「秀と母」 第四章
第85話 受け止めきれないこと
母がCTを撮りに行っている間に父が病院へ到着した。母は検査で30分ぐらい戻って来ないというので、休憩室で母の状態を父に説明した。
父と話をしてから病室に戻る。少し待つと、母が移動用ベッドに乗って戻って来た。病室のベッドに移るが、看護師さんに手助けしてもらえても大変だった。
――ひとりでは起きたりできないほど弱っている・・・。
見ていて辛い。父も心配そうに母のそばに座って見守る。
小一時間ほどして、兄たちの到着がまだか連絡を取ろうと廊下へ出ると、主治医のI先生が来た。
「お話しがあるので、ちょっといいですか?」
父を呼んで、I先生の後をついて行く。嫌な予感しかしない。こういう時に家族が呼ばれる場合、まず良い話はない。
――何を言われるのだろう・・・。
不安で不安でたまらない。父も同じ心境だった。不安な気持ちのまま、小さな個室へ入る。
I先生がパソコンで母の検査データを呼び出す。
「レントゲンとCTの結果を見てもらいたいのですが。このように胸水が溜まって肺炎を起こしています」
胸のレントゲン写真に白い影が大きく写っている。
「胸水を抜くことはできないんですか?」
父に代わって質問した。
「抜いてもまたすぐ増えてきます。痛い思いをするだけです。薬で抑えることは出来るのですが・・・」
「薬でお願いします」
「その薬のことなのですが・・・肺炎を治療するためには、白血病の治療を止めないとできません。しかし、白血病の治療を止めると白血球が急増して体調が悪化します。白血病を治療するためには、肺炎の治療を止めなければなりません。肺炎の治療を止めると、肺炎が一気に進行して呼吸困難になってしまいます」
――え?それって、もう他に治す方法がないということ・・・?
「何か方法はないのですか?」
「本来なら、まずは先に肺炎の治療をして、安定したら次に白血病の治療をする方法が良いのです。でも、今の浅賀さんの体力の状態では、白血病の治療を一旦止めるのも難しい状況です」
「どうしたらいいんですか?」
「どちらを優先に治療するか、ご家族に決めていただきたいのです」
苦しい選択を迫られることになった。
――そう言われても、俺とお父さんの二人だけでは決められない。お母さんの命がかかっているのだから・・・。
「なんとか同時に治療できないですか?」
沈黙するI先生。
――打つ手なし?もう助からない?・・・何とかしてほしい!
「何とかなりませんか?お願いします!」
父と一緒に頭を下げて必死にお願いをした。
――とにかく、なんとかお母さんを助けてほしい!
「お願いします!」
考え込んでいたI先生が重い口を開く。
「分かりました。肺炎と白血病の治療をバランス取りながら、どちらの薬も投入してやってみます」
「ありがとうございます!宜しくお願いします!」
僕も父もひたすら頭を下げてお願いをした。
予想以上に重く厳しい現状を知った。先生にお願いしてみたが、もうどうにもならない状況になってきたのが分かる。父と二人の時は、いつも心に大きなダメージを受けることを告げられる。精神的にきついことを。
――とてもじゃないが、俺とお父さんだけでは受け止めきれない・・・。
こういう困った時に、いつも相談に乗ってくれた母が病に倒れた。母のことを母に相談はできない。
母の命を助けるために、どうするべきなのか?兄たちの到着を待つ。
――早く来てほしい!早く!
寂しく切なく。こんな時は家族みんなで一緒にいたい。








