


「秀と母」 第三章
第67話 母の味噌汁と父の味噌汁
母が入院してからは料理をする人がいなかったので、父が食事の支度をしてくれた。ご飯を炊いてお惣菜を買う。お味噌汁はインスタントで。週末はよく外食をした。
母が退院してからも、父が食事の支度をしてくれたので助かった。何か料理をする時は、台所に立つ父の隣で母がアドバイスをしていた。
父の上達が凄かったのがお味噌汁だ。最初は味が薄かったり、上手く煮えていなかったり、大根が硬かったりして、お世辞にも美味しいとは言えなかった。母が作った時との味の差が出て、どちらが作ったか分かるが、ついつい確認したくなる。
「今日のお味噌汁はお母さんが作ったの?」
「そうだよ」
「うん、美味しい」
退院後も衰えていない母の味。母がお味噌汁を作ってくれる幸せ。本当にありがたい。父も一生懸命にお味噌汁を作ってくれる。本来なら僕や兄たちがやらなければいけないことだが、母のために父が頑張って作ってくれている。だから、味付けについて、ああしてこうしてと注文は言えない。
ところが、母がアドバイスをするようになってから、だんだんとお味噌汁の味が変わって来た。父の努力の成果が表れて、ここ最近の短期間で美味しくなって来た。味付けもしっかりしてきて、コクも出て来た。
「今日のお味噌汁はどっちが作ったの?」
「お父さんだよ。どっちかもう分からないくらいでしょ?お父さん上手になったよ。私が作らなくても大丈夫だよ」
そう言って笑う母。
「いやいや全然まだまだですよ」
と、照れる父。
確かに母が作った時と変わらないような味になってきた。しかし、お味噌汁というのは、いつも味が安定しないもの。味が落ちる微妙な時もあるが、明らかに以前より美味しいお味噌汁を作れるようになった父は凄い。しかし、これで母が作らなくて済むようになると思うと寂しくもあった。まだまだ母にはお味噌汁を作ってほしい。
明日も明後日も、これからもずっと美味しいお味噌汁を。