやかな歌声が大好きで、この歌を聴くたびに喜んだ。

 

 「からたちの花」を聴くと母を思い出す。

 

 

 

 

 

 

「秀と母」 第三章 

第65話 励ましの来訪

 

 

 母の妹(叔母)の娘であり、僕にとって従姉の「あっちゃん」が来てくれた。あっちゃんは明るく優しいお姉さん。母のことが大好きで、いつも「おばちゃん」と愛着を持って呼んでくれた。母が余命宣告を受けてから、静岡の親戚みんなと同じように母のことをいつも気にかけてくれた。

 

 

 お正月には「近くまで来たので、年始のご挨拶でおばちゃんに会いに行ってもいいですか?」と、ご主人と一緒に家まで訪ねて来てくれた。

 あっちゃんの母(叔母)は静岡に住む。叔母の代わりに娘のあっちゃんが母の様子を見にきてくれたように思う。何せあっちゃんは東京都内に住んでいるので、いつでも来られる。

 

 

 あっちゃんは母に会うととても喜んだ。母もあっちゃんの素直な想いが嬉しかったようだ。病のことには触れず、母の体調を気遣ってくれた。言葉に出さなくても、会いに来てくれただけで母も励まされた。

「おばちゃんに会いたいから、また来ても良い?」

「そんな何度も来てくれなくて大丈夫だよ」

 と、笑う母。

 いつも母を想ってくれるあっちゃんの優しさが嬉しい。

――あっちゃん、また会いに来てね。

 

 

 母に会いにわが家まで来てくれた人たち、病院まで来てくれた人たち、遠くから祈ってくれる人たち。みんなが母を大切に想ってくれる。その優しさに心から感謝した。

 僕たち家族もまた一段と母を励まし支えていきたい。

 

 

 一日でも長く母と過ごせますように。

 

 

 

 

 

 

「秀と母」 第三章 

第64話 母のやりがい

 

 

 母には家でゆっくりしてもらいたい。今までぼくら家族のために、たった一人で頑張ってくれたのだから。僕と父が家事をして母を休ませた。でも僕らが心配しすぎて何にもさせないのは母が気にすると思い、食後の洗い物をたまに頼んだ。さすが母は経験が違う。比べものにならないぐらい洗い物のスピードが速い。

 僕が洗い物をするやり方も見てもらい、アドバイスをお願いする。

「水を使いすぎだよ。やってもらっているから言えないけど」

 と、笑う母。

 

 洗い方は人によって違うと思うが、僕はすべての食器を洗って積み重ねていき、すべて流し終わってから拭く。洗い物が多い時は、台所の指定席に座る母の背後に置かれた籠がたくさんの食器で積み重なっていく。何度も振り返り、気にする母。

秀郎ひでおの積み方は凄いね。崩れてきちゃうから、お母さんが拭くよ」

 笑いながら立ち上がる母。

 母と一緒に並んで流し台に立つ。僕が洗ったものを母が拭く。一緒に家事をやれる嬉しさ。優しい時間が流れる。

 

 母が「洗うよ」と言ってくれた時は「疲れたらすぐ代わるからね」と声をかける。

 洗い物を始める母。しばらくして、

「秀郎、やっぱり、やってくれる?」

 元気なく微笑む母。

「うん、やるよ。休んでいて」

 選手交代。母は疲れが出やすくなっていた。家事はやりたい時だけ、無理せずやらせてあげたい。

 

 ある時、茶の間のこたつで横になる母が言った。

「私は何にもしないで、このままでいいのかなぁ?」

 元気なく落ち込む母。

「いいんだよ、疲れちゃうし。お母さんはゆっくりしていればいいんだから」

 励ますように言うと、「うん・・・」と言葉少なくなった。

 

 健康だった時とは違う状況に、母自身も歯がゆさを感じているようだった。今までずっと家事をやってきた人だから、何か一つでも家事をやりたいのだ。洗濯、掃除、買い物から片付けなど、僕らが分担でこなしているので、何もやらなくていいことが返って悩みになっていたようだ。それはそうだ。母からしたら、全部やってくれるのはありがたいけど、自分でできることを何かやりたいと思っていたはず。

 

 やりがいがなくて母が寂しい思いをするのは良くない。母のやりがいを大切にしよう。体力を使わずに、何か指先を使うような家事はないかと考える。

「お母さん、洗い物とか立ち仕事は疲れちゃうから、洗濯物のたたみをお願いしていい?」

 母が落ち込まないように、きちんとした理由で上手く話して、気分よく家事をやらせてあげたい。もちろん、疲れたらすぐ休んでもらう。

 衣類やタオルなど、たたんでもらうと、さすが母。上手で綺麗なたたみ方。

「お母さん、やっぱり上手いね!」

「これも慣れですよ。慣れ」

 照れるといつも敬語になる母。

 

 母が少しでも家事が出来て良かった。これで母の気持ちも少しは落ち着くだろう。日常生活を普通に過ごせるよう、これからも僕ら家族で出来る限りサポートしていきたい。

 以前の生活では考えられなかった、母と一緒に家事ができる幸せ。

 

 いつまでも一緒に家事ができますように。